第1章 第3話「あんた誰?」
3話です。
お目当てのお宝はあるのかな?ないのかな?
第1章 Beginning
第3話「あんた誰?」
「うぉ!」
俺は思わず声をあげた。
俺が丸いのを押したら、勝手に扉が開いた。
一体、どういうカラクリだ?
こんなカラクリは初めて見たぞ?
俺の胸がドキドキとしだした。
扉のカラクリがこれだけすげぇんなら、とんでもないカラクリの罠が、他にもあるかも知れねぇ。
考えただけでゾッとするが、それと同時にわくわくもする。
これだけのカラクリを使っているなら、中にはすげぇお宝があるかも知れねぇ。
俺の期待が、恐怖心をに上回った。
墓荒らしの習性だ。
扉の向こうにあったのは、普通のサイズの扉だった。
サイズは普通だが、金属で出来たような扉で、ノッカーなどの装飾は一切なく、滑らかな表面でスベスベしている。
この遺跡を造った奴は、滑らかが好きなのか?
それともシンプルな造りが好きなのか。
俺には味気なくて面白味がないが。
俺は扉についたノブを掴んだ。
ゆっくり回してから手前に引くと、驚くほどスムーズに開いた。こんなに軽い金属の扉は初めてだ。
扉がゆっくりと開くとそこには、まばゆいばかりに光り輝く、抱えきれないほどの金銀財宝が!
なかった…。
暗闇が部屋を包んでいるだけだ。
俺はランタンを動かしながら、部屋の中を見渡した。
机と椅子が一つと、大きな作業台が一つあるだけの小さな部屋だった。
作業台の上にはたくさんの部品が置いてある。
なんの部品なのかは、ちんぷんかんぷんだが、いろんな形の、いろんなサイズの部品がアホほどある。
中には、大都市の時計台の中で見た事があるような物もあるが、驚くほど小さくて、指先でつまむのも難しそうだ。
俺なら確実に無くすだろうな。
しかし、こんなに小さな物が作れるなんて、どれだけ手先が器用なんだ?
世の中には、すごい奴がいるもんだ。
俺なら発狂するだろうな。うん、間違いない。
次に、机の上をランタンで照らしてみたが、何もなかった。
ただ、この机も金属で出来ているようだ。
俺は机を手で押してみた。
さほど力を入れなくても、スッと動いた。
びっくりするほど軽い。
椅子の方は変な形をしていた。
座るところから、背もたれが生えているように見えるな。
四つの脚に、丸い玉が付いていて、動かすとスッと動いた。
動いたというより滑ったのだろう。
何度かやってみたが、1度も引っかからなかった。
座面に手を当てたが、へんな固さだ。
皮でも布でもないし、柔らかくもないが固くもない。
なんだこれ?
椅子に興味のわいた俺は、ランタンを机の上に置き、椅子に腰を下ろすと、椅子からギシッという音がした。
背もたれにもたれかかると、反動が返ってくる。
座り心地は悪くないが、変な椅子だ。
俺は椅子に座りながら、お尻で椅子を前後に動かした。
椅子は滑らかに地面を滑り、俺はなんだか楽しくなってきた。
いかんいかん!楽しんでいる場合ではない!
俺は辺りを見回したが、めぼしいものは見当たらない。
「外れだったか…。」
俺がそう呟いた時だった。
俺は突然、激しいめまいに襲われた。
『しまった!罠か!』
対象が椅子に座ると発動する魔法でもかかっていたのか?
魔法の使えない俺に、魔力なんてものは感知出来ない。
興味にかられて、迂闊に椅子に座るんじゃなかった!
俺はそう思ったが、時すでに遅しだ。
俺は頭の奥から、波のようなものが押し寄せてくるのを感じた。
俺の意識がだんだんと、あやふやになっていく。
『なん…だ…これ……。』
俺は両手で頭を抱えがら、椅子に腰掛けたまま意識を失った…。
「ん…。んん…。」
俺が意識を取り戻した時、カチャカチャという音が耳に入ってきた。
目を開けると、忙しく動く二本の腕が見えた。
さっきの部品を触っているようだ。
目の前に映るものが、お花畑でも女神様でもないということは、ここは天国とやらではないらしい。
死ななくてよかった…。
ん?ちょっと待て!それ誰の腕だ!
俺だ!間違いなく俺の腕だ!
だって見覚えのある傷があるもの!
いつどこでついた傷か、ちゃんと覚えているもの!
目の前で動く腕は間違いなく俺の腕だ!
動かしている感覚は全くないが、絶対に俺の腕だ!
そう言えば体を動かしている感覚が全くないな…。
ちょっと待て!じゃあ、誰が動かしてるんだ?
