第1章 第7話「鉄の掟」
第7話です。
諸事情により、更新が遅れました。
ごめんなさい。
m(_ _)m
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(^人^)
第1章 Beginning
第7話「鉄の掟」
俺は急いでベッドルームへ入ると、ユーミをベッドへと寝かせた。
余裕で3人は寝られる大きなベッドは、かなり値段は張ったが俺のこ自慢の一品だ。
もちろんフカフカで柔らかく、寝心地も抜群。
ただ寝るだけなら、安宿のギシギシとうるさい、粗末なベッドでも構わんが、我が家のベッドともなれば、話は変わってくる。
ベッドとは、安眠を貪るだけのものではない。
俺とユーミにとっては、愛を確かめ合う神聖なる場所。
いや、聖なる戦いの場だ。
戦場は広い方がいいだろう?
そんな話をしてる場合じゃねぇ!
俺はユーミの手を掴み、脈をとった。
どうやら容態は安定しているようだ。
俺はユーミの顔をやさしく撫でた時。
「アー。」
隣のベビーベッドのユンが、機嫌よさそうに声をあげた。
「この小さい方は誰ですの?」
突然、隣にいたミフィが俺に尋ねてきた。
「ユンだ。俺とユーミの赤ちゃんだ。」
「これが赤ちゃん…。」
ミフィはそう言うと、ベビーベッドへと近づき、ユンの顔を覗き込んだ。
「アー。」
ユンはミフィに向かって、両手を伸ばしながら笑った。
「まぁ!」
ミフィは嬉しそうに声をあげた。
天使の笑顔でミフィを魅了したようだ。
我が愛娘ながら大したものだ。
『大丈夫ですか?』
アナザーが心配そうに尋ねてきた。
『脈は落ち着いたようだから、大丈夫だろ。』
俺は声を出さずにアナザーと会話をした。
『まさか、こんな事になるとは思いませんでした。申し訳ない。』
なかなか真摯に謝るじゃねぇか。
『次はねぇぞ。』
かなり凄みを効かせて言ったつもりだが、伝わっているだろうか?
『はい。あなた達と私とでは、感覚にズレがあるのを、理解しきれていませんでした。本当に申し訳ない。』
まぁ、悪気があってやったわけではないだろう。
反省もしているようだし、あまり責めるのも、男としてみっともない。
とはいえ今の状態だと、俺のやることなすこと、全てがアナザーに筒抜けだ。
個人的な事に対しては諦めがつくが、夫婦や家族の話は別だ。
他人に知られたく無いことの、オンパレードになる。
特に夫婦の夜の戦場については、絶対に知られたくない。
世の中には、見られて興奮する、理解に苦しむやつもいるらしいが、俺はまっぴらごめんだ。
ベッドの中の事は、二人しか知らないからいいのだよ。
『このままじゃ、ユーミと仲良くも出来ねぇなぁ…。』
俺はぽつりと呟いた
『それは重大な問題ですね。コミュニケーションは大切ですよ。』
『他人事みたいに言うな!お前のせいだろうが!』
『それを言われると耳が痛いのですが、私は覗きでも、出歯亀でもありません。そこは信用していただきたい。』
『出来るか!世の中に嫌いな男がいるかバカタレ!出歯亀ってなんだ!』
『自分がするのは好きですが、人のやっているのを見るのは、興味はありません。ですが、今のままではあなたの最もデリケートな部分に、触れてしまう事になります。これは回避しなければなりません。』
『そらそうだ。』
『今から私は、いろいろな事を試してみます。しばらく放っておいてくれませんか?』
『わかった。なんでも試してみてくれぃ。』
『それでは。』
アナザーはそう言うと、話をしなくなった。
「うぅーん…。」
しばらくして、ユーミが意識を取り戻した。
