モデルハウス①-2(サイコーホーム)
「あれじゃない?」
長い坂道を進んでいくと、目的のモデルハウスが見えてきた。
前まで来たらわかると言われた通り、モデルハウスの前には蛍光色の旗のようなものがなびいていて、そこにはどこぞの不動産の名前や、モデルハウス見学受付などといった言葉が書かれていた。
と、そこで軽快に動いていた優那の足が止まり、私が追い抜く。追い抜いたところで、優那が今度は私の後ろに着くようにして歩き出した。
ということは。
「あ、こんにちは」
モデルハウスの前まで来た時、一人の恰幅の良いおじさんが待っていた。
このサイコーホームという会社の営業マンさんだろう。
優那はコミュ障なので、見知らぬ人から話しかけられるのを嫌うんです。だから直前で私に先頭を譲ったんだ。可愛いでしょ。
「白武さまですね。サイコーホームの山田です」
と丁寧に名刺を渡される。
うわっ。大人だ。
「あ、ども。白武怜那です。こっちは妹の優那です」
「はじめまして……えーっと、ご両親様は……?」
「あ、あのっ。お父さんとお母さんが、ちょっと急用で行けなくなってしまいまして。私たちだけで来た次第ですなのです」
「あー。なるほど……」
あれ、全然しっくり来てない感じ!?
困って優那を見たけど、ぷいってされた。
「かしこまりました。では本日は見学ということで。中の方へとどうぞ」
さすが営業マンさんだ。一瞬見せた困惑顔をすぐにきりっと笑顔にしてくれる。
モデルハウスは、すこし階段をのぼったところにあった。
駐車場が手前で、そこから階段を10段ほど昇ってちょっと高いところに家が建ってる。
「おぉ~」
玄関前で、優那と一緒に家を見上げながら声を漏らす。
でっかい家だ。一戸建てだ。綺麗だ。
「だいたい敷地が40坪程度で、建物自体で34坪ほどになりますね」
「……壺?」
「土地や家の大きさを測る単位」
優那がぼそっと教えてくれた。
私より勉強してる。
「壺が40個分てこと?」
「そう」
「壺が、40個……」
頭の中で並べてみる。
「え、壺でかくない?」
優那にめっちゃため息をつかれ、先にモデルハウスに入られた。
家に入ると、正面を真っ白な壁が出迎えてくれた。
「壁の中が四角く凹んでる……おしゃれだ」
「ニッチですね。最近流行ってますよ」
「今怜那が思い浮かべてるのねずっちだからね」
「はっ、そっか」
優那に指摘されて思い出す。
そっか、あれはねずっちだ。
「壁の中に物を置けるので、邪魔にならないしスマートなんです。こういったところに鍵を掛けたりする人も多いですね」
「ニッチ……これいいね優那」
「悪くはない」
玄関を上がりつつ、スリッパをはいていると、入ってきた玄関の横に、もう一つ玄関のような空間があることに気づく。そこには幅1m以上の棚がいくつも付いていて、靴などが置かれている。
「それって倉庫ですか?」
「シューズクロークですね。これも最近の流行りですよ」
「そんなに大きなスペースが必要なんですか?」
「ここは靴だけでなく、小さいお子様がいる人はベビーカーだったり、キャンプ用品だったり、家の中にしまいにくいものを置いとけるんです。ほとんどの人があってよかったって言いますね」
「シューズクローク! お母さんの欲しいものリストに入ってたやつ……これがそうなのか」
6帖の私と優那の部屋とまではいかないけど、それに近いくらい大きいサイズだ。
ただの靴置き場に。
一戸建てぱねぇです。
「じゃあ、リビング入りましょうか」