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20 遺骸

「そうだな、このパーティで選ぶとなるとやっぱり討伐依頼になるか」


「うんうん。それがいい、それでいいよ! 面倒で退屈な採取とかやりたくないし!」


 フェールのノルマ達成の為にも、引き受ける依頼はFランクのものがいいだろう。

 Gランクでは普段足を踏み入れる事がない、Fランク用の依頼部屋で二つほど手に取る。

 

 ゴブリン討伐、並びに巣の破壊だ。Fランクでも最上級難易度の依頼ではあるが。

 元々Bランクの実力がある彼女に、下手な依頼を課すとすぐに飽きて自堕落となるので。

 ある程度歯応えのあるものを選ぶ必要がある。その分、格下の俺が気張らないといけないが。


「ところで、オルガは平気なの? Gランクには難しそうな依頼だけどついて来られる?」


「俺が無理やり引っ張ってきたからな。お前の足手纏いにはならないよう善処するぞ」


 俺の実力を基準にしてしまうと、スライム退治くらいしか選択肢がない。

 ちょうど【大地の神盾】を習得したばかりだ。実戦でこそ学びが得られるはず。


「主様は我がお守りいたしますのでご安心を。フェール様は気にせず剣を振るってくださいませ」 

「わう!」


 リンネがすかさず前に立って、鼻息荒く自分の役割だと無い胸を張り主張する。

 それを聞いたフェールが、悪戯を思い付いた子供のような笑みを浮かべ、俺の背後へと回る。


「ふーん。まっ、私が居るからオルガは怪我なんてしないけどね~。リンネちんは今日はずっと暇してると思うよ。ささっ、二人で頑張ろ♪」


「わふっ!? 我の役目を奪わないでくださいませ~! 主様ぁ~! やはり胸ですか? 大きい方がお好みなのですか!?」

「うぅ……わうわんわんわん!」


「……何の張り合いだ?」


「女の嫉妬は怖いんだよ。にっげろ~!」


 フェールが唐突にやる気を出して俺の腕を取って走り出す。

 遅れてリンネたちが追いかけてきて――あ、段差に引っ掛かった。


「わふっ……痛いです……。人の街は自然界にない直角の段差が多すぎます……」


「ご、ごめんね。慌てずゆっくり歩こっか」


 やっぱり足並み揃えて街を出発するのであった。


 ◇


 ゴブリンの住処は街の南にある高低差の激しい荒野だった。

 連中は生息分布が幅広く、どんな環境にも対応する適応力がある。

 一個体での戦闘力はさほど脅威ではないが、数が揃うと手が付けられなくなるのだ。


 依頼では発見されて間もない巣があり、クイーンが住み着いている可能性が高いと示唆された。

 ゴブリンクイーンといえばEランクの魔物。Fランクパーティなら最低でも五人は必要となる強敵だ。


 と、そんな訳で。Gランクの俺とリンネは油断しないよう、細心の注意を心掛けていたのだが……。


「ふぅ……あれ、もう終わり? あーあ。退屈しのぎくらいにはなったかな」


 赤黒い血油が張り付いた剣と斧を振るい、フェールが静かに息を吐いた。

 その背後ではクイーンの亡骸が三体ほど山積みとなっている。また、無数の配下たちも。

 彼女は傷一つ負っていない。エレナとはまた違う規格外の実力。凡人との差を見せつけられる。


「はむはむ、わうぅ~♪」


 魔物たちの核である魔石を、ガルムが一生懸命口に咥えて運んできてくれる。

 損傷の少ない綺麗な魔石ばかりだ。荒々しく見えて実は、フェールの剣筋には気品がある。

 一体どこで学んだのか尋ねても答えてはくれないが。案外、お嬢様だったりするのだろうか。


「しかし、ゴブリンの巣が街の近場に五つも点在しているとは。今まで聞いた事がないぞ」


 もしも仮に従来のFランクパーティが挑戦していたらと考えると、苦戦必須の内容だ。

 最近は魔物が各地で活性化しているとよく噂を耳にする。これも闇の聖遺物の影響かな。


「まさか本当に、我の活躍の場を奪われるとは……。主様を守護する神獣として情けないです……」


「リンネちん、そう落ち込まないで。【大地の神盾】だっけ? あれのおかげで背中を安心して任せられたし。私って他人との連携が苦手だから。邪魔にならない遠くからの援護は助かるんだよ」


