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悪役令嬢扱いの私、その後嫁いだ英雄様がかなりの熱血漢でなんだか幸せになれました。

作者: 下菊みこと

サンティエ・リュクス・シュブリマシオン。公爵家の長女として生きてきた彼女は、ある時全てを失った。


「まさかこんなことになるなんて…一体どうして…聖女様には苦言を呈することさえ許されないの?」


聖女ルカ。異世界から召喚された彼女は、奇跡の力を使い沢山の人を癒して人気を集めた。


サンティエはルカに感謝している。流行病から国を救うためだけに異世界から理不尽に召喚され、帰る道すら残されていないのにこの国のために尽くしてくれる彼女は正に聖女。


しかし彼女が婚約者のいる高位貴族の御令息達を手当たり次第誘惑している点に関してはさすがにキレていた。あまりにも節操がないと。そしてその誘惑に乗る彼ら男性陣にも責任はあると思っている。


「私はただ、ルカ様にもその誘いに乗る殿方にもいい加減にしておけと言っただけなのに…」


サンティエはルカに会う機会があれば、その度にお説教をした。それは冷静に見れば至極真っ当な指摘であり、本来なら責められる謂れはない。ルカの誘惑に乗る御令息達にも色々忠告していた。それは相手を思っての優しさだった。


しかしサンティエはやがて、聖女の嘘に騙された弟と婚約者に断罪された。彼女は聖女を傷つけたというあらぬ罪で王太子である彼との婚約を破棄された。もちろん両親はサンティエの味方だったし、聖女に誘惑され姉を断罪した弟を叱りつけたが、婚約破棄は立場上どうしようもなかった。


「彼も弟も私の言い分は聞いてくれなかった。どうして…どうして長年一緒にいた私より、嘘つきな聖女様を信じるの?」


そして、騒動が落ち着いた頃。王太子と聖女であるルカの二人が結婚し、聖女が王太子妃となることになった。誰もが二人を祝福した。


一方でサンティエは悪者扱いで傷物扱い。もちろんサンティエに理解を示してくれる貴族女性はたくさんいたがそれだけだった。


「虚しい…こんな気持ちのまま、新たな婚約まで決まってしまうなんて…」


そんなサンティエは、王太子との婚約破棄において有責だったため両親に多額の慰謝料を払ってもらっていた。その分のお金を取り戻すべくサンティエにも新たな婚約が決まった。若くして英雄と讃えられるも、怪我により早々と冒険者業を引退した元伝説の冒険者が相手だった。


成金の平民との結婚。しかしその分、家に結納金は多く入る。払ってもらった慰謝料分は確保できる。それに、一応今では一代限りとはいえ伯爵位も賜っている男だ。お金もある相手なので、体裁はなんとか保てる。むしろ下手な他の貴族に嫁ぐより苦労は少ないだろう。


「でも、この王都から離れられるのは良いのかもしれない。たしか、英雄様は田舎に隠居されているはず」


そう思うと、サンティエは少し救われた気持ちになった。


そして二人は婚約が決まって割とすぐに婚姻届を出した。お互いその場で初めて婚約者に会うことになった。結婚式はサンティエの意向で小さな規模のものにした。


「婚約者殿…いや、我が妻よ!よく来てくれた!領地すら持たぬ一代限りの伯爵である俺だが、貴女の事は責任を持って幸せにすると誓おう!」


「え。ええ…ありがとうございます…?」


「うむ、よろしく頼む!」


「こちらこそよろしくお願いします…」


あまりにもテンションの高い…というか、熱血な感じの夫にびっくりするサンティエ。だが、そんな夫の誠実さと優しさ、そして情熱は冷え切ったサンティエの心をほぐし温めてくれた。


「我が妻よ、今日も貴女の作る料理は美味しいな!」


「ふふ、ありがとうございます」


サンティエの夫は故郷でもある田舎…というか限界集落の古民家で隠居生活を送っている。なのでお手伝いさんも雇っていない。見栄を張る相手もいないし、住み込みでこんな田舎に来たがる働き手もいないのだ。


だからサンティエは、慣れないながら家事を頑張っている。もちろん貴族の御息女であったサンティエには経験も知識もなかったが、優秀なサンティエは一度夫から教わればすぐに家事を覚えた。料理のレシピ本だけは買ってもらったが。


「貴女と結婚できて本当に良かった!みんな俺なんかがこんな良い女性を嫁にもらってとうるさくてな。みんなからこんなに好かれるなんて、貴女は本当にすごい人だ」


「そんな、旦那様のおかげです」


「いや、貴女でなければきっとここまで歓迎はされなかった」


「そうでしょうか?」


「ああ、自慢の妻だ!」


サンティエはこの集落で愛される夫の存在のおかげもあって、ご近所さんともかなり仲がいい。この集落はその性質上、余所者には冷たいのだがサンティエは集落出身の元英雄の妻である。またサンティエ自身も善良な性格だ。結果周り全てから愛される環境となり、サンティエは元の明るさを取り戻していた。


