23 合流
突入から半時間、ゴブリンクイーンと戦闘中である【鋼の華】との合流を目指すものの。
手掛かりもなく人を探せるほどエステルは小さな街ではなく、戦闘回数だけがかさんでいく。
というより、先程から出くわす人間すべてが感染者だ。生き残りは果たして存在するのだろうか。
「ああ、ワああああああ!!」
「今度は子供!? そんな椅子を振り回したらおててが危ないよっ!」
また一人、路地から飛び出てきた感染者の少女をフェールが抑えつけて、縄で縛り付ける。
「ワウッ!」
「わうわう!」
リンネに呼び出されたエゴームとサイロが、捕まえた感染者が暴れないよう見張る。
度重なる戦闘によって疲れた身体を休めながら、俺たちは何とか無事に生き残れている。
「な、なんか急に感染者の動きが変わってきてない? さっきの子も椅子を振り回していたし」
「奇遇だ、俺もそんな気がしてきたぞ。合間に武器を所持した連中も見かけるようになってきた」
「わふっ、主様、またしても敵襲です! 前方、弓を構えています!」
「さっそく盾が大活躍だな……防戦一方だ」
飛んで来る矢を【大地の神盾】で止めると、フェールが出店にあった刃物を投げる。
敵弓兵の腕を掠め狙いをずらすと、接近して蹴りを放った。また今度は投剣を持った民間人が。
「武器を持ってると無条件に斬りたくなるからやめてよねっ! もー見分けが付きにくいよ!!」
フェールは手刀で凶器を振り落とし、足払いで転ばして民間人を拘束する。
「その場合、服装を見て判断するんだ。武器を収納するベルトも鞄も所持してなければ基本は民間人で間違いない。あとは自傷しないよう手と足元を防具で保護しているのは冒険者だ」
瞬時に見抜くのは至難の業だが、動体視力に優れた彼女なら可能だろう。
「我は邪魔にならぬよう下がっております……咄嗟に判断がつきません……!」
「わう……」
訓練を受けた冒険者は当然としても、普通の民間人ですら武器使用に躊躇いがない。
奥から槍を持った男が乱入する。赤い軍服を着た兵士だ。明らかに他の連中と練度が違う。
「オルガ、姿勢を下げて!!」
俺の背中に片腕を乗せ、フェールが飛び蹴りを喰らわせる。
が、感染者の兵士は痛みを感じないのか、強引に姿勢を取り戻す。
同時に、腰に携えていた剣を振り抜いていた。
「わ、わわっ、やばっ!」
「フェール様!」
獣染みた判断力で首を動かし、フェールは反撃の剣を躱した。
その隙にサイロが足元に滑り込み【神腕】で兵士を彼方へと吹き飛ばす。
「わうわう! わう~ん!」
「サイロちんありがと、今のは本気で焦った。腕の骨を折ったのに、平然と反撃してきたよ」
「……敵の思考能力が格段に上がってきている。このままでは人数差で押し込まれるな」
知性がないからこそ優位に戦えてきたのが、弱点を克服されては一気に不利になる。
ここで一人を倒しても戦況は変わらず。道を塞ぐように数十人規模の軍団が立ち塞がった。
『ああ……アあああああ……ウあぁあああ』
「ど、どうする? 正直、このまま生かさず殺さずのやり方には限界があるよ」
フェールは愛用の武器に手を触れながら、俺に目配せしてくる。
「そうだな……だが、お前は殺せるのか? 相手は闇の聖遺物に洗脳されたただの被害者だぞ」
「元殺し屋にそれを聞く? 私なら命に優先順位をつける。平等なんてない。いざとなったら斬るよ」
少しずつ、緩やかに、着実に追い詰められていく。隙間を潜って背後からも。
感染者に対して本気で攻めきれない、こちらの弱い心を見透かされているかのようだ。
