1 落ちこぼれの中の落ちこぼれ
一章終了までの書き溜めが(多分30話くらい)ありますので毎日更新予定です。
主人公が最初はかなり弱く、モフモフも少ないですが。徐々に成長し、たくさん増えます。
「ブオオオオオオオオオオオ!!」
「奴が逃げたぞ、すぐさま後を追え。決して見失うな! 救援が駆け付けてくるまでの時間を稼ぐのだ。――お前たち【鍋底】は後ろに下がっていろ。いいか、落ちこぼれども、邪魔だけはするなよ!?」
装備を身に着けた男たちが森を駆け抜ける。
そして獣を取り囲み、槍を使って移動を妨げていく。
獣の名はビックボア。この辺りの森を牛耳る巨大魔獣だ。
偶然森を訪れた男性を襲い、重傷を負わせた事で、討伐依頼がギルドに届けられた。
「ブオオオ! ブオオオオオオオオオオオ!」
大地に丸太のような四肢を乗せて、周囲の人間に鋭い牙を向けている。
その身体は通常のボア種と比べても優に五倍、一階建ての小屋の天井に届くほどだ。
複数クランからなるパーティが槍を駆使し、ビックボアを見晴らしのよい空間まで誘い込む。
「今だ、奴を捕らえろ!! ……よし、いいぞ。動きが止まった。弓隊構え――放てッ!」
事前に設置されていた縄罠が獣の足に纏わりつく。
待機していた冒険者たちが一斉に矢を放った。しかし――
「くそっ、外皮が硬すぎる。殆ど弾かれちまった! どうするナックの旦那!?」
――すべての攻撃が、ビックボアを怒らせるだけで留まる。
討伐隊を束ねているナックと呼ばれる男が、慌てて指示を出した。
「誰か近接戦闘に自信がある者はいないのか!」
「あの牙に貫かれる覚悟があるなら好きにしろ! 俺はお断りだね」
「この臆病者め! 所詮はEランクか!」
「何だとぉ!?」
共同戦線を結んでいたクラン同士が揉め始める。各地で怒鳴り合いが続く。
日頃からライバルとして競い合うだけに、一度連携が崩れると歯止めが効かない。
「何やっているんだ……あいつら」
後方で待機していた俺たちは、その光景をただ眺めるしかなかった。
【鍋底】は邪魔をするなと言われている以上、俺たちに口を挟む権限はない。
「だったら魔法だ。誰でもいいから、魔法に自信がある奴を出せ!」
暴れ狂うビックボアが縄を引き千切る光景を前に、恐れ戦いたナックが叫ぶ。
「あ、あの……一応、できます。魔法、使えます」
手を上げたのは、俺の隣で縮こまっていた少女。
黒い三角帽子を深く被り、周囲の視線におどおどしている。
「おい、エレナ。無理するなよ」
「で、でも。ここでどうにかしないと、犠牲者が出るかも」
エレナはゆっくりとした足取りで、一人ビックボアと向かい合う。
そして静かに詠唱を開始する。魔鉄でできた杖に宿るは火属性魔法の術式。
専門外でも理解できる、強大な魔力の渦が具現化する。
ひとたび発動すれば魔獣程度では塵一つ残らない――のだが。
「うわっ、早くしてくれ! 縄が解けるぞ! 早く撃ってくれ!!」
期待を一身に受け続ける少女は、よく見ると、杖を握る腕が微かに揺れていた。
「う、うう……」
彼女の視線の先には、血を吸った獰猛な一対の牙。既に負傷者が出ていたらしい。
即座に不味いと判断した。これでもエレナとは数年の付き合いだ。欠点は周知している。
「エレナ、今すぐ詠唱を中断しろ! 奴はお前を狙っているぞ!!」
「あっ、えっ……?」
「ブオオオオオオオオオオオ!!」
「くっ! 誰も援護もしないのかよ! 何の為の共同作戦だ!!」
この場の誰よりも早く、獣が動き出す。本能的に死の危険を察知したのだろう。
エレナの魔力の乱れが熱波となり、火の粉を振り撒いて、草木を灰へと変えていく。
だが、それは完全な魔法とはいえず。詠唱は失敗に終わったのは明白だった。
