第1章 第4話「アナザー」
4話です。
何者かに体を盗まれたガボ。
偉そうな事を言う何者か。
ガボは、何者かはどうなるのだろうか!
第1章 Beginning
第4話「アナザー」
「ちょっと待て!まずはあんたの名前が知りたい。」
俺は、俺ではない俺に言った。
とりあえず、名前を聞かなきゃ話も出来ん。
『先にあなたの名前を聞かせてくれませんか?』
「俺か?俺はガボール・ウィンストン。みんなガボって呼んでる。」
『ガボくんですか。私の事は…そうですね…。アナザーと呼んでください。』
「アナザー?」
変わった名前だな。
『あまり長い名前だと、呼びにくいでしょう。4文字なら妥当かと。』
「本当の名前じゃねぇのか?」
『はい。』
この野郎。いけしゃあしゃあとぬかしやがった。
「お前は、はなっから嘘つく気なのか!」
俺は怒ってやった。
こいつは嘘つきかもしれん!いや、きっと嘘つきだ!
『私の本名はイントネーションが難しいと思います。特にあなたには。』
「とりあえず言ってみろよ。聞かなきゃわかんねーだろ?」
『⚪×△□⚪です。』
「はぁ?」
なに?なんて言ったんだ?どこで区切るんだ?
くそぅ…。悔しいがこいつの言うとおりだ…。
なんて言ったかすら、聞き取れねぇ…。
発音も無理っぽいな。
「わかった。アナザーでいいや…。」
人間諦めが肝心だ。
わからんもんはわからん。
『アナザーとは、「違う」という意味です。私は違うあなたという事ですね。』
この野郎。しゃれたことを言いやがるじゃねぇか。
「じゃあ、あんたは今日からアナザーだ。で、なにから話をする?」
「そうですね。まずは…。」
結局、俺達はそこから2時間くらい話をした。
話と言うより、こっちが一方的に質問され続けただけだが。
俺は話をするうちに、アナザーの言っている事が本当なんだと思いだした。
そう思えるほどアナザーは、真剣に俺の話を聞いていたし、なによりアナザーからは、死霊に取り憑かれた感じがしない。
死霊に取り憑かれた奴なんか、目が腐るほど見てきたが、そいつらには知性なんて、かけらも見当たらない。
ただただ、ひたすらに襲いかかってくるだけだから、会話なんて出来るはずがない。
だいたい、今まで散々、いろんな奴らに騙されてきた俺だ。
相手の嘘くらいは、見抜く自信はある。
そうじゃなきゃ、俺はとっくに土の下で寝てる。
騙されやすいと言うことは、命を落としやすいって事だ。
バカが生き残れるほど、世の中そんなに甘くねぇ。
話を聞くと、どうやらアナザーは、俺の知らない場所から来たらしい。
いや、強制的に連れてこられたとか言ってたな。
その場所はどこかと聞くと、うまく説明が出来ないという。
説明をするには、情報が足りないらしい。
そらそうか。
どこに来たのかさえ、わかってないんだもんな。
俺がアナザーは、召喚魔法で呼ばれたんじゃないかと言うと、アナザーはそうかも知れないと言った。
しかし召喚魔法は、言葉としてあるだけで、現存していないと言われている、幻の魔法だ。
なにせ物語の中で、出てくるだけの魔法だからな。
アナザーのいた場所には、魔法がなかったらしい。
俺が誰も魔法が使えないのかと聞くと、そうだとアナザーが答えた。
しかも、人族以外の種族がいないとも言った。
人族しかいない?全く想像がつかねぇ。
話が落ち着き始めた頃。
『ちょっと失礼。』
アナザーがそう言うと、一瞬、俺の意識が遠のいた。
『あれ?体から離れる!』
すっーっと、意識が体から離されたような気がしたと思ったら、やっぱり離された。
体ドロボーは、クローゼットに向かって歩きだした。
体ドロボーがクローゼットの扉を開けると、中には服と帽子、それと立派な杖と木箱があった。
体ドロボーは、おもむろに木箱を取り出した。
クローゼット?あんなクローゼットあったか?
俺が見落としたのか?
