第1章 第5話「誇り高き乙女」
5話です。
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(^人^)
第1章 Beginning
第5話「誇り高き乙女」
目を開けた人形は、ゆっくりと辺りを見回したあと、じっと俺の目を見つめた。
その瞳の色は左右で違う。
右目が紅く、左目は碧い。
オッドアイとかいうやつか?
「⚪×△□。」
人形は話をし始めたが、何を言っているかは、悲しくなるほどわからねぇ。
「△□⚪×。」
アナザーも腰を屈めて、人形と目線を合わせて話を始めたが、こっちも何を言ってるのか、全然わからねぇ。
なんだこれ?
新手の仲間はずれか?
俺の思いとは別に、身振り手振りを交えながら、アナザーと人形の会話はしばらく続いた。
10分ほど経っただろうか?
人形とアナザーがしばらく会話をした後、アナザーが俺に言った。
「彼女の名前はミフィウルださそうです。ミフィと呼んでください。」
『ミフィだな。わかった。』
お
「彼女は誇り高き乙女です。くれぐれも言葉遣いには、注意してください。」
『お、おぅ!』
俺がそう返事をすると、俺の意識が体に戻った。
バシン!
体が自由になった途端、俺はミフィにいきなり左の頬をビンタをされて、俺の体は右に大きく飛ばされた。
「あいたー!」
小さいくせに、すごい力だ。
いいもん持ってるじゃねぇか。
でも、ユーミのパンチには勝てないぜ!
自慢じゃねぇが、俺は初めてユーミのパンチを食らった時、膝から崩れ落ちて、そのまま気を失ったからな。
あの時は、漏らさなくてよかった…。
「あなたは一体誰ですの?」
ミフィはそう言うと、鋭い目つきで俺を睨みつけた。
「いきなりなんだぁ?」
俺はヒリヒリとする、左頬をさすりながら言った。
これが俺とミフィとの、初めての会話だった。
「俺はガボール・ウィンストンだ!」
「ガボール?そうなんですの?突然、顔が変わってしまったので、驚いてしまいましたわ。」
「なんでわかるんだよ!同じ顔じゃねぇか!」
「全然違いますわ。」
ミフィはそう言って、やれやれというポーズをとった。
「え!違うのか!」
見分けがつくなら嬉しいんだが。
「全然違いますわ。あなたの顔には、知性というものが見受けられませんもの。」
そう言って、ミフィは鼻で笑いやがった。
ぶっ飛ばしてやろうかこいつ。
いや、こっちがぶっ飛ばされそうだ。
覚えてやがれ、ちくしょうめ!
「それにあなたの顔は…。」
そう言って、ミフィが俺の顔に近づいてきた。
「だらしなくて、イヤラシイ顔をしていますわ。」
「なにぃ!」
確かに俺はスケベだ。
否定はせんよ。
でもなんで、人形にまでバレる?
『興味深いですね。』
突然、アナザーが語りだした。
「なにがだよ?」
『中身が変わっても、顔に明らかな変化はないはずです。ですが彼女は、私達が入れ替わった瞬間、すぐに反応しました。実に興味深い事です。』
「そう言えばそうか…。」
確かに、顔には多少の違いが出るだろう。
しかし、すぐに違いに気づくのはおかしい気がする。
『彼女になぜわかったのか、聞いてもらえますか。』
「なんですぐに、俺だとわかったんだ?」
「だって、顔が全然違いますもの。」
ミフィは何を言っているんだ?とでも言いたそうな顔だ。
『代わりましょうか。』
アナザーがそう言うと、俺とアナザーは入れ替わった。
その途端、ミフィの顔がパッと明るくなった。
「⚪×△!」
ミフィが何かを話した。
「△□⚪×…。」
アナザーが何かを話す。
「そう言う訳だったのですね。お父様。」
ミフィは突然、俺にもわかる言葉で話だした。
『お父様だぁ?』
俺はミフィの言葉を聞いて俺は驚いた。
突然、俺のわかる言葉で話をしだしたのにも驚いたが、それ以上に、お父様という言葉に驚いた。
「それでミフィ。あなたの目には、どう写ったのですか?」
「突然、別人になりましたわ。」
「どのように顔が違いますか?詳しく話してください。」
「お父様の顔は、ガボールよりもすっとしていて、知性に満ち溢れていますわ。
瞳の色は、ガボールよりもブラウンの色合いが、濃く見えます。
眉毛も細くて、髪の色は同じような黒ですけれど、お父様は短くてすっきりとした、整った髪型ですわね。
あと、お父様はバンダナを巻いていませんわ。
身長はお父様の方が高いのですけれど、体型はガボールの方が締まって見えますわね。」
お!俺の方が体は締まってるのか?
