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外伝1 ガルムとサイロ

 ピヨピヨ、ピヨピヨ


「……っ!」


 小鳥のさえずりが部屋に届いてくる。扉奥の廊下からは足音が。

 白い耳を小刻みに動かし、ガルムは大きな欠伸をして、目を覚ました。


「うぅー! へっへっへっ、わう~わお~ん!」


 ベッドから飛び降りると、ガルムは元気いっぱいに床を駆け回る。

 たくさん眠って力が溢れていたのだ。椅子や机の脚を避けながら転がっていく。

 尻尾を振って、その尻尾を追いかけて。コツンっと、何かにぶつかった。大きな袋だ。


「わう」


 何だろう? 気になってガルムは袋に顔を突っ込んだ。

 すると、自分のではない匂いがあった。すぐに誰の物かに気付く。


「がぶがぶ」


 口に咥えて引っ張り出すと、それはオルガが昨日着ていた服だった。

 いい物を見つけたと、瞳を輝かせ、ガルムはベッドの上に戻る。

 ころころと転がって、ガルムは服に自分の匂いを擦り付けていく。


「わうぅ♪」


 ある程度で満足したガルムは、周囲の様子を伺う。まだ誰も起きてくれない。

 今度はオルガとリンネが使っている毛布の中へと侵入していく。早く誰かに構って欲しい。


 ――コツン。

 また何かにぶつかった。


「わう?」

「へっへっ、わうっ!」


 困り眉と前足の黒い毛が特徴的な白い狼、サイロだった。

 ガルムの鼻を舐めてくる。ガルムも挨拶代わりに鼻をくっつける。


「わうわお!」

「くぅ~ん」


 サイロはリンネとオルガに挟まれる形で眠っていたようで。いいでしょと自慢げに語る。

 ガルムはいいないいなと、場所代わってと訴える。だが、サイロはここは自分の場所だと言う。


「わうわん! わううっ!」

「う~、わう~!」


 ずるいずるいとその場で回るガルム。サイロはやだやだと抵抗する。

 両者、お気に入りの寝床を巡って、短い前足で相手の身体を押し合った。

 熱中し過ぎたサイロの黒い輪っか状の毛が輝いた。瞬間、【神腕】が発動する。


「きゃうん!?」


 ごろごろごろごろごろごろごろ、パタン。

 ガルムはベッドの隅まで飛ばされて、仰向けになった。

 すぐにサイロがやってきて、ごめんね……。と鳴きながら謝ってくる。


「わう」


 大丈夫だよっと、ガルムは答えた。

 サイロは使っていいよと、お詫びに場所を明け渡すが。


「わう~♪」


 ガルムはこっちにおいでと、自分の寝床に案内した。

 すぐに仲直りして、今度は一緒にオルガの服の上に寝そべる。

 袖を噛んで引っ張り、伸ばして遊ぶ。二匹とも悪戯が好きなのだ。


「むにゃむにゃ……主様……」


「わう?」

「くん?」


 寝言のうるさいリンネが、ベッドの中央を大きく占拠している。

 いつも野外で眠っていた彼女は、寝相が悪く、ガルムもよく巻き込まれていた。


「う、う~ん。狭い……」


 そして今は、オルガが壁に追いやられ寝苦しそうだ。


「わうぅ……」


 サイロがそんな様子を眺めながら、狭くて可哀想だとガルムに伝える。

 ガルムもそうだねと頷く。二匹は使命感に駆られ立ち上がり、行動を開始する。


 ベシべシベシベシベシベシ


「わふっ……あ、頭が……もう毒キノコは……嫌ですぅ」


 ガルムとサイロが後ろ足を高速で動かし、リンネを何度も蹴りつけ動かしていく。

 昔に毒キノコを食べて三日三晩寝込んだ記憶が蘇ったのか、リンネは眉をひそめ苦しむ。


「わう~!」


 蹴る、蹴る、蹴り続ける。ベッドの端まで追い詰めていく。

 もう少し、あともう少しといったところで――リンネが逆襲してきた。


「わぎゅんっ!?」


 反転して転がってきたリンネに、ガルムが押し潰されたのだ。

 サイロが慌てて【神腕】を発動させる。思いっ切り体当たりした。


「ふにゃっ!? ……ぐふっ……ぐぅ……すぅ」


 ついに大魔王リンネは床へと落っこちた。悲鳴をあげてまた眠りに落ちてしまった。


「わうっ!」

「へっへっへっ」


 サイロはガルムを助け起こし、そして毛布を床から持ってくる。

 オルガを優しく中央まで引っ張って、毛布を被せてあげたのだった。

 

「わう~♪」

「わうわん!」


 リンネ討伐という一仕事を終えて、その場で飛び跳ね喜びを表す二匹。

 なんだかまた眠くなってきたので、今度は服ではなく主様の傍で眠る事にした。


「……ぐぅ」

「わうぅ……」


 二匹くっついて丸まり、寝息を立てる。その表情は満足げだった。


 ◇


 目を覚ますと俺はベッドの真ん中に転がっていた。毛布も掛けられている。

 おかしいな。昨晩は凄まじく寝相が悪かったリンネに場所を明け渡したのだが。

 正直、変な姿勢で眠っていたので身体が凝り固まっているのだが。それでもまだマシな方だ。


 先にリンネが目を覚まして、場所を譲ってくれたのかと思ったが――彼女は床に転がっていた。


「……おーい、大丈夫か。そんな所で転がってたら風邪を引くぞ」


「むにゃむにゃ……蹴らないで……ください」


 変な夢でも見ているのか、リンネはずっと呻いていた。

 ベッドに連れ戻そうとして上半身を起こすと、腕にモフモフが当たる。

 ガルムとサイロだ。俺のすぐ横で、仲良く並んで眠っている。シャツを下敷きにしていた。


「衣装袋から昨日の服を持ってきたのか。悪戯っ子だな。うりうり」


 ほっぺをつつくと、ガルムとサイロは反射的にぺろぺろと舌で指を舐めてくる。

 可愛い。この子たちが俺だけの契約獣なのだと、一晩経ってやっと実感が湧いた。

 クランからの追放、リンネとの出会い、自らの境遇。折り重なる不安が和らいでいく。


「お前たちも、これからよろしくな」

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