第1章 第2話「謎の遺跡」
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第1章 Beginning
第2話「謎の遺跡」
翌朝。
ユーミとユンに見送られながら、俺は家を出た。
「いつものいる?
ユンを優しく抱いたユーミがそう尋ねてきたが
「夜には帰ってくるからいいよ。」
と言って、俺はユーミの申し出を断った。
泊まりになるなら、絶対にもらったがな。
「気をつけてね。」
ユーミはそう言って、熱いチューをしてくれた。
続きは夜のお楽しみだ。
俺はユンのかわいい、ぷにぷにほっぺにチューをしてから、家を出た。
西の洞窟は俺達のスィートホームから、歩いて20分ほどの所にあるので、夜までには帰るつもりだ。
俺とユーミが辺境にある、このクレア村に住んだのには訳がある。
俺とユーミが、二人の愛の巣を探していた最中、偶然立ち寄ったこの場所を見て、俺達二人はいっぺんに気に入ってしまったのだ。
俺達のスィートホームは、鬱蒼とした森の中のわずかに切り開かれた場所にあり、近くにはきれいな川が流れている。
森の中にも関わらず、なぜかこの辺りには猛獣が近づいてこない。
近くにゴブリンが住んでいないのも、かなりポイントが高いな。
あいつらはバカだが悪知恵が働くし、なにより群れをなして、本能のまま動きやがる。
学習能力ってやつがないから、何度やられても、逃げたふりして何度も襲ってきやがるしな。
威嚇の通用しないバカは、本当にたちが悪い。
家自体は木造ではなく石で出来ており、台所と風呂場を除いても、4部屋もあってかなり広い。
建築に関しての知識はないが、一目見ただけで手の込んだ造りの家なのは、俺やユーミでもわかったほどだ。
何しろこの家は村の外れにあり、多少大きな声を出しても誰にも聞こえないし、何をしても迷惑はかからないだろう。
まさに新婚向きの物件ではないか!
そもそも、宿屋の壁が薄すぎるんだ!
ベッドの中くらい、自分を解放してもいいじゃないか!
喜び勇んだ俺達は、村長に話をつけてこの家を購入した。
村外れという事もあり、家の相場としてはかなり安かったと思う。
この村は若い村民が少ないので、俺達みたいな若い夫婦が来るのを歓迎してくれたんだと思う。
村の人達はよくしてくれるし、俺達も村の行事やお祭りには参加するし、率先して自警団にも入った。
よい関係を築けていると思うのだが、どうだろうか?
俺達は村の宿に滞在しながら、二人でこの家を改装した。
一ヶ月ほどで改装が終わり、俺達はこの家に移り住んだのだが、村の人達の話を聞くと、元々は気難しげで無口なじいさんが一人、この家に住んでいたそうだ。
じいさんは月に何度か村にやって来ては、食料や生活必需品を買っていったそうだが、ほとんど口をきかなかったという。
そのじいさんも5年ほど前に出て行き、そのまま空き家になっていたのだ。
住み始めて3年にも満たないが、住み心地はいい。
ま、ユーミとユンがいてくれれば、あばら屋だって楽しい我が家になるんだがな。
俺は鬱蒼とした森の中を抜け、垂直に切り立った岩場にたどり着いた。
かなり大きな岩場の前を歩きつつ、俺は目印を探す。
しばらくすると岩の壁の前に、大きな石を見つけた。
あった!
