第1章 第1話「ガボール・ウィンストンはドスケベ」
転生話にインスパイアされて、書いてみました。
主人公は魔法が使えない、ドスケベの男です。
よろしくお願いします。
第1章 Beginning
第1話「ガボール・ウィンストンはドスケベ」
この世界を生きていくのは、ちょっとばかり厳しい。
そのかわり、かなり自由に生きていける。
この世界は自然に満ちあふれている。
広大な大地には山々が連なり、清らかな水をたたえる、きれいな川も流れているし、澄んだ湖だってある。
町や村は各地に点々としており、さほど大きくもない。
冒険者と会うことすら、稀な村だってある。
建物は基本的に木か石で出来ているし、煉瓦の建物などもほとんどなければ、石畳なんて大都市でも無い限り、見かける事はないだろう。
なんという、自然に恵まれた素晴らしい環境だ!ちょっとくらいの厳しさを我慢すれば、自由に生きていけるのならいいじゃないか!
そう思うかも知れないが、話はそう上手くはいかない。
この世界は、誰もが自由に生きていける分、危険に満ちあふれている。
そこがこの世界の厳しい所だ。
厳しい環境の中には、二つの自由がある。
生きる自由と死ぬ自由だ。
なにせ町や村から一歩出れば、猛獣だの魔物だのというやつが、小さいのから大きいのまで、わんさか出てきやがる。
ちょいと隣の村まで出かける最中、クレイジーベアと呼ばれる体長2m以上あるデカイ熊が、森の中から現れるなんてのは、当たり前だ。
「こんにちは。今日もいい天気ですね。」
とでも言って、笑顔で立ち去ってくれりゃ、こっちも笑顔の一つも返す事が出来るのだが、二本足で立ち上がり、両手を広げ、唸り声で挨拶をしてくるものだから、意思の疎通なんてあったもんじゃない。
こっちが挨拶しても、シカトをしやがるから、たちが悪い。
そうなるとこっちも、早々にバイバイして貰うしかないので、鍬を手にした農夫のおっさんが、森の熊さんに手をかざし
「ファイヤー!」
とやるしかない。
ま、大抵の場合、熊さんは突然現れた炎に驚いてバイバイしてくれるので問題はないが、旅の最中に寝込みを襲われると、少々面倒くさくなるな。
まぁ、猛獣程度ならこんなもんだろう。
魔物は全然違うがな!
それにしても、魔法ってやつは便利でいい。
大抵の人間は魔法を使えるし、魔法のおかげで火起こしも水汲みも楽だ。
魔法が使えるやつはな!
物事に何でも例外があるように、中にはごく稀だが、魔法の使えないやつもいる。
それがこの俺。
「ガボール・ウィンストン」20才の自称、美青年である。
嫁さん子持ちだがな~。
魔法が使えないと困るだろうって?
なーに。困るには困るが、大したこたぁないさ。
怪我をしてもすぐに治せねぇ。
キャンプを張る時、いちいち火起こししなきゃならねぇ。
喉が渇いても水が作れねぇ。
毒をくらったら、草を噛みながら、ぜーぜー言うしかねぇ。
猛獣に絡まれたら、武器と体だけで戦わなきゃいけねぇから面倒くせぇ。
こんなもんか?
いや?大した事じゃねぇんだが、もう一つ忘れてたな…。
職業選択の自由がねぇ!アハハン!
この世界じゃみんな、何をするにも魔法に頼っている。
つーか、魔法がなけりゃ人族は生きていけねぇし、なかったらとっくに、他の種族に絶滅させられていたはずだ。
獣人族なんかは、みんな力も体力もすげぇあるし、エルフ族と呼ばれる耳の長い種族なんかは、知能も高いし体力もある。
その上、背も高くてスラッとしてやがる。
お高くとまってやがるので、正直、いけすかねぇ。
ルーン族と呼ばれる体の小さな種族は、すばしっこい上に、やたらに頭がよくて魔法に長けている。
小さいと言えば、ドワーフってのもいるな。
とんでもねぇ怪力で、鉱物にやたらと詳しいが。
他にも異族と呼ばれるおっかねぇ姿の、俺達とは生態系が違う種族なんかも入れれば、種族は結構多い。
そんな中、人族がなんとかやっていけているのは、魔法のおかげだと断言出来るだろう。
それほどまでに魔法の力は偉大だが、それだけ重要なものを使えないやつに、職業選択の自由などない。
大抵は農夫か、魔物や猛獣を倒す冒険者。
運と頭がよくて商売人だが、毎日畑仕事なんて、飽き性の俺には出来ないだろうし、金勘定どころか、文字すら完全には読めない俺に、商売なんて出来るわけがねぇ。
そうなると冒険者しかないのだが、誰でもなれる!と言われる冒険者の中でも、魔法が使えないと、職種はかなり限られてくる。
冒険者の代表的な職種は
回復師
魔法で傷を癒したり、毒を消したりする職種だが、中には呪いを解いたり出来る人もいるという。
死人を生き返らせる事も出来る人もいるというが、正直、無神論者の俺は信じていないし、そんな人見たこともねぇ。
無神論者は魔法が使えないとよく言われるのだが、知り合いの無神論者は魔法が使えるので、俺はこれも信じていない。
俺が回復師になれるわけがないし、なりたくもねぇ。
魔法戦士
魔法で攻撃をする戦士だ。
防御力が低いが、1度にたくさんの敵を倒せる高い攻撃力を持つ。
とんがり帽子にローブという軽装で、武器は杖が多い。
これは俺の偏見だが、インテリ面したやつが多いと思う。
眼鏡をかけてるやつも多いな?