「目が覚めたかね。」
突然、俺が話を始めた。
今まで聞いた事もない声で…。
『あんた誰?』
俺はそう言ったが、声にはでていないようだ。
「説明は後でいいかな?今、肝心なところに来ているんだ。少し集中したい。」
俺が、俺ではない声で言った。
会話は出来るようだ。
『わかった!おまえ魔族だな!俺の体を乗っ取ったのか!』
「魔族?なんですかそれは?」
質問をしてきた割には、全く興味なさそうな声がした。
『なんか変な魔法で、俺の体を乗っ取ったんだろ!返せ!俺の体返せ!』
俺は猛抗議した。
「魔族?魔法?何やら聞き慣れない言葉が出てきましたが、とりあえず今は、静かにしてもらいたいですね。話はいつでも出来るでしょう。」
俺ではない俺が、部品を組み立てながら言った。
『なにわけわかんねーこと言ってやがる!早く俺の体返せ!おまえの狙いはなんだ!ユーミか!だったら殺す!殺してやる!』
「ユーミ?その人は誰ですか?体を返してもいいですが、あなたにこれが、組み立てられますか?」
俺ではない俺が、俺に尋ねてきた。
なんだか、ややこしいな。
『なんだそれ?』
「平たくいえば、アンドロイドですね。」
俺ではない俺は、訳のわからない言葉を口にした。
『アンドロー?なんだそりゃ?』
「わかりませんか?」
『さっぱりわかんねー。』
ちっとも平たくねぇぞこの野郎?
トゲトゲでびっしりじゃねぇか。
「聞き覚えもありませんか?」
『ねぇな。』
俺はあっさりと答えた。
「ちゃんと考えて返事をしましたか?」
『失礼なやつだな!ちゃんと考えたよ!』
「それは失礼。あまりにも返事が早かったのでね。」
『なんでアンドローを組み立ててるんだ?』
「アンドロイドです。ある方に頼まれましてね。いや、あれは頼まれたのではなく、脅迫ですね。」
『脅されたのか?』
「そういう事です。」
俺ではない俺が、諦めたように言った。
ほんと、ややこしいなぁ、おい!
『なんで言うことを聞いてんだよ!』
「そのあたりの話は、後でゆっくりしましょうか。とりあえず、あと一時間ほどは静かにしてくれませんか?どんな状況であれ、私は作業の邪魔をされるのが大嫌いなのです。」
『しょうがねぇ…。あとでちゃんと話を聞かせろよ。』
会話が成立している以上、敵意はなさそうだ。
ここは待つしかねぇだろう。
「わかりました。私が知る限りの事をお話しましょう。」
俺ではない俺がそう言ったので、俺はそこから静かにした。
それからちょうど1時間後、俺ではない俺が組み立てた、アンドローが出来上がった。
アンドローは体長1.3mほどの女の子の人形だった。
赤ちゃんのような、頭が大きく、ふっくらぷにぷにした手足の短い体型で、とても可愛らしい。
長い金髪を頭のやや後ろの方で、ツインテールにしており、顔の割には大きな瞳をしている。
今は閉じているので、どんな瞳なのかわからないが。
それにしても素晴らしい出来だ。
関節以外は本物のように見える。
どんな名工が作ったのだろう?
『すごいな!人形には見えねぇ!いや、アンドローだったか?』
「アンドロイドです。確かにすごいですね。ここまでくれば芸術作品でしょう。」
『どっちでもいいや。それにしてもあんた。何にも見ねぇで、よく組み立てられたな!』
「これを組み立てる為に、私はここにいるようなものですからね。とりあえず起動してみましょう。ちゃんと動くとは思いますが、やはり心配です。それにしても変わった姿ですね。」
『あんた、ルーン族を知らないのか?』
「ルーン族?なんですかそれは?」
俺ではない俺は、不思議そうに聞いてきた。
『ルーン族ってのは、小柄だがとんでもない魔力を持った民族でよ。恐ろしく目と耳と鼻がいいんだ。獣人の一種じゃないかと言われているんだが、詳しい事はわからねぇ。あんたも見た事くらいあるだろう?』
「ルーン族…。魔力…。獣人…。」
俺ではない俺は、何かを考え始めた。
『どうしたんだ?』
「魔族…。魔法…。」
『どうした?』
「ちなみに一日は何時間ですか?一ヶ月は何日ですか?1年は何カ月ですか?」
『いきなり、矢継ぎ早に聞かれてもよぅ。えーっと、一日は24時間、一ヶ月は30日か31日、1年は12ヵ月だな。あんた、そんな事も知らないのか?』
「なるほど。わかりました。では次の質問です。星座は知っていますか?」
『星座?全部は知らねぇが、少しは知ってるぜ。月の読み方は星座の名前だしな。』
「なるほど。ちなみに月の読み方を教えてください。」
『魚の月から始まって、羊、牛、双子、カニ…。』
「最後は水瓶ですか?」
『そうだ。12番目の月は水瓶の月だ。』
「なるほど。」
『さっきから、なるほどばっかりだなおい!』
「納得しているから、なるほどと言っているのです。」
『そりゃあそうか…。』
「それでは話をしましょうか?」
『そうしてくれぃ。』
「まず最初に言える事は二つ。あなたにとって残念なお話と、とても良いお話があります。どちらを先に聞きたいですか?」
『悪い話からやってくれぃ!』
「では悪いお話から。私とあなたは、これからしばらく共存関係になります。」
『共存関係?なんだそれ?』
「しばらく一緒だと言うことです。」
『しばらく一緒だぁ?どういうこった!』
「しばらく、私があなたの頭の中に、住むと言うことです。」
『はぁ?あんた何言ってるんだ?頭おかしいのか?』
「こういう事です。」
頭のおかしい奴の声が聞こえた途端、俺の体が自由になった。
「戻った!」
俺は体中を動かしながら、素直に喜んだ。
俺は自由だ!自由万歳!