 フェールが気落ちしているリンネを慰めていた。

 いい加減な性格に見えて、彼女は面倒見がいいのだ。


 実際ここまで実力が離れているとなると、下手な援護は邪魔になるだけだろう。

 人にはゴーレムみたく腕は四本もないが、二本だけでも【大地の神盾】は有能な異能である。


 ちなみにエゴームも【大地の神盾】を一つだけなら召喚できる。つまり最大で三つまで。


 そして、今回の試験運用によって弱点も発見した。

 【大地の神盾】は開いた手のひらを閉じる事で発動させるのだが。

 何かを手に持ちながら無理に閉じようとしても、盾が発動しなくなるのだ。


 つまり完全に手のひらがフリーの状態でないといけないらしい。

 基本は【神腕】との併用だろうか。元々武器攻撃は苦手なのでそれは構わないが。

 現状、俺の器の強度的に同時運用は二〇分が限度らしく。それ以上は異常な眠気に襲われる。


 俺の身体には元々魔神王の心臓が埋め込まれている。そこへ白き獣の複数召喚。

 更に二種の魔神の力を取り込んでいるのだ。相当、脳と身体に無理をさせているらしい。

 

 とまぁ、弱点がわかったところで。俺は現在絶賛眠気と格闘中である。

 討ち漏らされたゴブリン対策に常時【神腕】を宿していたのがいけなかった。

 サイロとエゴームには休んでもらっていて、ついでに俺も身体を休ませなければ辛い。


「ふ、ふぁああ……わ、悪い。誘った俺がこんな体たらくじゃ示しがつかないよな」  


 頬を何度も叩いてみるが、抗えず瞼が自然と落ちてくる。果てしなく眠い。

 一人でうんうん唸っていると、背後から血の匂いを漂わせ、フェールが抱きついてきた。


「オルガっ、眠いならこのまま寝たら? 私も一緒に一眠りするからさ」

 