ははは。魔力も学も無い、俺がなれるわけがねぇ。
戦士
様々な武器を使いこなす、物理攻撃のスペシャリスト。
体力があり、重装備が出来るので防御力も高い。
やせっぽちの俺には無理だな。
戦士は細かく職種が分かれていくが、今回は面倒くさいので説明はなしだ。
暗殺者
暗器と呼ばれるナイフやダガーなどを持ち、素早い動きで標的を翻弄しながら倒す、接近戦のスペシャリスト。
中には標的を猛獣や魔物から人間に変え、飯を食ってる連中もいるらしいが、俺には無理だ。
いや、むしろ御免被りたい。
まだまだたくさんあるが、とりあえずはこんなもんか?
どれも魔法が使えない俺には、無理な職種だ。
じゃあ、お前の仕事は何なんだと問われるとこれだ!
墓荒らし
秘境や遺跡。地下の洞窟などを巡り、お宝を探し出す仕事だ。
墓荒らしという呼び名は、あまりよろしくはないが、これでも人様の役には立っている。
2年前、俺はある秘境で温泉を探し当て、そこは今では秘境どころか、一大観光地になっていたりするのだ。
俺はその温泉地では英雄様なのだよ!フハハハハ!
正直俺は、自己防衛でもない限りは、命のやり取りをするのはあまり好きではない。
相手の家族の事を考えると、どうしても気が引ける。
嫁さん貰って、子供が出来たせいかな?
とはいえ、降りかかる火の粉は全力で取っ払うがな。
何せ気は強いが、とんでもなく可愛い嫁さんと、天使のようなかわいい娘がいるのだ。
死にたかねぇし、死ねるわけがねぇ。
出来れば殺したくもないな。
出来ればだが。
その日の夜。夕食を終えた俺は、決して良くはないが、世界一悪いとも言えない頭を抱えて、テーブルに腰掛けていた。
お金がない。
どう考えても、お金が足りないのだ!
親子3人で頑張っても、あと半年もてばいいところだろう。
手持ちのお宝を売ればなんとでもなるが、これには手をつけたくない。
いざって時の為に、備えは必要だからな。
今は手持ちのお金が底を尽きかけているのを、なんとかしたい。
いや、なんとかしなければならない!
わかっている!
原因はわかっているのだ!
俺とユーミの所に、かわいい天使が訪れたあの日から、俺は本業を辞めたのだ。
理由は簡単。
あんなにかわいい天使を置いて、何日も家を空けるなどという、バカな事が出来なかったからだ。
だから俺は猛獣を狩り、畑を耕したが、そんな生活をしていてもやっぱりお金は必要だ。
そんな俺達のかわいい天使、ユンも先月1歳になった。
ユーミと三人で盛大にお祝いをしたなぁ~。
ユーミがケーキまで焼いてくれたもんなぁ~。
あの日の夜は、二人で燃えに燃え上がったなぁ~。
あの夜を思い出すと、思わず顔がニヤけてくるなぁ~。
いかんいかん!そんな場合ではない!早急に金策を考えないといけないのだ!
ん?という事は、俺が本業を辞めて年半にはなるな?
あれだけ稼いだお金も、2年もあればなくなるのか?
なるほど~。これはいい勉強になった。
違う違う!そうじゃない!
そんな勉強はしなくていい!
俺は本業に戻らなくてはならないのだ!
愛する妻と子供を、腹いっぱい食べさせなくてはいけないのだ!
