第1章 第6話 「なるほどね…。」
遅くなりました。
6話です。
いつも読んでくれてありがとうございます。
(*^^*)
第1章 Beginning
第6話「なるほどね…。」
遺跡から出ると、辺りの景色は夕焼け色に、染まり始めていた。
この時間なら、暗くなる前には帰れそうだ。
『なかなか良い所ですね。』
帰り道に森の中を歩いていると、急にアナザーが言い出した。
「この辺りはどこも、こんなもんだ。猛獣が出ないだけ、安全なくらいだ。」
『そうなんですか。それにしても自然はいいですね。』
あれ?こいつ嬉しそうじゃないか?
何が嬉しいのか、さっぱりわからんが。
「アナザーのいた所は、こんな感じじゃなかったのか?」
『無いわけではありませんが、私の生まれた所に、こういう場所は少ないですね。夜になれば、星がよく見えそうだ。』
「そうだな。月明かりの綺麗な夜は、外でたき火して、飯食ったりするしな。」
『灯りが要らないほど、明るいのですね。』
「ろうそく1本でも、毎日使うとバカにならねぇからな。
表でたき火をしながら食う飯も、なかなかうまいだろ?」
『私がいたところで、家の前でたき火をすると、たちまち白い目で見られますね。火事になったらどうするんだと、怒る人もいるでしょう。』
「なんだそりゃ?頭おかしいんじゃねぇか?」
『どうでしょうね。昔は当たり前にしていた事が、時間が経てば特別な事になっていく。時間で何かが、おかしくなっているのかも知れませんね。』
「外で飯も食えないんじゃ、旅するのも大変そうだな。」
『ここでは、旅をする事は多いのですか?』
「旅って言うほど、大げさなもんじゃねぇけど、隣の村まで行くのに、1泊するなんてのはよくあるな。」
『ずいぶんと離れているのですね。』
「街道や川沿いの村ならそうでもねぇけどな。森の多い所だと、村すらあんまりないからな。」
『移動手段は何なのですか?』
「移動手段?距離にもよるが、歩きか馬、馬車、キュイなんかが多いな。」
『キュイとはなんですか?』
「キュイを知らねぇのか?キュイってのは、二本足で走る大きな鳥みたいなやつだ。羽がびっくりするほど、小さいんだけどな。」
『それは是非とも、見てみたいですね。』
「頭も良くてな。雛から育てると、言葉もわかるようになるらしい。」
『それは凄いですね。』
「キュイは山岳地帯に住んでるから、この辺では見かけないな。急な崖でもスイスイ登っていくぜ。」
『それは残念です。』
「つか、さっさと用事を済ませて、元いた所に帰ってくれ。」
俺がそう言うと、ミフィが不思議そうな顔で俺を見た。
「なんだ?どうした?」
俺がミフィにそう尋ねると、ミフィは言った。
「お父様と話をしているのですよね?」
「もちろんそうだが。」
「さっきから、ずっと一人で喋っているので、見ていて滑稽ですわ。」
なるほど。
そりゃそうか。
森の中ならまだいいが、人通りの多い所でこんな事をしていたら、誰だっておかしいと思うわな。
って、おい!
それって大問題じゃねぇか!
街中で一人、ブツブツと喋っていたら変人だぞ!
知り合いだとも、思われたくないわ!
「ちょっとまてーい!」
『どうかしましたか?』
「今のままだと、俺はお前と喋るたんびに、ブツブツ独り言みたいに、喋んなきゃならねぇじゃねぇか!」
『そうですね。』
この野郎。
あっさりと認めやがった。
ぶん殴ってやりたいが、それは出来ねぇ!
てめぇの体を、てめぇでぶん殴るやつなんかいるか!