数歩遅れて俺は走った。同時に周囲に目を配る。
(全員、エレナの規格外の魔力に視線を奪われている。本人は制御で精一杯、今なら……いけるか)
俺は意識を左胸の心臓部に向ける。厳重に閉ざされた扉を僅かに開けた。
全身を流れる血液が冷たくなり、闇が足を纏う。俺は一気に高速で低空を跳んだ。
「――エレナ、舌を噛むぞ。口と目を閉じていろ!」
「きゃあっ、お、オルガくん……!?」
超重量を誇る魔獣の風切り音が背中を掠った。
俺はエレナを攫って、山の急斜面を転がり落ちる。
幸いにも足を踏み外した先には川があった。人一人分は飲み込めるほどの深さがある。
それでも二人分、激しい衝撃を全身に浴びながらも、失った空気を求めて水の天上を目指した。
「ぶはぁ、はぁはぁ。うおっ、冷たっ。突然、抱きしめてしまって悪いな。怪我はないか?」
鈍い痛みが残る背中を掻きながら。俺は目の前の友人に語りかける。
「う、うん。オルガくんの方こそ……だ、大丈夫……?」
胸の中でエレナが弱々しく呟く。斜面を何度も回転したので気分が悪そうだ。
「ん? ああ、平気だって。俺の身体が頑丈なのは知っているだろ?」
骨がミシミシと嫌な音を鳴らしているが。きっと数秒後には何も感じなくなる。
俺にとっては、そう。目に見える”致命傷”でなければ、まったく些細な事なのだ。
「おーおー仲がよろしい事で。仕事の最中だというのに、乳くり合う余裕があって羨ましいこった」
無事を確認し合っていると、上から嫌味ったらしい男たちの声が掛かる。
「魔法が扱えると嘘を付いてまで出番が欲しかったのか? おかげさまで、ビックボアを逃がしちまったよ。良かったな爪痕を残せて、お望み通りの大活躍だぞ! ハッ、くだらねぇ」
「また【鍋底】の奴が邪魔したのかよ……学ばないよなアイツら」
いつものように、冷ややかな、それでいて乾いた視線を浴びせられる。
ずぶ濡れの身体を寄せ合いながら、俺とエレナは川から這い上がる。二人で地面に座り込んだ。
「好き勝手言いやがるな。そもそもいがみ合う暇があったら作戦の一つや二つ考えるべきだろう。あれで街の自警団副隊長、元Cランクって信じられないよな。ご立派なのは髭だけか?」
「ぐすっ……オルガくん、ごめんね。その、緊張で詠唱を忘れてしまって……オルガくんにまで迷惑を……」
目元を赤くさせて泣き出すエレナに、俺は鞄から綺麗な布を取り出し彼女の頭に被せる。
「まっ、あれだけの殺気と衆目を集めていれば、上手くいかない日もあるさ。ほら、泣くなって。お互い無事に済んだだけ儲けものだろう? 風が冷たいからな。身体を拭いておかないと風邪引くぞ」
髪が乱れないようゆっくりと撫でる。エレナは無言のまま目を閉じていた。
「また次に取り返せばいい。明日から頑張ろうな」
必要以上に暗くならないよう笑いかけながらも。心の中では深く溜め息を付く。
依頼失敗の報告を聞きつけた俺たちのクランリーダー様の反応が、容易に予想できたからだ。
◇
「おい、オルガ。お前はもう必要ないから、さっさと俺たちのクランから出て行きやがれ!」
森の主であるビックボアとの戦闘から翌日。
憂鬱な感情を押し込んで、俺はクランの扉を開けていた。
そうして、不躾に投げつけられたその言葉を、俺はただの冗談として受け取った。
クラン【鍋底】に設けられた自分の席を探す、が、一ヵ所だけ不自然な隙間がある。
いつも置いてある私物がすべてなくなっており、悪戯にしては悪質でやり過ぎであった。
「グラディオ、これは一体何の真似だ。俺の席をどこに隠した?」
「……お前察しが悪いな、こういう意味に決まっているだろ!」
【鍋底】の現クランリーダーであるグラディオが、俺の身体を強く押し退けてくる。