あの石が目印だ。
あの石の少し奥に、もう一つの石がある。
俺は岩壁の前に立つと地面の小石を拾い上げ、目印にしている石と石の間の壁に向かって投げた。
石は岩壁にぶつからず、そのまま岩壁をすり抜け、しばらくすると
カツン。
と小さな音がした。
どういう原理で、そうなっているのかはさっぱりわからないが、外から見ればただの岩壁にしか見えないこの場所。
実は洞窟の入り口なのだ。
俺はトレードマークの赤いバンダナを締め直すと、そのまま岩壁の中へと入っていった、
このわけのわからない入り口は、自分で探した訳では無い。偶然見つかったのだ。
この場所に住み始めてからしばらくして、俺とユーミはデートがてら、この辺りを散策していた。
ちょうどこの場所にさしかかった時、俺達はかなり雰囲気がよかった。ラブラブってやつだ。
「なかなかいい場所だな。」
岩だらけの殺風景な場所で俺は言った。
近くに人影もなく、二人っきりになれる場所は、俺にとってはどこであろうが、とてもいい場所である。
「そうだね。誰もいないね。」
ユーミも嬉しそうに答えてくれた。
同じ想いという事だろう。
「ちょっと休憩するか?」
「うん。」
俺とユーミはそう言って、岩壁を背に地面に腰掛けた。
俺が何気なく岩壁にもたれかかった瞬間、俺はそのまま後ろに倒れた。
「え?」
「え?」
あまりに予想外だった俺は、受け身もとれずに、そのまま地面にゴロンとひっくり返った。
「ガボ!」
ユーミは大きな声をあげた。
「なんだなんだ?」
俺は慌てて立ち上がりながら、辺りを見渡した。
後ろの岩壁はどこにいったんだ?
「大丈夫?ガボ?」
ユーミが慌てて俺に駆け寄り、心配そうに声をかけてくれた。
「大丈夫。しかしなんだここは?」
俺は辺りを見渡しながら言った。
そこは1m四方はある、大きな四角い石を積み上げて出来た石のトンネルのようだった。
馬車が余裕で通れるほど広い。
だが石にしては何かおかしい…。
手で触れた質感が石や岩ではないし、何より驚くほど表面が滑らかだ。
かと言って、金属でもなさそうだが。
俺は今まで、かなりの数の遺跡に入ったが、大半の遺跡は石や岩で出来ており、古ければ古いほど、壁はゴツゴツとしていて、苔が生えていたりするのだが、この壁は苔どころか傷ひとつ見当たらない。
俺は立ち上がるとすぐに、壁に手を当ててみたが、やはり石や岩とは違う感触だ。
何が違うかは上手く説明出来ないが、石でも岩でもない気がする。
確かめる為に壁を何度かさすってみたが、とんでもなく滑らかで驚いた。
王宮の大理石よりも、滑らかなんじゃないだろうか?
「ねぇガボ。これを見て。」
ユーミが壁のつなぎ目を指さしながら言った。
俺はユーミに言われるがまま、壁のつなぎ目を見た。
「なんだこれ?」
俺は我ながらおかしな声をあげた。
壁と壁とのつなぎ目が、髪の毛一本分くらいしかない。
「なんだよこれ?こんな事が出来るのか?どんだけすげぇ技術だよ?」
「石壁の上から、平らな石を貼り付けてるのかな?」
ユーミも石壁に触れながら言った。
「そんな手間のかかる事をするか?1個が1m四方もあるんだぞ?このサイズの岩をここまで研磨するのには、とんでもない時間がかかるぜ?それに見てみろよ。岩を研磨したなら、表面がまだらになるはずだろ?こいつは全然、まだらになってない。そもそもいつの時代の遺跡なんだ?こんなの初めて見たぞ。」
「なんだか気味が悪いわね…。」
ユーミは不安そうに、辺りを見回しながら言った。
俺は奥に続く通路に目をやった。
夜目が効く俺が見ても、通路の先が見えない。
どうやらかなり、長い通路のようだ。
「なんだか怖いわ。出ましょうよガボ。」
「いや、調べて見る価値はあるぜ。」
「え!」
ユーミは驚いている。
「こんな造りの遺跡は見たことがないだろう?てことは、見たこともないお宝がある可能性もあるしな。」
「でもその分、危険なんじゃ…。」
「だから、ゆっくり時間をかけて攻略しようと思う。家からも近いし。」
「グレン達を呼ぶ?」
「いや、まずは俺一人でやってみようと思う。空振りになる可能性も無いとは言えないだろ?ある程度マップを調べて、人手がいるようなら、グレン達の手を借りよう。」
「一人でやるつもりなの?」
そう言って、ユーミがほっぺを膨らませた。
「なにしろ初めて見るタイプの遺跡だ。何があるかわからねぇからな。」
「嫌よ!わたしも手伝うわ!」
ユーミは怒った。
「いやそれは…。」
「いくらなんでも、一人で遺跡の攻略は無理があるわよ。それに…。ガボは新婚の奥さんを、ほったらかしにするつもり?」
「ユーミ…。」
俺の胸は熱くなった。
なんてかわいい事を言ってくれるんだもう!
