私が家を考える
「で、いつ買うの家」
何日か後、全く話に上がらなくなった夢のマイホームについて、ソファで横になってSwitchをやっていた優那がぼそりと尋ねた。
「え」
と、横でテレビを見ていたお父さんが間抜けな声を漏らす。
「買うんでしょ?」
「買わないよ」
「でも怜那が買うって」
「買わないって」
「え、買わないの!?」
少し遅れて驚く。
もらったプリンが美味しすぎてぼーっとしてた。
「欲しいなぁって言っただけだし。ねぇ母さん」
「ん? あー。うん。毎年ハワイ行きたいって言ってるのと一緒。行くときは一生来ない」
「一生来ないの!?」
不意に絶望的なことを知らされるショック。
そっか。ハワイ、行けないんだ。行きたかったなぁ。
「私もう自分の部屋に置く観葉植物とかポスターとか間接照明とかお気に入りに入れて準備万端だったよ。ポイント倍率が今月一番いいんだよ? 買うなら今だよ?」
「仮に家を買うにしても、何か月も先だと思うよ? ヘタすりゃ一年後とかそれ以上。知らんけど」
「い、一年……!? どうしよう。私友達に映える部屋作ってインスタにあげるって宣言しちゃった」
「怜那いっつも先走るよね」
「家! 早く買い始めよう! 卒業するまでに部屋の写真上げないと、嘘つきになっちゃう!」
「誰も覚えてないと思うよ。怜那の部屋とか興味ないし」
「優那うるさい! 大人には大人の付き合いがあるの!」
「双子じゃん」
優那のツッコミに、お母さんが鼻で笑ったのが見えた。
「ん~。考えてもいいけど、俺も母さんも仕事忙しいからなぁ」
「いつ決まりそう? いつ? 明日?」
「無理言わないでよ怜那。マイホームって、考えるだけでも大変なんだから。結婚式ですら大変で手が回らなくて途中でキャンセルしちゃったのに」
「まぁあれは二人の妊娠も重なったから誰も悪くないよ」
「お母さんいつものバリバリキャリアウーマン的な感じで決めてよ」
「仕事で手一杯。お父さんに頼んで」
「お父さん~!」
「え~俺? 俺調べるならちゃんと集中できるときがいいなぁ。今はちょっと忙しくて……家買うなら中途半端に決めたくないし」
「優那ぁ!」
「どうして私。だったら怜那が決めれば?」
「へ?」
「怜那暇じゃん? 帰宅部だし。だったら怜那が調べてお父さんとお母さんに提案すればいいじゃん」
「そんなことできるの? 私まったくの無知だよ? GPA2.1の平凡なむっちむちの女子高生だよ?」
「平凡?」
「ま、今どきネットで調べれば大体出て来るんじゃない?」
「お母さん、なんて適当なことを……!」
「いやでも、正直私たちも同じくらい無知だからね。そこまで言うなら怜那が情報かき集めてきて、私たちに教えてくれれば、話が早く進むわ」
「おぉ。名案。怜那、頼めるか?」
「私が、家を、考える……? 私が……?」
こうして、私のマイホームについて考える愉快な日々が始まるのでした。
それが、地獄への入り口だとは知らずに。
なんちゃって。