別に毎日毎日、豪勢な食事がしたいわけではない。
毎日イモと豆のスープだったとしても、ユーミと二人で食べればご馳走になる。
贅沢なんて言わない!なんなら晩酌だって我慢してもいい!
ん?そうすれば、あと一ヶ月は持つか?
ちがーう!だからそうじゃない!
お金を稼がなければならないのだ!
イモと豆のスープばっかりじゃダメなのだ!
たまには香辛料を効かせた、分厚いステーキでも食べないと、ユーミのおっぱいも出なくなるかもしれない!
だがしかし!
かわいいユーミと、天使のユンから離れたくない!
一日たりとも離れたくないのだ!
この時期の赤ちゃんなんて、一日で成長しちゃうんだぞ?
仕事に行って、一ヶ月ほどしてから帰ってきたら、すんごく成長してるんだぞ?
一瞬たりとも、天使の成長を見逃してなるものか!
ちょっと目を離した間に、ユンが女神になったらどうしてくれる?
とは言うものの…。お金がないとなんにも出来ない…。
いくらバカな俺でも、それくらいはわかる…。
しょうがねぇ。アレに手をだすか…。
「どうしたのガボ?」
俺の世界一かわいい嫁。
ユーミが心配そうに、俺の顔を覗き込みながら尋ねてきた。
癖の強い赤毛。
女神様のような顔。
抜群のプロポーション。
これで高価なドレスなんて着せたら、どの国のお姫様だってユーミには勝てまい。
それは困るから、そんなの着せないけどね!絶対にね!
「俺、明日から本業に戻るよ。」
「そうなの!頑張ってね!」
ユーミは笑顔だ。
「え?それだけか?」
俺は泣きたくなった。
あまりにも寂しい返事じゃないか。
「あたしだって…ガボがいないと寂しいよ?でも、毎日毎日、お芋とお豆のスープじゃ、元気でないでしょ?」
さすがはユーミ!俺の嫁さん!ナイスフォローだ!
「そうだなぁ。」
「で、どこに行くの?」
ユーミが興味津々で聞いてきた。
「西の洞窟。」
「あそこに本格的に入るのは初めてよね?大丈夫?」
「下調べは済んでるからな。未踏窟なのは間違いないし、場所すら誰にもバレてないだろう。」
「危なくない?」
「大丈夫。中の地図は頭に入ってる。あの扉さえ開けば、なんとかなるさ。」
「でもさ…。あたしも一緒に行けたら良かったな…。」
「それはダメ。」
俺は男らしく、きっぱり言い切った。
「わかっているわよ。ユンはあたしに任せて、ガボは気をつけて行ってきてね。でも、格好いいガボも見たかったな…。」
ユーミは上目遣いで俺を見た。
かわいいなぁ!もう!食べちゃうぞ?
「そ、そうか?」
俺はさりげなく格好をつけた。
「それじゃあ今夜はお祝いね。たーっぷりとサービスしてあ・げ・る!」
ユーミはそう言って笑った。
「それじゃあ早速!」
俺は椅子から立ち上がり、ユーミの所へ行くと、ユーミをお姫様抱っこした。
俺はユーミを抱えたまま、慌てて部屋を飛び出し、寝室へと向かった。
「キャッ!」
ユーミは嬉しそうに声をあげると、俺の首に両腕を回し
「たーっぷり可愛がってね。ダーリン。」
俺の耳元で甘く囁いた。
その瞬間、俺の理性ってやつは、いとも簡単にどこかに飛んでいってしまった。
戻ってくるかが心配だ。
「今夜は寝かせないぜハニー!」
俺は出来るだけ、格好いい声を出しながら言った。
「いや~ん!」
俺の世界一かわいい嫁が、嬉しい悲鳴をあげた。
これで燃えない俺ではない!
自分でもだらしない顔をしているのがわかる。
鼻の下なんて、顎の先まで伸びきっているだろう。
自分で言うのもなんだが、俺はスケベだ。
それも筋金入りの、ドスケベってやつだろう。
スケベで結構!
スケベが世界を作るのだと、俺は信じている!
興奮が最高潮に達した俺は、寝室までの道のりが、いつもより遠く感じられて、非常にもどかしかった。
別に魔法を使いたいとは思わないが、もし、寝室までの距離を縮める魔法があれば、死に物狂いで覚えてやる!
俺は心底そう思った。
ガボール・ウィンストンのドスケベぶりが伝わったでしょうか?
次の更新は来週の日曜日です。
読んでもらえると嬉しいです。