やっぱいえかいたくない
「ということで、家を買うことになりましたー」
学校のお昼休み、私は親友のあず葉ちゃんに自慢げに話した。
あず葉ちゃんは、どんなことでも包み隠さず話す唯一無二の親友です。
「え、怜那転校しちゃうの?」
するとそう言われた。
少し悲しそうな目で。
「え、私転校するの?」
「いや、怜那が自分で言ったんじゃない」
「転校しないよ?」
「でも、家買うってことは、引っ越すんだよね?」
「うん」
「ってことは、学校も変わるんじゃないの?」
「うん……? えっ! 変わるの!?」
「だってこないだ転校した村瀬さんも、引っ越したからじゃん?」
「ほんとだっ。最近村瀬君見ないと思った」
「気づいてなかったの!?」
「引っ越したら、転校……そそそ、そんなのやだぁ!」
「泣くな泣くな。私もやだけど……でももう決まったんでしょ?」
〇
「家買うのやっぱ反対!」
帰宅してしばらく。仕事終わりで帰ってきたお母さんを玄関で出迎えて言った。階段を上る音が聞こえた瞬間からソファを飛び起きて待ち伏せていた。
当然、お母さんはきょとんとしてた。
「なに? 急に」
すごい疲れた顔してて、ちょっと怖い。
でも私は食い下がる。
「私転校したくないから家いらない! 自分の部屋も我慢する! ステイヒアー!」
「はぁ。家買うだなんて言ってないじゃない。欲しいなぁって言っただけでしょ」
「ただいまー」
少し遅れて、買い物袋を提げたお父さんも帰ってきた。
今のこの状況を不思議そうに見ている。
「どしたの?」
「家、やっぱり欲しくないんだって。怜那」
「えーどうして。昨日あんなにノリノリだったのに。#理想の部屋でインスタ見てたろ。それで寝不足だったじゃないか」
「転校したくない!」
「転校? 別にしなくていいだろ」
「え。でも引っ越したら、学校変わるじゃん」
「学校に通える範囲で家を探せばいいじゃん。高校なんだし、電車でも通えるし」
「ん? そうなの? 引っ越しても転校しなくていいの?」
「「うん」」
お父さんとお母さんが珍しく声を合わせて頷いた。
「馬鹿かお前は」
お母さんはそう言っていつも通り夕食の準備を始めたのでした。