身長は負けてるんだな。
それなら、引き分けだな。
ん?なんの勝負だ?
「ガボくんの顔はどう見えますか?」
アナザーがそう言うと、俺達はまた入れ替わったが、その途端、ミフィは露骨に嫌な顔をした。
俺に喧嘩を売ってるのか?
買わないけどね。
痛いのはいやだ。
「ガボールの顔には、知性の欠片も見当たりませんわ。
顔はそこそこですけれど、お父様の顔の方が断絶、凛々しいですわね。」
そこそこか…。
ハンサムではないと、自覚しちゃいるがまぁ、そこそこならヨシとするか…。
って、何がヨシなんだ?
つか、アナザーはお父様で、俺は呼び捨てかよ!
それって差別だよな?
差別は良くないぞ!差別は!
それにしてもミフィは、いいとこのお嬢さんみたいなしゃべり方をするな。
誇り高き乙女ってのは、そういう意味なのか?
ユンにもその言葉遣いを、教えてくれないだろうか?
大きくなったユンに「お父様。」なんて呼んでもらいたいもんだ。
お父様なんて柄じゃねぇのは、わかっちゃいるが。
「どうやらミフィの目には、私とガボくんが、全くの別人に見えるようですね。」
『他のやつにも、そう見えるんじゃないか?』
「確かめて見ないとわかりませんが、多分、彼女にしか見ないように思いますね。」
『なんでだ?』
「私には、バンダナを巻いている感覚がありますが、ミフィには、バンダナが見えなくなるみたいですからね。」
『言われてみればそうだな…。』
「あとで鏡で確認してみましょう。」
『鏡か…。ユーミに借りるしかないな。それよりミフィに聞きたい事があるんだが。』
「わかりました。」
俺とアナザーが入れ替わると、ミフィが露骨に嫌な顔をした。
ハッハッハッ!
なんでもいいや!
好きにしてくれぃ!
「なんでお父様って呼ぶんだ?」
「お父様をお父様と呼ぶのは、当たり前の事ではなくて?」
ミフィは当たり前のように言った。
そらそうだ。
もっともなお話だ。
でもミフィは人形じゃないか。
「人形がお父様って呼ぶのは、おかしかねぇか?」
「私に体を与えてくれたのはお父様ですわ。
私に体を与えてくれた男の方の事を、お父様と呼んで何がおかしいのかしら?
お父様は男なのですよね?」
「そらそうだ。ミフィは女だろ?」
「そうらしいですわね。」
ん?なんだ?自覚がないのか?
「そうだ。ミフィは女だ。女は偉いんだぞ?」
「何が偉いのかしら?」
「女は赤ちゃんを産むからな。男にゃ赤ちゃんは産めねぇから、女の方が偉いと俺は思ってる。まぁ、人それぞれに考えがあるだろうけどな。」
「赤ちゃん?産む?」
ミフィは首を傾げた。
「生き物ってのは、母ちゃんのお腹から生まれてくるもんだろ?」
「産む?生まれてくる?どういう意味かしら?」
ミフィは不思議そうに言った。
「どういう意味って…。」
そういや、生まれるってなんだ?
産んでもらう方法はわかってるけど、生まれるっていうのは、うまく説明出来ねぇな。
それって、わかってねぇって事か?
『難しい質問を受けましたね。』
「お前はわかるのか?」
『わかりませんよ。』
アナザーははっきりと答えた。
「だよな。うまく説明出来ねぇよな。」
『いくら人間が成長しても、命の発生と根源を、解明することは不可能でしょう。』
「そうなのか?」
『少なくとも、私がいた場所では解明されていませんし、解明される事もないでしょうね。』
「いくら考えても、無駄って事か?」
『考える事は無駄ではありませんが、それを考える意味がありますか?そんな時間がありますか?』
確かにそうだ。
そんな事を考える時間はねぇし、それを知ったところで、なんの意味があるんだろう?