「馬鹿、こんな荒野のど真ん中で寝たら襲われるだろ!」


「それって誰に? 大丈夫、不届き者は全部斬り刻むから。私、殺気を感じれば自然と目が開くよう身体に叩き込まれているから、ご安心を。え~い!」


「殺気って、お前は殺し屋か――――殺し屋だったな……」


 楽しそうに語るフェールは、流れるように俺を地面へと押し倒す。

 軽い身のこなしでこちらの頭を捕まえると、モチモチの膝へと誘っていた。


「ふにゃあ!? 主様に膝枕をするのは我だけの特権なのですっ! 取らないでくださいませ!」

「わうわんわんわんわん!! うううううううぅぅぅ、わんわんわんわんわんわん!!」


 リンネが聞いた事がない悲鳴を発していた。ガルムと一緒に大暴れしている。

 フェールは「早いもの勝ちだよっ」と台詞を言い残し、数秒後には寝息を立て始めていた。


 ◇


「くしゅん……ああ、寒い。身体が震えてきた……!」


「そりゃ薄着のまま荒野で寝たらそうなるよ。ほら、毛布があるからそれを使ってくれ」


「いつも思うけど、オルガって準備良すぎだよね。ありがたいけど。くしゅん」


 仮眠から目を覚ますと、まだ夕暮れ前の明るさだった。

 フェールが身体を縮こませながら、俺の背中にくっついてくる。

 何度もくしゃみを繰り返し、鞄から取り出した毛布を二重にくるまる。


「それにしても、どうして一緒に寝たはずのオルガが平気な顔をしてるの……?」


「リンネとガルムがモフモフで暖かかったからだな」


 俺の隣で転がっていたリンネと、お腹の上のガルムを指す。


「主様を冷たい風からお守りいたしました!」

「わう~♪」


 一仕事やり遂げた風にリンネたちが名乗り出る。

 実際、とても助かった。疲労も抜けて体調も万全だ。


「うぅ……私もモフモフしてもらえば良かった……くしゅん」


「うむ、今日はここまでとするか。依頼の期限は記入されていないし、無理する必要もない」


 ゴブリンの巣はまだ二つ残されているが、フェールの体調を優先しよう。

 荒野を抜けて、足早で街の城門を潜ると。何やら前方に人混みが生まれていた。


「ん、あそこに集まっているのは、マークハイト帝国の兵士たちか?」


 エリュシオン大陸を分割管理している二ヵ国のうちの一つ。

 赤で彩られた軍服が特徴的で、全員が剣を腰に携え、長槍を握っていた。

 武芸に特化した国柄で、【血塗られた三ヵ月】でも人造魔神退治で名を挙げている。


 元々外の大陸でも最大の領土を誇る強国として、古くから有名であったが。

 最近では幾つかの周辺諸国を吸収して、帝国として更に力を増してきているらしい。


 もう一つの管理国である、エルトラーズ魔導国も同等の活躍を見せていたが。

 国土の三分の一を数多の疫病に侵され、更には押し寄せる難民対策に追われている。

 どれも【血塗られた三ヵ月】による傷跡だ。主戦場となった地は呪いで汚染されているのだ。

 

 よって実質エリュシオン大陸を制しているのは帝国といっていい。

 大陸の玄関口であり、重要拠点であるエステル領主はマークハイト貴族であり。

 エリュシオンに点在する五つの拠点の内、三つの要所を独占管理しているのが現状だ。


 対等ではない同盟関係は日夜軋轢を生んでいるが、今回は関係なさそうだ。

 周りを見渡してもマークハイトの兵士だけで、大小六つの長方形の箱を担いでいた。


「そんなところで立ち止まって、どうしたんだい君たち。あっもしかして、あれが気になるのか? どうやら本国から運び込まれた研究材料とやらで、最近討伐された人造魔神の遺骸が入っているらしいぞ。六体もなんて凄い戦果だよな。さすが帝国兵だ」


「……人造魔神の遺骸?」


 野次馬をしていた親切な青年が教えてくれる。

 想定外の内容に、一瞬、呼吸すらも忘れてしまう。

 痛む心臓を抑えながら、違和感を与えぬよう平然を装う。


「何故、そのようなものが街に運び込まれているのでしょうか?」


 宿敵の名を聞いて、リンネが真剣な顔付きで耳を澄ませていた。


「エリュシオン大陸といえば、かつて人造魔神を生み出す研究を秘密裏に行っていた場所だ。大陸中央では今でも研究施設が幾つか残されているらしい。多分、帝国は人造魔神に対する新しい兵器でも生み出すつもりなんじゃないかな。さっさと根絶やしにしないと、【血塗られた三ヵ月】を繰り返さない為にもね」


 淡々と語ってくれる青年。俺はただ無言で箱の行く末を眺めていた。

 今日一日だけエステルで保管し、明日には内陸部にある【龍の首】に運ばれるとか。

 この場に集まる兵士たちはその護衛だ。冒険者とは違う、刺々しい雰囲気を纏っている。

 

 街の自警団と代表が話し合っていた。警備の巡回ルートを確認しているのだろう。


「オルガ、もういいよ……。人も増えてきたし早くここを離れよう。立ちっぱなしで疲れたでしょ?」


 フェールが語尾を強めて俺の腕を引っ張っていた。

 心配に満ちた瞳を向けられて、俺はようやく視線を箱から外す。

 中身を見なくても、大きさだけで理解できた。半分以上は子供だったのだ。


「主様、魔神を封ずる役目を担った神獣としては、もう少し詳しい情報を知りたいのですが……!」


 神獣の血が騒ぐのか、リンネは亡骸が入った箱に興味を示す。俺の顔色を伺ってくる。


「わかった。俺は体調の優れないフェールを部屋まで運ぶからあとで合流しよう。宿の近くの公園でいいか?」


「はい。ありがとうございます主様。フェール様もごゆっくり部屋で養生なさってください。それでは行ってまいりますね!」

「わう!」


 リンネはガルムを連れて人混みの中に入っていく。

 思えば別れて行動するのは初めてか。宿の部屋も一緒だったしな。


「どうしよう二人っきりだね。このまま部屋に連れ込まれて私どうなっちゃうのかなぁ……?」


「冗談を言えるだけの元気があるなら上等だよ」

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