しかし一人を殺せばそこから先は修羅の道。二人目を害するのにすぐ抵抗がなくなるだろう。
すべてが終わったあと、生き残りに後ろ指をさされ、この街での生活を諦めざるを得なくなる。
「馬鹿、お前にそんなかつての人造魔神のような真似をさせられるか。殺した相手が【感染支配】を受けていたかどうかの証明なんて不可能だし、最悪帝国軍に拘束されるぞ」
「はぁ……だろうね。私も後処理を考えると、人殺しは面倒で嫌いだよ」
俺は捕まれば即刻死罪だ、フェールも元殺し屋として無罪放免とはいかない。
包囲が狭まってきた。俺たちは円の中心に身を寄せ合って、どうにか突破口を探す。
「主様……もはやアレを使うしか、ないようですね」
リンネは、誰かを召喚しようと指を立てて、そこで動きが止まる。苦渋に満ちた表情だ。
「何か、秘策があるのか?」
そういえばラングラルとの喧嘩の際に、リンネは現時点で二つの異能を行使できると話していた。
その一つがサイロ、巨神サイクロプスの『神腕』であり。もう一つは未だ謎に包まれたままだ。
「リンネちん、あんまり使いたそうに見えないけど、代償でもあるの?」
「制御に失敗すれば、この街全域のすべての生命が朽果ててしまいます……分の悪い賭けです」
リンネの口からとんでもない秘策が飛び出してきた。
「わあ、想像以上だった。あれ、それって私がこの場で民間人もろとも斬り殺すのと違いある?」
「話をしっかり聞いていたか? 全員だぞ。俺たち含めて全員死ぬんだぞ」
「んげっ、リンネちんやめやめ。そりゃ失敗して関係者全員死んだら誰にも責められないけどさ、集団自殺は趣味じゃないよ!」
「わふぅ……そ、そうですよね。主様まで危険に晒すのは間違っておりました」
そんな博打を、すべての責任をリンネに背負わせるのは俺も了承しかねる。
「うっし、こうなったらもう強行突破しかないよ! 私が先に突っ込むから、最悪見捨てて行って。再封印を考慮したら二人は絶対死守しないとだし」
「ワウッ!」
「くっ……それだけは避けたかったが」
フェールとエゴームが覚悟を決め半歩前に出て、包囲を崩しに掛かる。
二人を犠牲にここを乗り越えたとして、果たしてこの先まともに戦えるのか。
「――――そこのお前ら! 目を閉じていろ!!」
二人が飛び出す直前、聞き馴染みのある野太い声が届いた。ガラスの球体が転がる。
俺は咄嗟にリンネの顔を胸に抱き留める。エゴームも後退、ガルムとサイロを身体で守った。
瞼を通しても感じる強烈な光が一面を覆った。付近の感染者たちの動きを鈍らせた。
「よう、オルガにフェール。あと獣人の嬢ちゃんと狼たち。迷子を迎えに来てやったぜ!」
颯爽と登場したのは、大きな両刃戦斧を背負った筋肉男。
【鋼の華】クランリーダーのラングラルだ。白い歯を輝かせている。
「……今のは閃光球か。ラングラル助かった、正直このままでは全滅していた」
「主様の逞しい胸が目の前に……こんな非常時だというのに……落ち着くのです、我の尻尾!」
「ワウゥ、ベロベロ」
「わう~♪」
「わうわん!」
リンネの尻尾が左右に揺れて、俺の頬を往復して叩いてくる。ちょっとだけ痛い。
後ろではエゴームがガルムとサイロの無事を確かめている。二匹はお礼を伝えていた。
「うっ、目、めがぁ……目に光が入った……って、助けに来たのはこっちなんですけどー!」
生憎距離があったので庇えなかったフェールは、涙目になりながら訴える。
「おうおう、フェールはいつも元気だな。足止めが効いている間に撤退するぞ。避難所――俺たちのクランハウスまで案内するぜ!」