ギューッと抱きしめて、ブチューってしちゃうぞ?
ブチューって!
「剣士の私じゃ、出来ることは限られているだろうけれど、ガボの背中は守ってみせるわ!私に任せなさい!」
なんてかわいい事を言ってくれるんだ!
辛抱たまらん!
「ユーミ!」
「ガボ!」
俺達は激しく抱き合うと、そのまま滑らかな地面に横たわった。
結局その日は、そのまま家に帰り、翌日から二人で遺跡の攻略に入った。
だって、気がついたら陽が落ちかけていたんだもの。
夜中に遺跡攻略は、さすがに危ないだろ?
ちぃっとばっかり、頑張りすぎてしまったんだな。
もちろん、その日の夜も頑張ったけどな。
俺達はお弁当片手に、ピクニックに行く振りをしながら、三日に1度のペースで遺跡を調査をした。
毎日だと、さすがに人の目につく可能性が高いからだ。
時間はあるのだから、焦る必要はないしな。
しばらく二人で攻略をしているうちに、ユーミの体に新しい命が宿っていることがわかった。
俺達は遺跡攻略を中断して、ユーミの体調を気にかけながら、生まれてくる赤ちゃんを、迎え入れる準備に入った。
初産という事もあり、俺達は生活の中心をユーミにしたのだ。
何せ初めての事だから、俺達にも迷いがあった。
いろいろと試行錯誤もした。
俺はまず、頑張って本格的に料理を覚えた。
少しでもユーミの負担を少なくしたかったからだ。
頑張った甲斐もあって、ユーミは俺の作るシチューは美味しいとまで言ってくれるようになった。
洗濯も掃除もしたが、薪割りだけはユーミの仕事だった。
「いい運動になるし、鍛錬にもなるから。」
ユーミはそう言って、お腹が大きくなっても薪割りをしようとしたので、さすがにそれは止めた。
それでも毎日、素振りはやめなかったが、それは容認した。
割った薪がお腹に当たる事を考えたら、素振りの方が万倍マシだ。
なにより剣士のユーミにとって、体を動かせないのは欲求不満にしかならない。
毎日、素振りくらいはしないと、一気に煮詰まってしまうだろう。
実際、ユーミにとっては、良い気分転換になっていたしな。
俺は俺で家事をこなしながらも、三日に1度は遺跡を攻略しに行った。
1回の攻略時間は1時間程度と決め、帰りに薪を集めたり、木の実やキノコを採って帰った。
ゆっくり時間をかけながら、コツコツと攻略をしたのだ。
遺跡攻略は、俺自身の気分転換にもなってよかった。
万が一の事を考えると、不安に押し潰されそうになったが、おかげで煮詰まらずに済んだ。
遺跡攻略はそんな俺の不安を取り除いてくれたのだ。
こうしてユンは、無事に俺達のところに来てくれた。
力強く産声を上げるユンは、まさに天使だった。
『背中の羽は、お腹の中に置いてきたのかな?』
俺は真剣にそう思ったくらいだ。
ユンは生まれたばかりだというのに、髪の毛がフサフサしており、サルどころか天使みたいな顔をしていた。
取り上げてくれたヒルデ婆ちゃんも
「こんなに綺麗な赤ちゃんは初めて見た!」
と言って、しきりに驚いていた。
わかってるじゃねぇかヒルデ婆ちゃん。
かわいいじゃなく、綺麗と言ってくれた所が気に入った。
俺は、生まれたばかりのユンの髪の色をみて安心した。
ユンは赤毛だったのだ。
俺は黒髪だから、黒でもいいだろうと思うかも知れないが、生まれてくる赤ちゃんが、男の子だろうが女の子だろうが、俺には似て欲しくはなかった。
だって、世界一かわいい嫁さんに似たほうがいいじゃないか。
俺は2年近い時間をかけて、遺跡を攻略した。
遺跡の中は思った以上に広く、迷路のように入り組んでいたが、時間をかけて一つづつ潰していった。
ある時俺は、遺跡を攻略をしながら、ある思いが浮かんだ。
この遺跡には、何もないのではないだろうか?