ちなみに、サンティエには当然のように夫からある程度のお小遣いが渡される。しかしサンティエは、贅沢はしない。もう、貴族として見栄を張る必要すらないのだから。ここで穏やかな生活を送るためだけに使おうと決めていた。


「さて、今日も勉強会の日ね!頑張るわよ!」


サンティエは週に一度、勉強会を開いている。大人も子供も集まって、読み書き計算やその他諸々の知識を身につけるのだ。本来ならこの集落でそんなもの必要か?と疑問の声も上がったが、あくまでも自由参加だし、さまざまな取引の際商人に騙されないためだと言えば理解された。


結果さまざまな知識の身についた子供達は、なんと王都にあるかなり良い学校の入学試験に全員合格した。そして学費は全部サンティエが肩代わりして払った。集落に住む者は全員サンティエの献身に感謝した。そしてそれに尊敬する。


そのサンティエの行動を王都で子供達から伝え聞いた多くの人間も、あれだけサンティエを貶しておきながら今度は掌を返して賞賛の言葉を贈った。


「ふふ、旦那様に嫁いで本当に良かった」












サンティエが充実した生活を送る一方で、ルカは自分を〝虐めた〟サンティエが賞賛されるのにイライラしていた。サンティエの弟にお願いして何かないかと集落出身の子供達を探るが何も出てこない。ルカはサンティエに対して、次第に憎しみの炎を燃やしていった。


「なんであの生意気な女が、聖女である私を差し置いて賞賛されてるのよ!なんで力も戻らないの!なんで全部うまくいかないのよ!」


そんな中でルカはさらに焦ることになる。何故かいつのまにか奇跡の力が使えなくなっていた。ルカは何故なのか気付かない。


その理由。それはルカに力を与えた神が、身勝手なルカより献身的に人々に尽くすサンティエを聖女にしようと考え始めていたからだ。


ルカはあることないこと、サンティエに関する悪い噂を流そうとするがうまくいかなかった。結果ルカは人々からの信用を失う。そして、ルカは神から完全に見捨てられ奇跡の力を失った。そんなルカを、王太子は隠すようにして離宮に押し込めた。表向きは病を患ったことにして。


「うう…私が何をしたって言うのよ…なんで私ばっかりこんな目に遭うの…?元々私を召喚なんかしたアンタ達の所為なのに…!」


結局ルカはルカで、可哀想な少女であったことに間違いはなかったのだ。異世界召喚などと言う力の被害者である彼女は、しかし傲慢で淫蕩な振る舞いのせいでもう誰にも相手にされなくなってしまった。











反対に神から愛されるようになったサンティエは、新たな聖女として覚醒した。王太子から秘密裏に復縁要請があったがこれをきっぱり断り、弟からの本当に申し訳なさそうな謝罪もはっきり拒否して限界集落でこれまで通り過ごす。ただ、聖女の力が必要とされると自ら積極的に働いた。


そんなサンティエはやがて夫との間に子供が出来る。夫婦と子供達の仲睦まじい様子は、集落でも評判だった。


「うむ!今日も妻と子供達が可愛い!」


「ふふ、旦那様ったら」


「パパ大好きー!」


「パパ愛してるー!」


「ああ、俺もお前たちを愛している!」


幸せになることこそなによりもの復讐、というのはこの場合にはぴったり当てはまっていた。











ちなみに、サンティエの弟は優しかった姉から嫌われて許してもらえない現実に、自分の仕出かしたことを悔やんで落ち込んでいた。そして王太子は今更になって、逃がした魚はあまりにも大きかったのだと知って唇を噛んだ。


サンティエの献身で国は安泰だったが、王太子は新しい妻をなかなか見つけられず、サンティエの弟は妻となった女性から聖女様のお手つきだと白い目で見られており家庭は冷え切っている。


サンティエの幸せそうな様子を伝え聞くたび、二人ともルカを信じてサンティエの話すら聞かなかった自分をぶん殴りたい気持ちになっていた。だが、悔やんでも時間は戻らないのだ。


「せめて、サンティエはこれからも幸せでありますように」


その王太子の祈りだけは、星に届いたらしい。サンティエはその後も、夫と子供たちと平和に幸せに暮らしていくこととなる。

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― 新着の感想 ―
[一言] この手の話って兄とか弟が薄情過ぎるよね〜。 肉親より他人を信じるんだから。
[良い点] ハッピーエンド! [気になる点] 神様や……。地上を見守ってくれてるんなら、せめて召喚聖女を元の世界にリリースしてくださればいいと思う。 異世界に誘拐された彼女は被害者の一面もあったのです…
[一言]  自業自得の面々も、根っからの悪人ではなかったのですね。  誘惑に負けずに、誠実であろうとしたひとだけが幸せになったみたい。  私、誘惑に弱いからなあ(汗)
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