「そうですね。じゃねぇ!お前も同じ事をするんだぞ?恥ずかしくねぇのか?」
『私のいた所では、そういう人が多かったですよ?』
「そんな事知るか!ここはお前のいた所じゃねぇ!」
『確かにそうですね…。わかりました。試しに心の中で、私に話かけてみてもらえませんか?』
俺はアナザーの言うとおりにやってみた。
『聞こえるか?』
『おお!聞こえますね。』
『そうか。最初っから、こうすりゃ良かったのか。』
『声を出して話をするのは、当たり前ですからね。気がつきませんでした。』
『とりあえず、変人は回避出来たぜ…。』
俺は心底、ほっとした。
『ですね。これで奥様との話も、進めやすくなります。』
『うまくいけばいいけどな。』
俺は、なんとも言い難い不安を胸に、ミフィと一緒に家へとと向かった。
「おかえりガボ!」
家に帰った俺を、ユーミは笑顔で出迎えてくれた。
「ただいま。」
俺はそう言うと、やさしくユーミを抱きしめた。
ユーミもやさしく、抱きしめ返してくれた。
『大変美しい奥様ですね。』
『だろ?自慢の奥さんだ。』
「ユンは?」
「ベッドで大人しくしているわ。あら?その方は?」
ユーミはそう言うと、俺と抱き合いながら、俺の隣に視線を落とした。
「俺の知り合いだよ。」
俺は打ち合わせ通りに言った。
「はじめまして。ミフィウルと申します。ミフィと呼んでくださいませ。」
ミフィは大きな杖を手に、ユーミに挨拶をした。
ユーミの目に映るミフィは、どこからどう見てもマジックアタッカーにしか見えないだろう。
それも経験豊富な、ベテランに見えているはずだ。
ルーン族の寿命は、人族と変わらないが、老い始めるのが遅く、見た目で年齢がわかりにくく、人族が見ても、10才~60才くらいまでのルーン族なら、全く見分けがつかない。
ルーン族同士だと、匂いで判別がつくらしいが、
「はじめまして。妻のユーミです。」
ユーミもミフィに挨拶をした。
「話は中に入ってからにしよう。」
俺はそう言うと、ミフィを家の中へとエスコートした。
ミフィは杖を両手で持ち、杖が床に着かないように歩く。
ミフィは礼儀というものを、知っているようだ。
俺はミフィを応接間に案内した。
応接間と言っても、豪華なテーブルやソファーがあるわけではない。
粗末なテーブルと椅子の他には、床に茶色い大きなブラッドグリズリーの皮が敷いてあり、あとは暖炉の前に揺り椅子が一つがあるだけだ。
俺はミフィを椅子に座るように勧めると、自分も椅子に腰を下ろした。
「ユーミも座ってくれよ。」
「でもお茶くらいは淹れないと…。」
ユーミはそう言って焦りだした。
「ミフィはお茶を飲まないから大丈夫だよ。」
俺がそう言うと、ユーミはミフィの顔を見た。
ミフィはユーミに、にっこりと微笑んだ。
それを見たユーミは、ミフィに微笑み返すと
「それじゃあ…。」
と言って、自分も椅子に座った。
「話って…なに?」
いつもの俺と、雰囲気が違うとわかったのだろうか。
ユーミは、どこか不安そうな顔をしている。
「実はさ俺。遺跡で取り憑かれちまったみたいなんだ…。」
俺は極めて真面目な顔で言った。
「え?」
ユーミは目を丸くした。
そりゃそうだろう。
俺だってそうなるわ。
そうですか~。って、納得するやつはおらんだろう。
「どういう事?」
明らかに怪訝な顔つきで、ユーミが俺に尋ねた。
「それがさ…。」
俺は自分自身に起こった事を、順を追って話をした。
ユーミは何度も頷いたり、首を傾げたりしながらも、真剣に俺の話を聞いてくれた。
俺も真剣にユーミに話をした。
途中でアナザーが、何度か助けてくれたので、話は伝わったと思う。
俺がひとしきり話を終えると、今度はユーミから質問を受けた。
「話はだいたいわかったわ。なんでガボに取り憑いたのかが、納得出来ないんだけど、そんな嘘をつく理由もないしね。」
「わかってくれたかマイハニー!」
さすがはマイハニー!
