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14 大地神エンシェントゴーレム

「弱い、弱っちいねぇ~。私に生の実感を与えてくれる猛者はいないのかー!」


 隠されていたダンジョンに入ると、すぐに魔物の群れが歓迎してくれる。

 ゴブリンやウッドスライムなどの森に住まう連中が、魔力に誘われ蠢いている。

 まだ数は少ないが狭い空間での連続戦闘だ。本来、高い練度を求められるのだが。


「あはははは、弱~い、つまんな~い!」


 先頭に躍り出たフェールが、手当たり次第敵を叩き斬って道を切り開く。

 左手にショートソード、右手にハンドアックスを構えた超絶攻めの二刀流だ。

 補助魔法道具として筋力強化の腕輪を身に着け、右と左で遜色ない威力を発揮する。


 恐れを知らない彼女らしく、重しとなる防具は一切身に着けていない。

 何の躊躇もない殺戮劇。返り血で身を汚す隙も生み出さず、超人的な身体能力を魅せる。


「相変わらず無茶苦茶ですねフェールさんって……。同じ人間とは思えないです……」


「ひぃっ……ち、血がたくさん……!」


「エレナ様、我がお傍についておりますから」


 道中、血液恐怖症のエレナは固く目を瞑っていた。ずっとリンネが手を握っている。


「フェール、今日はやけに気合が入ってるじゃないか」


「いひひ、二人の前で活躍する久しぶりの機会だから。偶にはね。よっと」


 よそ見をする余裕を見せながら、ついでとばかりに魔物の首を斬り跳ねる。


「普段からそれを出してくれたら、俺だって素直に褒められるよ」


「んー、考えとく」


 身内ばかりを揃えた少人数であるのが功を奏したか。探索は非常に順調だった。

 所々に変色した煙が留まっている。マイトの懸念通り、有毒性の大気もあるようだ。

 これは後続の為に後で地図を作成しておくべきだな。完成品はギルドが買い取ってくれる。


「うぅ~わうっ!」


 行く手を阻む邪魔な大岩を、サイロが前足の【神腕】で粉々に砕く。

 巨神サイクロプスを封じる器である彼女もまた、魔神の異能を扱えるのだ。


「サイロちゃん、偉いね。よしよし」

「へっへっ、くぅんくぅ~ん」


 サイロは一つ砕くたびにエレナに褒められていた。

 それ見ていたガルムも、サイロの真似して大岩を引っ掻く。


「わうわん! がりがりがりがり…………わぅ」


 ビクともせず。こちらを向いて、痛いよ? と俺に訴えかけてきた。


「よしよし。ガルムは無理するなよ」

「うぅ……」

 

「おや、壁の材質が変わってきたね。そろそろ最深部かもしれないよ。随分と短かったね」


 フェールの言う通り、凸凹した地面が平らに舗装され、天井がかなり高くなった。

 最奥に模様が描かれた壁があった。リンネが前に立ち、手のひらで触れた瞬間消失する。


「どうやら、我々が先客となれたようです。神人の封印はまだ解かれておりませんでした」


 神殿内部を彷彿させる装飾が施された終点は、正方形に広がっており。

 中央に鎮座するは、持ち手が長く伸び、先が無骨に膨らんだ武器。大槌だ。

 俺の目には禍々しいオーラが見えている。これは、リンネとの契約の影響だろうか。


 神獣による封印の綻びから漏れ出した魔神の魂が、肉体(聖遺物)に戻りつつあるのだ。


「全員、一旦ここで止まってくれ」


「ん? オルガどうしたの? お宝は目の前だよ、お腹でも壊した?」


「罠でしょうか、解除キットも用意していますよ! 三種類ほどありますが」


「どちらでもなくて。このまま深部へ突入する前に、まずは聞いてもらいたい話があるんだ」


 フェールとマイト、事情を知らない二人にここまで付き合ってもらったが。

 再封印を施す為には、闇の聖遺物に溜まった魔神の魂を弱らせる必要があるのだ。 

 ここからは更に危険な作業となる。改めて説明と、その覚悟をしてもらうべきだろう。


 俺はもういいだろうとリンネの顔色を伺う。すぐにリンネが頷き返してくれた。

 ある意味ここまでの道中は、二人が信用に足りるかどうかを試す、試験でもあった。

 

「フェール様にマイト様。お二方を信用して、我と主様の本当の目的をお話しします」


 リンネは自身が神獣である事、器に宿る魔神の魂を再封印する役目があるのだと二人に語った。


「ふむふむ。つまり、これから僕たちはあの聖遺物に宿る魔神の魂と戦うんですね」


「はい。魂が不完全な状態ですので、今なら人の手でも十分に対処ができますが。それでも危険な相手である事には変わりありません。決して無理強いはいたしませんし、断ってくださっても構いません。ですが、この話は他言無用でお願いいたします」


