検索してみる
「私の学校がここだから、沿線としては第一沿線沿いに限ると。あとできるだけ近い方がいいかな。今だとちょっと朝起きるのが早いから、うん、学校の最寄り駅から2つ分までにしよう! 検索検索っ♪」
学校の昼休み。
優那が教えてくれた通り、ネットの物件探しサイトで「地図から探す」を選び検索を掛ける。するとピヨンピヨンといくつかのピンが立ちあがる。
「おおっ出た……って200件!? すごいよあず葉ちゃん! こんなに家が売ってるよ!」
「へ~。駅前にも結構あるんだ」
「選びたい放題ですなぁ」
「って怜那あんたこれ、賃貸も入ってるじゃん」
「ちんたい?」
「借りる家ってこと。今の怜那の家と同じ」
「あ、そっか」
「検索するなら賃貸は外して絞らないと」
「ふむふむ……って、10件!?」
絞った途端、検索結果が10件になった。
賃貸って多いんだなぁ。
「10件くらいなら、すぐ選べそう」
「待って。あんた中古でもいいの?」
「中古? やだ。綺麗なのがいい!」
「じゃあそれも外さないと。あと土地とかもいらないんじゃ?」
「まぁそうだよね。ふむふむ……に、2件!? あず葉ちゃん! 100分の1になっちゃったよ!」
「ほんとだ」
〇
「ということで、新しい家はここに決まりました」
家に帰り、夕食後の落ち着いた時間で私は家族にそう告げた。
「選ぶ余地もなかったよ。マイホームってこんなに簡単に決まるんだね」
家族のみんなは、テレビに映し出されたスマホの画面を見つめて難しい顔をしている。
「最寄り駅まで徒歩1分の駅近。2階建ての土地23坪。土地込み2900万」
「そう2900……にせんきゅうひゃく万っ!?」
「なに驚いてんの。怜那が探してきたんでしょ」
「290万かと思ってた……2900万も払えない……よね? なんて超豪邸なの。キムタク邸か」
「そりゃあ一括では無理だけど。普通はローン組むからな。土地込みでこれならまぁ、まだ安いほうじゃないか?」
「お父さん……実は大富豪なの?」
「なんでよ。ローンを組むなら月々家賃とそう変わんないよ」
そんなものなのか。
2900万と言ったら、私のお年玉えっと……何年分だ?
「無しね」
お母さんが言った。
「え?」
「その物件は無し。他のないの?」
「ないよ。だって検索したらここしかなかったんだもん。もう一つは駅から15分だったから」
「ていうかなんで、あんたの学校の最寄り駅近辺しか調べてないのよ」
「学校に通いやすい方がいいじゃん!」
「私とお父さんの通勤路は無視? 優那の学校は? それにあんた一生高校に通うつもりなの?」
「…………はっ」
盲点だった。
さすがキャリアウーマンのお母さん。指摘が鋭い。
「あのね。怜那に頼んでるけど、あくまで家は家族のためのものなんだから。もっと俯瞰的に見て考えないと」
「俺と母さんが全く別の沿線だし、優那は逆方向になるから、もっと探すなら南の方かな」
「あと駅から徒歩1分とか夢見すぎ。15分とか20分にしたらもっといろいろあるでしょ」
「あーあとその駅だと普通しか停まらないから困るな。快速が停まってくれるとありがたい」
「駅前にスーパーも必要ね。共働きだから帰りに買って帰れると楽だわ」
「え、じゃあ川の傍は嫌かも。今も用水路目の前にあるけど、洗濯物臭うし」
「氾濫もあるわね。ここハザードマップでまっかっかだから、災害時もできるだけ安全なとこがいいわ」
「あと土地ももう少し広い方がいいなー。庭とか憧れる」
「わかる。庭でBBQしたいの」
その後、とめどなく溢れ出る要望の応酬はしばらくの間続いた。
めっちゃあった。
先言ってよ。って思った。