なにしろこの遺跡には罠が一つもなく、遺跡とセットになっている、死霊や悪霊、スケルトンといった類いの魔物もいない。
猛獣どころか、トカゲや虫すらいないのだ。
普通、遺跡には作った人物の痕跡が残されている。
壁に彫られたレリーフなどが、権威の象徴として残されているのだが、それすらない。
中には金や銀で作られたものもあり、それらがあれば墓荒らしからすると、大変ありがたいのだが、金銀どころかレリーフ自体が見当たらない。
かなり控え目な権力者なのかも知れないが、そんな奴はいないと断言してもいい。
権力者にとって権威とは、ひけらかすためのものだ。
この遺跡はどこを見ても、いつもとは違うのだ。
ヘタすりゃ、お宝はないかも知れない。
俺はそう考えたが、不思議と残念だとは思わなかった。
グレンが聞いたら、眉を顰めながら「おまえは相変わらずの甘ちゃんだな。」と言うだろう。
だが俺は、この遺跡攻略が楽しかったし、遺跡攻略はユーミとの、夫婦の会話のネタにもなってくれた。
俺が遺跡攻略をして、財宝を要らないと思ったのは初めてだが、悪い気分ではなかった。
俺は遺跡の中を、地図も見ないで目的地へ向かって進む。
目的地は地下三階にある扉だ。
この遺跡には部屋が一つしかなく、あとは全部行き止まりだった。
変わった遺跡だろ?
俺は20分ほどで扉の前についた。
巨大な石の扉の右横には、大きなスイカを半分に切ったような、半球体のものが付いている。
あとはこの扉をあければ、本日の仕事は終わりだ。
しかし、この扉の開け方がさっぱりわからねぇ。
押しても引いても、うんともすんともいわねぇ。
だってこの扉。
鍵穴一つあるわけじゃねぇし、叩こうが斬ろうが、傷一つつかないほど硬いんだもの!
ベヒモスの皮より硬いんじゃないだろうか?
さすがにそれはないな。
とにかく。でかいハンマーで何度殴っても、へこみもしやがらねぇんだから正直、お手上げだ。
『どうすっかなぁ~。』
俺はランタン片手に頭を捻ったが、残念なことに、捻ってどうにかなるほど、立派な頭は持ってねぇ。
すると突然、右のほうから何かが光りはじめた。
「ん?」
俺が右を見ると、半球体が青白くほんのりと光っていた。
「光ってる…。」
ここが光っているのは初めて見た。
俺は五感を研ぎ澄ましながら、半球体に右手を押しあてた。
前に押した時は押し込めた。
あの時はなにも起こらなかったが、今なら何かが起こるかも知れない。
いや、ひょっとしたらこれは、何かの罠のかも知れない。
だとしたら、たまったもんじゃない。
ここまで来てヘタこくなんざ、まっぴら御免だ。
とはいえ、やらなきゃ何も起こらないし、いつまでも光っているとは限らない。
俺は覚悟を決めて、半球体を壁に向かって押し込んだ。
ゴゴゴゴゴ!
大きな音をたてながら、扉が左右にゆっくりと開いていった。
マジカルリンリンとは全く違うお話ですが、ロボットは出てきます。
ちょっとHですが、細かい描写は一切書きません。
と言うか、書く技術がありません。
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