「あなたに報酬を渡さなければなりません。」
『報酬?』
「私をここに連れてきた人が、あなたが言う、アンドローの預かり賃を支払うそうです。アンドローを預かりますか?」
預かり賃?なんだそれ?
なんで俺が人形を預からなきゃなんねぇんだ?
「あなたが預からないのなら、あなたへの報酬は全て、私の物になるそうですよ。」
まぁ、人形を預かっただけで金になるなら、別にいいかな?
『よしわかった。それで、なにをくれるんだ?』
「確かに返事を頂きました。あとから拒否は出来ませんよ?」
『男に二言はねぇ。』
「わかりました。あなたへの報酬は、中を見ればわかるでしょう。」
体ドロボーのアナザーは、そう言って木箱を開けた。
『うわ!』
中を見て、俺は大きな声を出した。
木箱の中には、小さな革袋が一つと、色とりどりの魔法鉱石がたくさん詰まっていた。
それだけじゃない。
信じられないほど、デカい赤い魔玉も一つあるぞ。
こんなにデカいやつは、初めて見たな。
これ一つ売りさばいただけで、都の一等地に家が建つぞ。
残りの魔鉱も売っちまえば、死ぬまで働かなくて済むぞ。
使用人も雇えるだろうし、ユーミにでっかい鏡も買ってやれるし、ユンを学校にも通わせてやれる。
アンドローを預かると言って、正解だったな俺!
いい判断だ俺!
帰ったらユーミに、ご褒美のちゅーをしてもらおう。
俺が大喜びしていると、アナザーは小さな革袋を手に取り
「これがあなたへの報酬だそうです。」
なに?今なんつった?
俺の報酬はその、ちっちゃくて汚ぇ革袋だけってことか?
そんなちっちゃい革袋じゃ、さほども入ってねぇぞ?
『ちょっと待ったれや!じゃあ後のは全部お前のかよ!全然割にあわねぇぞ!』
俺は自分の権利を主張した。
「いえ。残りは全て、アンドローの物です。私への報酬は別にあります。」
アナザーは信じられない事を言いやがった。
『お前はバカか?バカタレか?人形に大金渡してどうすんだよ!』
「これは報酬ではありません。彼女にとって、必要不可欠なものなのです。」
彼女?何言ってんだ?ただの人形じゃねぇか。
「今の私には、これがなんなのかはわかりかねますが、この大きな丸い玉は、彼女の一部です。」
アナザーはそう言うと、赤い魔玉を手に取り、人形の元へと向かった。
アナザーは人形の胸の所を開けると、胸にある丸いくぼみに魔玉を入れた。
サイズはぴったりのようだ。
『なにしてんだ?』
「後でわかりますよ。」
いやいやいや!それは俺達家族の、都の一等地の豪邸だ!
人形なんかの部品じゃねぇ!
そうか!アナザーが寝てる間にでも、すり替えちまえばいいか!売っちまえばこっちのもんだ。
『俺の報酬を見せてくれよ。』
「そうですね。」
アナザーは革袋を開き、手を突っ込んだ。
「これしか入っていませんね。」
俺の。いや、アナザーの指につままれていたのは、一枚の金貨だった。
『ちょっと待て!よく見せてくれ!』
俺は金貨を見て、興奮しながら言った。
金貨は普通のものより、かなり大きく、表には王冠を被ったルーン族の王様らしき顔が。
裏にはなにやら、立派な城が浮き上がっている。
ルーン族の城だろうか?