「ユーミ!大丈夫か!」
俺はユーミの手を、強く握りながら尋ねた。
「ガボ…。」
少し虚ろな目で俺の顔を見る。
「大丈夫か?」
「全部夢だったの?」
俺はゆっくりと首を振り、親指でミフィを指した。
ミフィは、ユンをずっと見ている。
「うわ!」
ユーミは、慌ててベッドから跳ね起きた。
「お目覚めですか?」
ミフィは、ユーミの方を振り返りながら言った。
「首が付いてる…。」
ユーミはミフィをジロジロと見ながら言った。
ミフィは、ツカツカとユーミの前まで歩くと
「先ほどは大変、失礼をいたしました。」
と言って、スカートの裾を手で持ち上げた。
「さっきは急にあんな事をするから、びっくりしただけよ。でも、あんな事は二度としないでね。心臓にも悪いし。特にユンの前では、絶対にやらないで。」
「かしこまりました。ユンちゃんは、可愛らしい赤ちゃんですね。」
ミフィの言葉を聞いたユーミが豹変した。
「でっしょー?かわいいでしょー?かわいいのよ~!」
ユーミは満面に笑みを浮かべながら、嬉しそうに言った。
「とっても、かわいらしいですわ。」
ミフィはそう言って笑った。
「抱っこしてみる?」
ユーミはベッドから起き上がると、ベビーベッドへ向かった。
「お、おい。大丈夫か?」
俺はユーミに声をかけた。
「大丈夫、大丈夫。」
返事をしながら、ユーミがユンを抱き上げた。
ユンが嬉しそうに、キャッキャと声を上げる。
「私に抱っこ、出来るでしょうか…。」
ミフィは不安そうだ。
「赤ちゃん抱っこしたことないの?」
「見るのも始めてですわ。」
「じゃあ、教えてあげるから、抱っこしてみたら。念のためにベッドの上に座って。」
「いいんですか?」
ミフィは嬉しそうに、ユーミに尋ねた。
「いいわよ~。早く座って。」
ミフィはユーミに言われた通り、ベッドの上にあがり、ちょこんと座った。
「こうやって、右腕を首の後ろに回してね、左腕でこうやって体を支えるの。やってみて。」
ユーミはそう言って、ユンをミフィに抱っこさせた。
ミフィはゆっくりとユンを受け取ると、やさしくやさしく、抱っこした。
ユンはじっとミフィの顔を見つめる。
「あー。うー。」
ユンは右手を伸ばし、ミフィのほっぺを掴んだ。
ミフィのほっぺが伸びて、ちょっと笑える顔になったが、ミフィは嫌がりもせず、されるがままになっている。
「こうかしら?」
ミフィは不安そうに、ユーミに尋ねた。
「そうそう。いい感じよ。」
「赤ちゃんはぷにぷにとしていて、柔らかいのですね。」
変な顔のミフィは、嬉しそうに言った。
「赤ちゃんは柔らかいのよ。名前を呼んであげてみて。」
「ユンちゃん。」
ミフィはやさしく、ユンの名前を呼んだ。
「あー。」
「ユンちゃんが返事をしましたわ!」
ミフィはニコニコとしながら言った。
「あらユン!賢いわねぇ!そのまま、左右にゆっくりと揺らしてあげて。」
「こうかしら?」
ミフィはユーミに言われた通り、ゆっくりとユンの体を左右に揺らした。
ユンは、キャッキャと声をあげながら喜んでいる。
「ミフィちゃんは抱っこが上手ね!ガボに教えてくれない?下手くそ過ぎて困ってるのよ。」
「俺が下手なんじゃない!俺におっぱいがないからだ!俺はおっぱいに負けたんだ!」
俺は精一杯の主張をした。
「ミフィちゃんも、ないじゃない。」
ユーミは勝ち誇りながら言った。
くそう。
確かにルーン族に、おっぱいはない。
つるつるのぺたぺただ。
くそう。
言い訳が出来なくなってしまった。
「俺にもやらせてくれ!」
俺にもプライドはある!
このままじゃ終われん!
