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怪談

事故物件の映像記録

 事故物件に住んで二年目。最近変なことが起こる。


 パソコンデスクに向かって椅子に座ると、座面が高くなっている。低くなっているなら、壊れたで説明がつくと思う。


 初めは気が付かなかった。

 仕事を終え帰宅して、缶ビール片手にパソコンの電源を入れる。夕飯をつくる前に缶ビールを飲みながらメッセージ等の確認をするのだが、座って無意識に座面を下げてた。


 たまにならあるかもしれない。けれど、何日か連続で、座るとモニター位置が少しだけ低く感じるなんてことはないと思う。


 それでも最初は壊れたのかと思っていた。八年ぐらい使っているから所々ガタも来始めていたし、新しいのに買い換えた。それでも帰宅して椅子に座ると高さが変わっていた。


 住んでからニ年間経っていたし、事故物件というのは既に記憶の彼方だったから、不法侵入を疑っていた。

 どうしようかと悩んだけれど、これと言って解決策を思い浮かばないから、月並みだけどカメラを買って侵入者を確認しようと思った。


 ネットショップでカメラを注文。


 届くまでの数日間でキーボードの隙間に髪の毛を見つけた。


 長さ50センチ程の髪の毛。


 数日前からなんとなくキーボードの調子が悪く、キーを押したときに違和感があったから掃除をしようとしたら見つけた。各キーの隙間を埋めるように大量の髪の毛が出てきた。


 もうこの時点で、不法侵入では無いと思っていたけれど、カメラで確認するまでは…と自分に言い聞かせていた。


 二日後カメラが届いた。広角にすれば部屋の中はほぼ全て撮影できそうだった。


 翌朝カメラを録画状態にして家を出る。


 その日は週末で仕事が忙しく、ようやく帰宅したのは日付が変わる頃だった。録画中のランプが点灯している。きちんと録画されているらしい。映像を確認したかったが、あまりにも疲れていたのと夜中に見る勇気が無かったのでそのまま寝ることにした。


 翌朝目覚めて録画を確認しようとして手をとめる。録画を停止して、カメラからメモリーカードを取り出し、新しい物に差し替える。


 メモリーカードとノートパソコンを持って近所のファミレスへと向かう。


 ファミレスで録画を確認する。


 再生を始めようとしてイヤホンを忘れたことに気が付く。ミュートにするか迷ったが音量を絞り再生することにする。


 画面に映っているのはスーツを着た自分。カメラから離れて玄関へと向かっていく。


 玄関のドアが閉まるのとほぼ同時にクローゼットの扉が開く。中から出てきたのは女だった。黒い服に身を包んだ、病的な程白い肌の女。肩にかかるくらいの、真っ黒な髪とありえないほどの肌の白さに目が痛くなりそうだ。


 女はカメラの目の前に来て座り込む。じっとカメラを見つめている。


 モニターに映った映像を見ているのに、直接目があっているような感覚になってくる。それと同時に違和感を覚える。それが何なのか解らずモニターに映った女を見る。


 数分間見続けて、唐突に違和感の原因に気が付く。


 女は瞬きをしていなかった。


 瞬きをしていない異様さに思わず体を仰け反らせモニターから身を離す。


 同時にモニターの女がニヤリと嗤った。


 まるでこちらを見ているように。あり得ない。これはリアルタイムではなくて録画映像だ。


 言い様のない不快感の中、画面を、女を見る。声を出さずに女が嗤っている。やはり瞬きをしていない。


 耐えられなくなり停止ボタンを押そうとすると、不機嫌そうな女の声で


「止めるなよ」


 と耳許で言われる。


 思わず席を離れようとするが、肩を掴まれ押さえつけられる。


 いつの間にか隣に女がいた。壁と自分の間の、僅かしかないはずのスペースにいつの間にか。モニターに映るのと同じ女が。


 ふと、モニターに目を遣るとそこには誰も映っていない。恐怖と混乱に同時に襲われる。


 女が顔を近づけてくる。吐息が聞こえそうな距離になると同時に、今度は嘲るような声で囁きかけてくる。


「逃げるなよ」


 次の瞬間女は消えていた。


 モニターに目を向けると嗤う女が映っていた。


 モニター正面にいない自分の方を見て。その場から離れようとするとまた耳許で「逃げるなよ」と言われる。


 震えながらモニターを見る。気持ち悪くなり顔を背けようとすると不機嫌そうな声で「こっちを見ろよ」と耳許で聞こえる。


 必死に耐えて一時間程経過すると、モニターから女が消えた。どこかに移動したとか、徐々に消えていったとかではなくて、唐突に、最初から何もいなかったかのように。


 その唐突さと開放された安堵感から放心状態でモニターに映る映像を眺めていると、開け放たれたクローゼットから子供が出てきた。


 這いずりながらこちらに向かってくる。


 こっちを見つめて、徐々に徐々にこちらへと。


 醜悪な顔をニタニタと歪ませて。


 コイツはやばい。


 本能的にそう思ったのだけれど、体が動かない。モニター一杯に拡がった顔。目を逸らせない。


 徐々にモニターから出てくる。顔が全て通り抜けてきた。


 逃げなきゃと思っていたら、上半身全てが抜け出してきていて、こちらに手を伸ばしてくる。


 次の瞬間、真っ赤な太い腕が子供の頭を掴みモニターの向こうに引っ込んで行く。


 呆気に取られながらモニターを見ると、クローゼットの中から伸びた腕が子供を引き摺って行った。


 子供がクローゼットの中に入ると、扉が閉まる。


 玄関の扉が開いて、スーツを着た男がカメラに向かってくる。


 そこで映像は止まっていた。


 部屋で怪奇現象が起こっているのはわかったが、山盛りすぎてどうしようか悩む。


 クローゼットがやばそうなのは確実なのだが、それはそれとして、スーツを着た男が果たして人間なのかが悩ましいところだ。


 独身女性の家に普通に入ってきて、迷いなくカメラを操作するのは果たしてどちらなのだろうか。



 そういえば、結局パソコン周りの怪現象については何も解決していない。


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