「綺麗な金貨ですね。それに、かなり精巧に出来ています。金貨というより、芸術品ですね。」
アナザーはそう言って、金貨をじっと見ている。
『これは…。ひょっとして、五大金貨じゃねぇか?』
手垢の一つも付いていない、ピカピカに光る大きな金貨を見て、俺は思わず息を飲んだ…。
何というか、見ているだけでも、恐れ多い気がしてくるほど、威厳と言うか、風格がある金貨だ。
「五大金貨ですか。」
『多分…。いや、間違いなく五大金貨だろう。
五大王家が、一枚づつしか持っていないと言われる、幻の金貨だ…。初めて見たぜ…。』
「五大王家ですか。それも気になりますが、あなたは初めて五大金貨を見たのに、なぜ本物だとわかるのですか?」
アナザーは不思議そうだ。
『こんなに手の込んだ金貨は他にはねぇ。
そもそも五大金貨は、誰がどうやって作ったかすら、わかってねぇんだ。
売ったらいくらくらいになるんだ?』
「ニセモノの可能性は?」
『ない。』
「はっきりと言い切りましたね。」
『五大金貨は門外不出ってやつでな。五大王家の王様ですら、王位継承式でしか見たことがないらしいし、ドワーフ族ですら、こんなすげぇ金貨を作る技術がないからな。』
「確かに。これは鋳造されたものではなく、完全な削り出しですね。素晴らしい技術です。」
アナザーは、まじまじと金貨を見ながら言った。
『そんな事がわかるのか?』
「こういった物は、子供の頃から見慣れているんですよ。それより、これが読めますか?」
アナザーはそう言って、金貨に小さく彫られている所を指さした。
『なんだこれ?何かのマークか?見たことねぇな。』
「でしょうね。」
なにが「でしょうね。」なのかはわからんが、なんか腹立つな。
『だから、私があなたを助けてあげます。』
『はぁ?』
「ガボくん。君はあまり学問が得意ではないでしょう。」
なんだとコノヤロウ。
それって、バカって事じゃねぇか!
『言ったな!言っちゃいけねぇ事を、はっきりと言いやがったなコノヤロウ!どうせ俺は、文字も満足に読めねぇバカだよ!』
俺様ちゃんはプンプンだ。
「ガボくんは決して、バカではありません。学問を知らないだけです。だから私が学問を教えてあげます。」
『バカ言うな。お前の方がなんにも知らねぇじゃねぇか。』
「それなら私と勝負をしませんか?」
『勝負だぁ?』
「1週間の時間をください。1週間の間、私があなたに文字を教えましょう。
その間に、あなたが文字を覚えたら私の勝ち。
覚えられなければ、あなたの勝ちです。」
『そんな事出来るのか?あんた文字が読めないんだろ?』
「今は読めませんが大丈夫ですよ。すぐに覚えますから。」
アナザーは当たり前のように言った。
とんでもねぇ自惚れ屋じゃねぇか。
よっぽど、てめぇの頭がいいと思ってやがるな?
お高くとまったエルフ族くらい、いけ好かねぇ野郎だ。
『よしわかった!その勝負受けてやる。俺が勝ったら、なにしてくれるんだ?』
「一つだけ、あなたの言うことを、なんでも聞きますよ。」
『お前が勝ったら?』
「一つだけ、私の言うことを聞いてください。」
『よしわかった!俺も男だ!嘘はなしだ!』
俺は胸を張って言った。
いや、実際には張ってはいないが、心意気の話だ。
ちくしょー!体ドロボーめ!
「交渉成立ですね。それでは。」
アナザーはそう言うと、クローゼットを開けて、中にあった服と帽子、見るからに立派な杖を取り出し、可愛らしい人形に服を着せ始めた。
紺色の天鵞絨で出来たとんがり帽子を頭に被り、同じく紺色の天鵞絨の服にローブを纏った人形は、どこからどう見てもルーン族の魔法戦士にしか見えない。
こいつら、体は小せぇけど、おっかねぇんだ。
「出来ましたね。さすがに裸は恥ずかしいでしょう。」
だから人形だっつーの。
「それでは始めましょうか。」
アナザーは作業台から人形を降ろし、地面に立たせると、人形の前に立った。
「⚪×△⚪×。」
アナザーが杖を持ったまま、人形に向かって、何やら呟いた。
聞き覚えのない言葉だ。
するとすぐに、人形に変化が現れた。
人形の肌がみるみるうちに、人間のような柔らかいものに、変わっていったのだ。
『うわ!』
俺は思わず叫んだ。
だって、人形が人間そっくりになったんだもの。
誰だって、驚いちゃうでしょーよ。
ボク、間違ってないよね?
人間。
いや、人間そっくりになった人形は、ゆっくりと大きな瞳を開き始めた。
【次回予告】
目覚める人形。
パニック状態のガボ。
落ち着き払ったアナザー。
三つ巴の勝負が今、名も無き遺跡で繰り広げられる!
次回 「ガボvsアナザーvs人形。遺跡の大決戦」
乞うご期待!
嘘です。