「僕の持ってきた道具が役に立つかな? ここまでお付き合いしたんです、最後まで見届けたいです!」


 自頭のいいマイトは一瞬にして説明を飲み込み、参加を表明してくれる。


「ふーん。リンネちん、魔神を封印する神獣だったんだ。へー」


 対して、フェールは表情を一瞬だけ曇らせ、何か言いたげにしてこちらに視線を向ける。

 俺は彼女が余計な事を発言しないよう、黙って首を振る。伝わったのか、口を尖らせていた。


「ハッキリ言って、”今の”オルガよりも私の方が数十倍強いし。戦えると思うけど?」


 妙な含みを持たせながらフェールがそう答える。

 実際のところ、まさしくその通りではあるので反論し辛い。

 再封印にはリンネの立ち合いが必要である以上、俺も”本気”は出せない訳で。


「オルガくん、戦力は多い方が良いと思う。わ、私も役に立てるかわからないし……。このままだと、オルガくんとリンネちゃんの負担が大きいよ」


 エレナも二人の参加には肯定的だ。

 俺も本心では手伝って欲しいが、一応、先輩としての建前がある。


「悪いが、碌な報酬も渡せないし、無事に戻れるかどうかもわからないんだぞ? 冒険者は自分を安売りしてはいけない。引き際はしっかりと考えた方がいい」


「先輩は、行き場のなかった僕たちを見返りすら求めず、面倒を見てくださいましたよね?」


「別に報酬目的でここに居るんじゃない。ただオルガの役に立ちたいから、死に損ないの私はもう一度剣を握ったんだ。子供じゃないんだし、死に場所くらい自分で決められる」


 目の前の二人が状況に流されたり、誰かに言わされたんじゃない。

 本心で語っているのだと判断し、俺は表情を崩して、二人の前に手を伸ばす。


「本当、物好きだよなぁお前ら」


「先輩に似たんですよ!」

「オルガがそれを言う!?」


 差し出した手をしっかりと二人は握り返してくれた。

 気を取り直して、俺たちは誰も欠けず五人と二匹全員で深部に突入した。


「さて、初めての魔神再封印だが。どうなる事やら」


「うぅ……私、役に立てるかな……?」


「雑魚相手ばかりで、腕が鈍るところだったから。楽しみだな~!」


「油断して足元を掬われないでくださいよ。慢心は禁物です」


「お気を付けください。奴にとって、我々は招かれざる客。再封印を恐れ、全力を以ってして抵抗してくる事でしょう! ――来ます!」


 闇の聖遺物である大槌が自ずから浮かび上がった。

 禍々しいオーラが一ヵ所に集まり、巨大な影を形造る。

 四本腕のゴーレムだ。天井ギリギリまでの大きさに膨らんでいる。


「わぁ、想像以上にデカい。戦えない子は危ないから下がってるんだよ。オルガは……どうする?」


「このまま頼ってばかりの先輩では情けないしな。俺もやるぞ」


「いひひ、久々の共同作業だね~♪」


「お前はこういう時でも余裕があるんだな、心強い。よし、同時に叩くぞ!」


「了解!」


 相変わらず、自分を崩さないフェールがまずゴーレムをけん制する。

 ちっぽけな人間を見下ろす黒い岩塊は、拳を握り締め迎撃態勢を取った。


「ウゴゴゴ……ゴゴゴゴゴ」


 二本の腕が振り下ろされる。フェールが空中に飛翔、反撃で斬り付ける。

 俺も右腕に【神腕】を宿して、地面に刺さった黒い腕を狙って拳を叩きつけた。


 が――突如として空中に小型の岩の壁が生成され。ゴーレムを守る盾となった。


「うそっ、予備動作なしの防御魔法!?」


「くっ、【神腕】が弾かれた!?」


 殴り付けた腕が強く弾き返される。同時にフェールも剣を防がれていた。

 物理干渉での反動が骨に響いて、右腕の痺れが酷い。更に反撃の拳が二本落ちてくる。


「やばいっ!」


 痺れる腕を抑えて、必死に足を動かし後ろへ転がる。十分距離は取れていたが。 

 大地が激しく揺れ、回避したはずの俺の身体が宙を浮いた。リンネが受け止め支えてくれる。


「主様、思い出しました! 奴の名は大地神エンシェントゴーレム。その異能は変幻自在の堅牢を誇る岩の盾、【大地の神盾】です。一方向からの攻撃では無効化されてしまいます!」