「ムダだと思うけどな~。」
ユーミはニタリと笑った。
「ミフィ。交代だ交代。」
俺はそう言って、ミフィからユンを奪った。
「アー!」
ペチッ。ペチッ。ペチッ。
俺がユンを抱いた途端、ユンは声をあげながら、俺のほっぺをペチペチと3回叩いた。
「アハハハハ!ほら!やっぱりこうなった!」
ユーミはそう言って笑い出した。
「下手くそですわね。」
初めて赤ちゃんを抱いた、ミフィにまで言われてしまった…。
泣いてもいいかな?
俺は無言でユンをミフィに渡した。
ユンは機嫌良さそうに、ミフィに抱かれている。
俺はそっと目元を拭った。
泣いてなんかないぜ。
ただ、目にゴミが入っただけだ…。
かなり悲しい気持ちになっただけだ。
泣きたくなるくらいに…。
「ミフィちゃんには、子守りをお願い出来そうね。誰かさんと違って。」
ユーミはちらりと俺の顔を見ながら言った。
勝ち誇った目で見るのはやめて!
だからって、憐れみの目で見るのもやめて!
お願いだから、そっとしておいてちょうだい!
「お父様?」
ミフィがユンにほっぺを掴まれながら、突然そう言った。
しばらくして
「お父様が、あなたに話かけて欲しいそうですわ。」
ミフィがそう言ったので
「どうしたアナザー?」
俺は声に出して言った。
「今度は頭の中で話かけて欲しいそうですわ。」
『どうした?』
『今度は聞こえましたね。』
『どういうこった?』
『どうやら私とミフィは、声を出さずに会話が出来るようです。ユーミさんに話かけてもみましたが、反応はありませんでした。どうやらミフィとしか、話は出来ないようですが。』
『そうなのか?』
『そこで朗報です。』
『朗報!』
『私がミフィと話をしている間は、あなたの声は私に聞こえません。あなたが声を出さずに、私に話かけてこない限りは。』
『それが?』
『ですから、あなたが寝室に入る前に、私はミフィと話をします。あなたが私に話かけてくるまで。』
『つーことは?』
『あなた達の邪魔にはなりません。』
『本当か!』
俺の目の前が明るくなった。
雲の切れ間から、たくさんの天使がラッパを鳴らしながら降りてくる。
雲が割れ、そこに後光も眩しい女神様がご降臨された。
「ガボール・ウィンストン。あなたに神の御加護を。」
俺は生まれて初めて、神に手を合わせた。
「神よ!感謝します!」
俺は名前すら忘れた女神に、感謝を伝えた。
「ユーミ!」
俺は真剣な眼差しでユーミを見た。
「いきなりなに!」
ユーミは焦っている。
「ちょこんと耳貸して。」
「ちょこんと?なになに?」
ユーミはそう言って、耳を近づけて来た。
「あのな…。」
俺はユーミに耳打ちをした。
「うん…。うん…。うん…。え!本当なのそれ!」
ユーミは嬉しそうに言った。
俺は力強く頷いた。
「えへへへへ。」
ユーミは嬉しそうに笑った。
とにかくこれで、大事な大事な、ユーミと俺のコミュニケーションタイムは守られた。
こんなに嬉しい事はない!
今夜は早速実験だ!
ユーミも文句を言うまいて…。
俺は期待しつつ、夜になるのを待った。
翌朝、ミフィに確認をしたが、ミフィは俺達がベッドルームへ入る前から、アナザーと話をしていたらしい。
ずいぶんと長い時間、話をしていたという。
昨日は、頑張り過ぎたからかな?
どうやらかなり離れていても、会話が出来るようだ。
昨日の夜に実験をしたそうだ。
あと、俺が眠たくなると、アナザーも眠たくなることがわかった。
しかし、俺が目覚めたら、アナザーが目覚めるわけではないようだ。
どうやらアナザーは、寝ぼすけのようなので、安心した。
ちなみに、ミフィは眠らないらしい。
少なくとも、昨日は一晩中起きていたそうだ。
そしてこの日、俺とアナザーの間に、初めての鉄のルールが出来た。
ベッドルームに入ったら、俺が声をかけるまでは出てきてはならない。
というルールだ。
これでなんとかなりそうだ。
更新遅れました。
ごめんなさい。
m(_ _)m