「そうだな。アナザーの言う通りだ。」
『一つだけ言えるのは、ミフィは我々とは違う型で、今ここに存在していると言う事です。』
「そうか…。そうだな。」
『ですから、我々はただ、その事実だけを、受け止めればいいのではありませんか?』
「確かにな。理由なんか、どうでもいいわな。」
『そう言う事です。物事に意味などありません。意味とは常にあるのではなく、考えるものです。』
小難しい事を言いやがる。
「ミフィ。ミフィがお父様と呼ぶ理由は、なんとなくわかった。
生まれるって事は、今の俺にはよくわかんねぇ。
うまく説明出来なくてごめんな。」
「それならそれで、構いませんわ。私は生まれるという事の意味を、そこまで知りたいとは思っていませんもの。」
ミフィはそう言って笑った。
俺は、そんなミフィを見て一つ思った。
ミフィは人形じゃねぇ。
たったそれだけの事だけどな。
「で、俺はこれからどうすればいいんだ?」
『とりあえず、私とミフィに、この世界の事を教えてください。話はそこからですね。』
「この世界?」
『私もミフィも、こことは違う世界から来た者のようです。』
「世界?世界って地図に載ってる場所の事じゃねぇのか?」
『それとは違うのですが、うまく説明が出来ませんので、今はそれでいいでしょう。』
「あんたにしちゃ、いい加減だな。」
『口では説明がしにくいのですよ。それが説明出来るようになれば、必ず説明しますので、それまで待っていてください。』
「期待してるよ。」
『そう言えば、あと4人いるそうですので、探さなければいけませんね。』
「俺が残りの4人を、探さなきゃならんのか?」
そいつは面倒な話だ。
最初から全員、揃えてくれりゃいいのに。
「探す必要はありませんわ。」
突然、ミフィが言った。
「え?どういう意味だ?向こうから、こっちに来てくれるってのか?」
「いいえ。時が来れば見つかりますわ。」
「時が来れば?」
「近くにいれば、私にはわかりますもの。」
「わかるのか?」
「えぇ。近くにいればですけれど。離れ過ぎていれば、さすがにわかりませんわ。」
急に俺とアナザーが入れ替わった。
アナザーは簡単に俺と入れ替わるが、さっきから何回試してみても、俺には出来ねぇ。
なんか納得がいかねぇな。
いずれは俺にも、出来るようになるんだろうか?
「なるほど…。」
アナザーはそう言って納得したようだが、俺にはわからねぇ。
ずっと、わからねぇ事だらけだ。
「ところでガボくん。これからどうしましょうか。」
『これから?』
「いつまでも、ここにいるつもりですか?」
『そらそうだな。』
「ガボくんも、家に帰らないとまずいでしょうしね。ですが一つ、大きな問題があります。」
『問題?』
「この状況を、あなたの奥様にどう説明するかです。」
『あ!』
俺は焦った。
確かにそうだ。
この状況を、ユーミになんて話せばいいんだ?
例えば俺が、こう切り出したとする。
「ユーミ!俺の体が盗られちゃったよ!どうしよう?」
「なにそれ~。なんの冗談?」
こんな感じだろうな…。
これはどうだ?
「ユーミ。話がある。」
「どうしたのガボ?」
「実はかくかくしかじかで、こんな事になったんだ。」
「そうかそうか~。ガボも疲れてるんだね~。とりあえず、ご飯にしようか?」
こんな感じになるだろうな…。
ん~。無理だ。
どうしたって無理だ。
うまく説明出来ねぇ。
説明のしようがねぇ。
逆の立場なら、俺だって信用出来ねぇもんな。
『どう説明すりゃあ、いいんだか…。』
「ありのままを伝えれば、いいのではないでしょうか。」
アナザーはそう言った。
『ありのままって言ってもよ~。誰が信じてくれるんだ?』
「信じてくれるのは、奥様だけで充分では?私も今の状況を、他人に知らせるつもりはありませんし。」
『そらそうか…。』
「下手に嘘をつくと、後で話がややこしいくなると思います。
奥様に不信感を持たれても、構わないのですか?」
『それは困る!それは困るぞ!ユーミに嘘をつくのも嫌だ!』
「でしたら、正直に話をするしかありませんね。
もちろん、おかしな誤解をされないように、私もミフィも、あなたを援護いたしますよ。」
『そうするしかないか…。』
「とりあえずは、軽く打ち合わせをしましょう。ミフィもよろしいですね?」
アナザーがミフィに向かってそう言うと
「はい。いつでも構いませんわ。」
ミフィはそう言って微笑んだ。
【次回予告】
打ち合わせを終えて、家に戻る事になったガボとアナザーとミフィ。
果たしてユーミは、現状を把握してくれるのか?
次回第6話
「信じてください。」
乞うご期待!