『わかりましたか?』
「え?」
俺の頭の中に声が響いた。
さっきと逆になったって事か!
『簡単に言えば、今の私はあなたと一つの肉体を、共有しているのですよ。』
「どういう意味?」
『今の私は肉体を持ちません。』
「おいおい!それって、俺があんたに取り憑かれたって事じゃねぇか!あんた言葉は丁寧だが、死霊って事だろ?出て行けよ!出て行ってくれよ!取り憑くなら、別の奴にしてくれよ!」
『死霊と言うのはよくわかりませんが、多分、それではないでしょう。それに、出て行けるのならば、とっくに出て行ってます。どうやら話によると、いくつかの条件を満たさないと、私はあなたから、離れられないようなんです。』
「条件?条件てなんだ?それで離れられるんなら、さっさとやっちまおうぜ。」
ふざけるな!なんで他人と体を貸し借りしなきゃなんねぇんだ!
『条件はいくつかあるようですが、まず最初に私が言われたのは、そのアンドロイドを組み立てる事です。』
「次の条件はなんだよ?すぐに終わるんだろうな?」
『すぐに終わるかはわかりませんが、どうやらアンドロイドは他に4体いるそうです。』
「どこにいるんだよ?」
『私は知りません。場所を聞いてもわかりませんしね。』
「はいー?場所もわからないって、どういうこった?」
『ここは私の知らない場所です。あなたも知らない場所の事は、わからないでしょう?』
「あんた、どっから来たんだよ?」
『ここではない、遠い遠い場所ですね。今はうまく説明も出来ませんが、おいおい説明していきますよ。』
「なんで、そんな事がわかるんだよ。」
『まず最初に、私がいた場所では、あなたのような格好はしません。私が見たところ、あなたのいる場所はかなり自然の多い場所ですね。』
「この辺りは辺境だからな。大きな町に行きゃあ、そうでもないぜ?」
『あなたは森の中に住んでいますが、あなたの仕事は、木こりではないですよね?』
「当たってる…。」
『林業で生活をしていないとなると、あとは狩猟が仕事なのかとも思いましたが、それも違う。』
「なんでわかるんだ?」
『あなたは斧もノコギリも持っていないし、罠も弓矢も持ってはいません。そこで私が導き出した答えは二つ。一つは森林ガイド。もう一つは冒険家。』
「あんたすげぇな。で、どっちだと思う?」
俺は意地悪な質問をした。
『冒険家でしょうね。』
「理由は?」
『あなたは地図を持っていない。いくら慣れた森林ガイドでも、地図は持ち歩くでしょう。』
「当たりだ。正確に言えばトレジャーハンターだがな。」
こいつ頭いいな。いや待て。そもそもこいつが、嘘をついている可能性の方が高いじゃねぇか。
いかんいかん。
危うく信じるところだった。
『トレジャーハンター?それで生活が成り立つのですか?』
「俺はそれで、嫁さん子供を食わしてる。」
『あなた、奥さんと子供がいるのですか!若いのに素晴らしいですね。』
「何言ってんだ?俺はもう二十歳だぜ?嫁さん子供がいても、おかしくはねぇだろ?」
『なるほど…。ちなみに平均寿命はいくつくらいですか?』
「何歳くらいで死ぬかって事か?そうだな。俺達人族は、60まで生きれたら長生きした方だな。他の種族はもっと長生きするのがいるけどな。」
『他の種族とは?』
頭のおかしい奴は、おかしな質問をしてきた。
どうやら話が長くなりそうだ。
「そういや、いい知らせってのはなんだ?」
俺の問いかけに対して、答えはすぐに返ってきた。
『私があなたを助けてあげます。』
『はぁ?』
何言ってんだこいつ?
なかったようです。
次回の更新は、12/22水曜日の12:00を予定しています。