これも愛の力ってやつかい?
「死霊が取り憑いたにしては様子も違うし、今のガボもいつものガボだしね。それにさ。こんな突拍子もない話、ガボに作れるわけもないしね。」
あぁ。そっちだったかマイハニー…。
「とりあえず、アナザーって人と代わってくれない?一度よく話をしてみたいわ。」
「わかった。代わってくれアナザー。」
俺がそう言うと同時に、俺はアナザーと入れ替わった。
「お父様!」
ミフィはすかさず声をあげた。
それと同時に、ユーミの表情が変わった。
「なるほどね…。変わるって、こういう事を言うんだ。」
「はじめましてユーミさん。アナザーと申します。以後、お見知りおきを。」
「はじめましてだけど、歓迎はしないわよ。」
ユーミは厳しい顔つきで、アナザーに言った。
「重々、承知しております。」
アナザーはそう言うと、ユーミに深々と頭を下げた。
「入れ替わったのは、すぐにわかりましたか?」
「ええ。すぐにわかったわ。姿は変わらないけど、雰囲気がまるで違うわ。姿がそっくりなまったくの他人ね。」
「それはよかった。」
「先に言っておくけれど、ベッドの中で入れ替わったりしたら…。あとはわかるわよね?」
ユーミはそう言うと、アナザーをキッと睨みつけた。
ユーミはかなり、いや、爆発寸前にまで怒っている。
普通、ここまでユーミを怒らせると命はない。
マイハニーが剣を持った舞踏家にジョブチェンジするのだ。
そうなってしまうと、たいていの場合、2度と目を覚ませなくなるか、運が良くても、半年以上はベッドから出られないだろう。
正直、俺が怒られているわけじゃないのに、もの凄く怖い!
わかっているのに、もの凄く怖い!
理不尽だ!納得出来ん!ふざけるな!
いくらそう思っても、目の前の光景は変わらない。
、
「もちろんです。さっきガボくんからも説明があったように、ガボくんの身に何かが起こった場合、私も同じ目に遭いますから。」
「あんたも無理矢理、連れてこられたって言ってたけど、同情なんかしないからね。一番迷惑しているのは、間違いなくガボなんだから。」
「はい。それも承知しております。」
「私があなたに言いたい事は、それだけよ。あんまり足元をみると、後で後悔することになるわよ。」
ユーミはそう言って、口をへの字に曲げた
「胆に命じておきます。」
アナザーは深々と頭を下げた。
「あともう一つ。話によると、ミフィちゃんは、人形だって言うけど本当なの?どこからどう見ても、普通のルーン族の女の子にしか見えないんだけど?」
ユーミは眉を顰めながら、アナザーを睨みつけた。
「見てもらえれば、すぐにわかっていただけると思います。ミフィ。」
「はい。お父様。」
ミフィはそう言うと、おもむろに自分の頭を、首から引っこ抜き、首を両手で持ち上げたまま、にっこりと笑って言った。
「ご理解いただけますでしょうか?」
「!!!」
それを見た瞬間、ユーミはへなへなとテーブルに伏せてしまった。
『ユーミ!』
俺が叫んだ瞬間、体が入れ替わった俺は、慌ててユーミに駆け寄った。
どうやら気を失ったみたいだ。
可愛い女の子が自分の首を取って、にっこりと笑えば、誰だってこうなるだろう。
夜中に辺りを徘徊する、死霊を見た方がまだマシだ。
自分で、自分の首を取る魔物なんか、いねぇからな。
「てめぇらやりすぎだ!」
俺はユーミをお姫様抱っこしながら叫んだ。
『ごめんなさい。』
「ごめんなさい…。」
二人とも申し訳なさそうに答えたが、正直腹が立つ。
俺の事なら我慢も出来るが、嫁さん子供は話が別だ。
俺はユーミをお姫様抱っこしながら、慌ててベッドルームへと走った。
次回は1/2更新予定です。