恵まれた体格から放たれる圧に、俺の細い体では耐えきれず汚れた床に転がってしまう。
一八〇を超える高さにある両目が俺を見下ろしていた。クラン内に張り詰めた静けさが宿る。
「ぐっ、今の話はいつもの冗談じゃないのか? まさか本気で追い出すつもりなのか!」
「当然だ。貴重な時間をお前に浪費してまで、わざわざくだらない嘘を付くものか。もう一度言う、お前はクビなんだよ!」
再度、目の前で宣告を食らう。少し眩暈がしてきた。
――クラン【鍋底】に集う俺たちは所謂、落ちこぼれ冒険者である。
年に二度行われる冒険者認定試験では、落第判定のGランクをいただいている。
お情けで冒険者を名乗り、周囲から嘲笑われながらも、懸命に日々仕事をこなしていたのだ。
一人で何かを成すのは難しい。それが落ちこぼれであれば尚更だ。
だからこそ、お互いに協力し合おうと、この場所に俺たちは集まった。
しかし、最近になって人も増え、助け合う、というのも難しくなっていた。
何となく予感はあったのだ。クランを維持するのだって、決して容易ではない。
沸き立った鍋から零れ出る人間も当然、存在してくる訳で。すべては救えないのだ。
「他クランの前で大恥を掻き、挙句、反省もせずにヘラヘラ戻ってきやがって! ギルドから報告を受け取った際、俺がどれだけ惨めな思いをしたか! これ以上、もう我慢の限界なんだよ!! どいつもこいつも俺を馬鹿にしやがって! ふざけんな!!」
グラディオの怒りを、当然の権利として、抵抗もせず真っ直ぐに受け止める。
あれからビッグボアは、別パーティが討伐したと聞いている。
それも運の悪い事に、俺たち【鍋底】が抜けてすぐの知らせであった。
現場にいた俺は、取り逃した原因はクラン同士の諍いであるとわかっているが。
結果だけを聞くと、俺たちにすべての責任があるように聞こえてくる。
というより、そういう風に報告されていてもおかしくない。ほぼ間違いなく。
「もちろん反省はしているさ。だが、失敗を必要以上に引き摺れば、これからの活動に悪影響を与えるだけだろ? 元々無理を承知で参加させてもらっただけで、俺たちの実力的に厳しい依頼だったはずだ。囮や後方支援が精一杯で、それでも数秒は時間を稼いでいたんだ。ただ――運が悪かった」
今さら、責任の所在をどうこう言うつもりはなかったのだが。
稼いだ時間を有意義に使えなかった周囲の連中にも問題があったと思う。
いつだって責められるのは弱者ばかりで。だからこそ、グラディオの怒りも理解できた。
「黙れ黙れ! だったらお前は、今後も運が悪いの一言で済ませ続けるつもりか!? ”契約獣”を持たない偽テイマーめ! 所詮、お前には俺たち冒険者の気持ちなんて理解できないんだ。何もかもが嘘偽りなんだからな!!」
「……それを、今さら持ち出すのかよ」
グラディオの言葉に俺は反論もできず口を噤むしかなかった。
テイマーとは、動物や魔物と契約を結んで彼らの力を行使する職業だ。
生まれ持った血筋。才能、獣に好かれる体質でなければなれない専門職であり。
親がいない俺を受け入れてくれた故郷は、住人の大半がテイマーという特殊な環境だった。
親代わりの爺さんたちから、テイマーとしての訓練を受け続けてきた。
そんな恵まれた環境で育ったにも関わらず、それでも俺は落第生であった。
契約には”主契約”と”仮契約”があり、基本は主契約を行使する。
テイマーが運命によって導かれた獣と、目に見えない魂の結び付きを生み出し。
生涯の相棒として苦楽を共にする。その種族は獣から魔物まで、人によって様々だ。
仮契約はその土地の生物と一時的に契約を結んで使役する力だ。
すぐに途切れる関係で、主契約と違って100%の力は引き出せない。
