1話 大嫌い
俺は幼馴染が大嫌いだった。
「ねぇ。今日は、けーくんの家に寄っていい?」
学校の帰り道に俺の隣でベタベタしてるこいつは
生島天音
運が悪い事に、俺と同じ学校の同じクラスの二年生。
「ベタベタすんな。寄るな。帰れ。お前と一緒が嫌なんだ」
俺の名前は諏訪健
こいつと幼い頃から一緒にいたせいで、いろんな人に俺とこいつは比べられてきた。
『天音ちゃんは偉いねー。それなのに…』とか
そんなのが十年続いてみたらわかる。性格は捻くれるし、こいつが隣にいるだけで嫌悪感がドバドバ出てくる。そのうち歪むまであるかもしれない。
「気にしなくていいのに? けーくんはけーくんなんだから」
どこをどう見たらそういう解釈するのかがわからない。こいつの目は何か詰まってるんだろうか。
「黙れ」
「明日の朝も迎えに行くよ」
「勝手に一人で待ってろ」
「いつも早くに出ちゃうじゃん?」
なんでこうも俺の言ってる事をわかってくれないのかがわからない。
俺はこいつと一緒にいると壊れそうなんだ。壊れたくないからこいつと一緒にいたくないんだ。
自分の命を守る為にする事なんだ。
「困ったことあるなら…。あたしを頼って」
何かの糸が切れた。
たぶん今まで支えてた防波堤が決壊したんだと思う。
お前のせいでこんな風になってるんだろうが! お前の台詞じゃねぇだろ!
「うるせぇ。俺はお前が嫌いなんだ。二度と近寄るんじゃねぇ」
「いっ…」
俺はこいつに手を出していた。
片方は胸ぐらを掴んで。片方はわからせる為にこいつの自慢の髪を引っ張っていた。こいつは青ざめてた顔をしてたし、いい気分になった。
思ってた事、言いたい事をぶちまけたら精々した。
俺は悠々と歩き出したが追っかけてくる気配もしない事からわかってくれたんだと嬉しくなった。
それから俺は家に着いた。
家の中は静まり返っていた。もちろんそれが当たり前なんだが。
父親は小さい頃に他界。
父親と再婚した女はどっかしら出掛けてるだろう。
あと、玄関の靴から一つ下のあいつもいたが反応を示さなかったのかなんなのかはわからない。
それがムカついた。さっきの件で全部吐き出したのかと思ってたが、また沸々と怒りがこみあがってきた。
「おいクソ女! ご飯はいらねぇってあの女に言っておけ!」
「あ…。うん。…気をつけてね」
俺の怒鳴り声に恐る恐るあの青髪のあいつは気まずそうな顔を覗かせた。
何が気をつけてねだよ…そんな気なんてさらさら無いくせに。
だから、俺は思いっきり家の扉を乱暴に閉めて出ていった。
俺は家族内でも荒んでいた。
父親がいれば違ったかもしれない。
母親が違う人なら違ったかもしれない。
幼馴染なんていなければ違ったかもしれない。
妹なんていなければ違ったかもしれない。
何か一つでも変われば違う俺だったかもしれない。
『お兄ちゃんはお兄ちゃんなんだから気にしなくていいのに…』
『うるせえ! 関わるんじゃねぇ!』
『健くんは健くんなんだから、気にしなくていいのよ? 健くんが自由に出来るように私達がいるからね。何か困ったら私か夕理に聞いてね。私達は健くんの味方だから』
『…俺の気持ち分かってないくせに説教なんかするんじゃねぇよ!』
イライラがマッハだった。
俺は怒りに身を任せて、手を出してた。言うこと聞かなければ怒鳴っていた。
家族もあいつと同じなんだ。俺の気持ちなんてわからねぇのに気にするなとはよく言えたものだ。
お前らは俺と同じ立場になってないからわからないんだ。
__けーくん!!
今までの怒りで考え事してたからか、家を出た後から覚えてなかった。そして、誰かに呼ばれた気がして意識が前に向いた瞬間。
__やべぇ!!
気づいたら、見慣れた市街地の横断歩道。
目の前には赤信号。
横断歩道に突っ込んで来る大型トラック。
一瞬で今いる状況がわかったがもう遅い。恐怖で足は竦み、スローモーションのように迫り来るトラックになす術はなかった。
そして、俺は宙を舞った。
そのあとは、まるで夢を見てる気分だった。
「けーくぅん! 死……なないでっ…」
あいつ…いや、天音のぐしゃぐしゃな顔が。
「お、お兄……ちゃん…」
夕理はもう可愛いを台無しにしたような顔が。
「健くん…健くん…」
母さんはハンカチで顔を伏っしてる姿が。
あれだけ嫌な態度取っても最後まで付き添ってくれた三人。
何か一つでも変われば違う俺だったかもしれない。
それはもしかしたら、俺が気にしなければ変われたかもしれない。
あー。ちょっと後悔し始めたかも。もし、やり直し出来たら違う俺になりたいな。そして、三人に謝りたいな。
すると俺と繋がってるであろう電子機器から無常な警告音が響いてきて、俺は闇の中に落とされた。
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