「変幻自在? それでいきなり空中に岩の盾か……。動きが遅いが、厄介な相手だな」


 フェールが背後に回って、背中を斬り付けようとするも、またも岩の盾が防ぎ止めている。

 今の状況を見る限り、【大地の神盾】は本体周辺であれば自由に生成できるようだ。

 

「フェール、相手は岩の盾を好きなように配置できるらしい。決して一人では倒せないぞ!」


「そういう大事な話は、戦う前に教えて欲しかったけどっ! だったら、私とオルガ、サイロちんで三方向から攻めよう。それなら誰か一人は通せるでしょ!」


「わかった。あの質量の拳だ、一撃喰らえば肉体が消し飛ぶぞ。あまり突出しすぎるなよ?」


「わうわう!」


 俺とフェール、それにサイロが散開しそれぞれ時間差で攻め立てる。

 エンシェントゴーレムは動き回る俺たちを、ゆっくりと赤い目で追っている。


「主様!」


「先輩、上から来ます!」


 一番動きが遅い俺を狙って、二本の拳が落とされる。だが、それは読めていた。

 初めから狙われるのを予期して、身体を動かしていたのだ。横に飛び込んで回避。


「二本分の衝撃が来るぞ! 持ち堪えるんだ!」


 すぐ後ろが震源地となり、大きな揺れを生み出す。全員が伏せて揺れを耐える。

 地面に突き刺さった腕を狙って、サイロが最初に体当たりを、反対側からはフェールが。

 

 俺も遅れて【神腕】でもう一本の腕を、三方向からの同時攻撃だ。これなら盾も間に合わ――


「ゴゴゴゴ、ウゴゴゴゴゴゴ!」


 ――三方向それぞれに岩の盾が出現し、全員の攻撃が同時に遮られてしまった。


「いたたたた……ちょっとこれ卑怯じゃない!? 何個盾を隠し持ってるの~!」


「きゅ~ん」


 俺は二度目なので、岩の盾を殴る寸前で拳を止められていたが。

 堅牢の盾に力一杯ぶつかった反動で、フェールとサイロの足が止まっていた。


「くっ、二人とも引き下がれ、反撃が来るぞ! 足だけは常に動かすんだ!」


「ウゴゴゴ……ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!」


 エンシェントゴーレムの狙いが、目を回しているサイロに移り変わる。

 四本ある腕の内、三つの拳を握り締めて。残る一本の腕を地面に乗せ全身を支える。


「サイロちゃん危ない! 狙われてるよ!」


 重厚な岩塊の足が砂煙と共に持ち上がった、小さなサイロの頭上に巨影が降り注ぐ。


「もうっ、こっちは安物の武器しか持ってないのに、防戦は趣味じゃないんだよっ!」


 フェールは武器を投げ捨てて、右足で接近するゴーレムの足を空中で蹴りつける。

 その反動を利用し、三角飛びの要領でサイロを上から抱きかかえ、地面を何度も転がった。


 遅れてエンシェントゴーレムが踏み込む。岩盤が割れ衝撃波と岩が飛び散った。

 俺たちは瓦礫の裏に隠れてやり過ごす。まともに喰らえば肉体が完全消滅していただろう。


「だ、大丈夫か!? フェール、サイロ。生きているなら返事をしてくれ!」


 立ち込める煙で視界が奪われる中、頭上のエンシェントゴーレムの重圧が空間を掌握する。

 俺は、振動で酔った頭を叩いて、逃げ遅れた二人を探す。咳き込むフェールの姿を見つけた。


「あぐっ……受け身が取れず腰を強打したけど……だ、大丈夫。サイロちんも無事だよ!」

「へっへっぺろぺろぺろぺろ。わお~わう~!」 


 ギリギリのところを、何とか二人は避け切ったらしい。

 命の恩人であるフェールの顔を、サイロは何度も舐めていた。 


「皆様ご無事でしたか! 奴はまだ先程の一撃から態勢を整え直している最中です。フェール様、投げ捨てた武器を拾っておきました。一旦、距離を離して作戦を練り直しましょう!」

「わう!」


 リンネとガルムは拾ってきた武器をフェールに返す。

 

「二人ともありがと。オルガ……これからどうする?」


「そうだな……」


 今のところ俺たちは奴に有効打を与えられていない。まずは岩の盾の攻略法を探さねば。

 このまま防戦一方では、先にこちらの体力が尽きてしまう。相手は疲れを知らぬ岩石人形なのだ。

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