9話 長くなるかもしれませんが
俺の体の穴という穴から汗が止まらねぇー!!
俺は天音の家に来ていた。
そして、目の前には天音の両親。
自慢の髭がしっくりくるダンディーな真面目に引き締まったお顔の父親と、天音が育ったらこんな風になりそうなニコニコ顔の母親が、豪華なソファーに鎮座していた。
そして、申し訳なさそうに俺に寄り添っている天音。
「で?」
「は、はい!」
たった一文字なのに、父親の迫力のある重低音が俺の心に刺さってくる。
やべぇ…。絶対、声だけで人殺せるじゃん。
俺は少し楽観的な行動をしてしまったのを悔やみながら、先程の事を思い出していた。
___遡る事、数十分前
「ねぇー? 天姉とお兄ちゃんって結婚するの?」
きっかけは、何も意味もなく聞いてきた夕理だった。
「ゆ、ゆ、ゆゆゆーちゃん!?」
「するよ」
「け、け、けけけーくん!?」
「ふふ。今日は、お赤飯にした方がいいかしら?」
「め、め、めめ恵さん!?」
今日も天音は家に遊びに来ており、そして天音に付き合うように夕理、母さんはそんな風景を楽しみながら作ってくれてる夕食。
「じゃあ、健くんはそのうち挨拶に行かないといけないわね」
「あぁ…、娘さんを下さい的な?」
「む、娘さん…!!」
確かに、これからの事を視野に入れるなら絶対通る道だなと思った。
「それに、お兄ちゃんの事だから…天姉の両親の好感度マイナスになってるかもよ?」
「あー…、これからの関係になるからそれは嫌だな」
「こ、こ、ここれから…!!」
昔の事で天音の両親には迷惑掛けてたかも知れないし、謝罪の意味でもそのうち行かないとは思ってたところだった。
「天音ちゃんのご両親は許してくれるはずよ。きっと」
「じゃあ…天音行くか」
「ど、ど、どどこに!?」
「え? 天音の家」
「い、い、いいま!?」
母さんは許してくれるはずと言ってくれたし、これは早めに解決しとかないいけないかなと、俺は思っていた。
…天音があわあわしててやっぱり可愛えぇ
「お兄ちゃん、強引になったよね。お母さん?」
「夕理も強引にされたいのね?」
「ち、違うし! そういう意味で言ったんじゃないし!」
俺はまぁ大丈夫だろうと楽観的に思ってた数十分後…
「す、すみませんでした!!!」
俺は誠心誠意の謝罪をした。
「実はな、君のお母さんから事情は聞いていてな、私も私の嫁も同じ苦悩は感じた事はあるさ。それでも乗り越えて今があると思ってる。人間、誰しも通る道だ。多少の過ちは治して成長出来てるなら、私はいいだろうと思う」
俺は心を打たれていた。
もし、この言葉をもっと早く聞いていれば三人を長く悲しまれずにしたかもしれないのに…
「それに、娘も許してやってるようだしな」
と、天音はコクコクと頷いている。
「もし、もう一度同じ過ちを犯したら私の娘には会えないという覚悟を持ってくれれば、私たちは君に誠意の対応をしようと思う」
「あ…、ありがとうございます!!」
天音の父親から許しを得た事で俺と天音は安堵した。
でも、これからが本番なんだ。
「あの…もう一つ聞いて欲しいことがありまして」
「…言ってみなさい」
俺は緊張していた。
これから娘さんを下さいという一生に一度あるかないかのイベントなんだから緊張しない理由がないもんな。
なので、俺は一呼吸置いて
「長くなるかもしれませんが、これは俺が思ってる事を全て吐き出すつもりです。俺は天音に酷い事をしたつもりです。けど、天音はそれでも寄り添ってくれました。そんな俺が気づいたのは、自分ではどうしようにもならなかった時に天音達の想いがわかったからです。それで俺は生まれ変わりました。俺の母さんや夕理も天音と同じように尽くしてくれて嬉しかったのですが、天音はそれ以上に嬉しかったです。生まれ変わった後にそんな想いを俺は持ちました。天音以上の人はいないと思ってます。可愛くて、ちょっと恥ずかしがり屋ですがそれも可愛いに決まってます。お弁当を作ってくれた時なんかは俺の好みをわかってくれて美味しかったし、指に絆創膏貼ってあったの隠そうとしてたのも初々しかったです。あとぬいぐるみを抱いて寝てそうな天音がぬいぐるみよりも一番って言ってくれた時の恥ずかしい顔が我慢できなかった。嬉しい時に泣くのも可愛いなぁと思ってます。泣き虫な天音も好きですし。今度から朝起こして貰いたいと思ってます、というかさせます。まだまだ語れますが、こんな天音を生涯大事にしたいと思ってます。結婚したらサッカーチームぐらい作れるような願望もあります。天音は歳を取っても美しいままでいて欲しいから俺が一層、天音を支えて行きたいと___」
「その……まぁ……熱意は伝わったが、娘を困らしたいのか」
天音の父親に俺の言葉を遮られ、ふと天音を見ると俯きながら茹でだこのようになり、頭でお湯が沸く勢いだった。
やっちまった! ただ惚気ただけだった!
「要約したら、交際をしたいということだな?」
「あ、はい! そういうことです!」
天音の父親は目を細くギロリと睨みつけ、俺の精神をガリガリ削っていくのがわかった。
すると、今まで傍観してた天音の母親が口を開く。
「パーパ。認めたらどうなの?」
「ママ!! 私の天音が取られるんだぞ!」
「もぅ…。健くん? 私たちは信用してるから天音を大事にしてあげてね。大事にしなかったらパパが奪いに行くわよ」
「あ…、あ、ありがとうございます!!」
それを聞いた俺と天音は目を合わせ泣きたくなった。
天音の母親のおかげで、俺と天音はとりあえず公認を得ることができたのだった。
天音のパパは俺と同じ匂いがするんよな。確かに、俺が天音のパパなら絶対外に出さないだろうと思いながら。
「それで健くん。夕ご飯食べていく? 精力付くの作ってあげるわよ?」
精力? 精力つけなくちゃいけない理由あったっけ?
「だって、十一人産ませるのでしょ? 今日から頑張らないといけないわよ?」
「〜〜〜っ!!」
あ………
目を合わせた時に抱き寄せたままの天音は
俺に無言の照れ隠しパンチを叩いていた。
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