表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女子高生、家を買う  作者: 色川玉彩
家の買い方を考えるの巻
7/42

資料請求

「怜那ぁぁぁぁぁ!」


 夕刻。帰宅した私に、お母さんの怒号が鳴り響いた。

 今日は在宅の日なので、ずっと家にいたみたい。


「どうしたのお母さん! そんな戦国時代の武将みたいな形相をして!」

「どっちかってっと、伊賀越えの徳川家康の気分よ! あんた、あちこちの不動産に資料請求したでしょ!?」

「おー。昨日した! なんかね、家はポチるんじゃなくて、実際に見に行ったりして決めるんだって! 危なかったよ。だから気になってるところ、片っ端から資料請求してみたの! しかも、タダだし!」

「あんた家ポチろうとしてたのっ!?」

「えへへ」

「我が子ながら心配だわ……じゃなくて、私の連絡先で資料請求した?」

「うん。未成年だから、まずいかなって」

「やっぱり! おかげさまで昼間っから電話が鳴りやまないんだわこれが!!」


 スマホを目の前に突きつけられる。画面には、見知らぬ数字の羅列がずらっと。


「『資料請求ありがとうございます。〇〇ハウジングです』って何百回聞かされたことか! 知るか! 誰や! 着拒してやったわ!」

「え~。でも、資料請求しただけなのに?」

「あれのこと?」


 お母さんが顎で指した床に、いくつもの郵便物が雑に重なっている。

 まるでお母さんの怒りにあてられて項垂れる今の私のようで。


「ピンポンピンポンピンポンピンポン……何回来んねん郵便! 仕事になるか! しかも同じ奴2回来たし! 1回ではこべや!」

「どうどう! お、お母さん、落ち着いて」


 お母さんは自分を落ち着かせるように小さく息を吐いた。


「あのね、怜那。家探しをしてくれてるのは助かってるし、任せたのは私たちだから文句はない。けど、私の番号とか使うときは、事前に相談して」

「……ごめんなさい。電話が来るって思ってなくて」

「あっちは営業なんだから、餌に食いついた魚を釣ろうとするのは当たり前なの。大人しく資料だけ送って『ごゆっくり考えてね~電話待ってるね~』なんて気の抜けた愚か者がいるわけないでしょ」

「さすがバリバリの営業マン。相手のことがよくわかってる」

「とりあえず、返答は保留にしてあるから。あの山のような資料をきちんと仕分けして、本当に検討したい物件を絞りなさい。時間も体力も有限なんだから。もし見に行きたいところがあったら、こっちから連絡すればいいわ」


 お母さんはそう言って、ようやく玄関からリビングの方へと戻っていく。

 悪いことをした後というのは気まずい。いつもは気にならないお母さんの背中が、とても暗く、怖く感じてしまう。

 今日は余計な事は言わないでおこう。まずは、この山のような資料を片付けねば。


「怜那。それは後でいいから。とりあえずご飯食べよっか。お父さん、今帰ってくるから」


 お母さんがリビングから顔をのぞかせて笑った。


「ただいまー」


 お母さんの予言通り、玄関の扉が開かれて、お父さんの声が鳴り響いた。

 さすがお母さん。とっても厳しいけど、とっても優しいんです。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