あくまでその場凌ぎの能力になる。よって最重要なのは主契約の方だ。
誰もが幼少期に運命の出会いを果たし、絆を育んできたというのに。
十八歳にもなって、未だ相棒と出会えていないテイマーは俺くらいだ。
それは戦士が、自分の得意武器を見つけ出せていないような、初歩の躓き。
テイマーは必ず一匹から、多くて五匹までの契約獣を引き連れている。
ただ出会いがない。そう、運が悪いだけ。努力でどうにかなる問題ではない。
何度自分に言い聞かせていても。何度自分を誤魔化していたとしても。
初めからテイマーの才能なんてなかったのだ。と言われると、それまでの話なのだ。
「……俺だって、契約獣を持たないことでクランに迷惑を掛けていると自覚はしている。負い目は感じていた。だからこそ、テイマーとしての仕事が半端な分、誰もやりたがらない危険な偵察任務から、罠確認、荷物運びに炊事洗濯掃除諸々の雑用、面倒な提出書類制作まで。できる限りの手助けはしてきたはずだ。クランの後輩指導だって、その実績は認めてくれてもいいだろう?」
「フンッ、その程度の雑用なんて、お前じゃなくても誰だって、その辺の雇われメイドにでもできる! わざわざ貴重な席を潰してまで、お前を雇い続ける理由にはならない!」
「……それは言い過ぎだ。グラディオの無茶な要求を呑める人間なんて俺くらいしかいないんだぞ?」
【鍋底】に所属する者の多くは、この場所にしか居場所がない弱者ばかりだ。
グラディオに住処を追い出されるのを恐れ、奴の横暴を許すところとなっている。
だから、なるべく被害が広がらず済むよう、古株の俺が防波堤となるべく努めてきた。
「……ひっ」
奥に視線を向けると、今でも巻き込まれてしまわないかと、
部屋の隅で後輩たちが怯えながらも様子を伺っている姿が映る。
一応、こんな俺でもクラン創設当初からの一員で、先輩なのだ。
過去グラディオも愚痴は漏らしても、強引な手段は講じてこなかった。
しかし今回はどうも様子が違う。本気で俺を追い出そうとしているようだ。
「そうだな。お前と同列に扱うのは確かに失礼だったな。将来性が見込める分お前よりその辺のメイドの方が遥かに優れている。無駄に長く席に居座り続けて、才能の芽も開花せず、報酬だけは受け取る老害に皆が辟易していたんだ。ハッキリ言って邪魔なんだよ! なぁ、お前らもそう思うだろ!? つい先日、俺の提案に乗ってくれたよなぁ!? コイツをクランから追い出そうって!」
「……んなっ!?」
グラディオの発言を聞いて、俺は二の句を継げられなかった。
俺を追い出そうとしているのは、グラディオだけではなかったのだ。
周囲を見渡し、この場に残る後輩たちに真意を問うと、露骨に視線を逸らされる。
「コイツらは既に俺の案に賛成してくれている。クランでの過半数票と、リーダーの権限を使えば、強制追放の権利を得られる。当然、お前も周知しているはずだ。つまるところ、拒否権はないんだよ!」
グラディオに勝ち誇った顔を向けられて、もはや怒りを通り越して、苦笑しか浮かばない。
「……そうか。初めから勝算ありきでの通告か。短気なお前にしては準備がいいな。まさか、可愛がっていた後輩たちに背中を刺されるとはな。こりゃ参ったね」
深く考えずとも。古株以外に取り柄もなく、契約獣を持たず偉そうに指導してきた俺と。
同じ落ちこぼれであっても、クランリーダーの座に就くグラディオとでは、影響力がまるで違う。
これは――当然の結果だ。
何よりも俺という存在が、クランの邪魔になっているという目に見える証明。
俺とグラディオがいがみ合うたびに、後輩たちを無駄に怖がらせてしまったのだろう。
どちらか片方が消えるとなれば、責任者の立場にない俺が、この場を去るのが妥当なんだ。
突っ立たまま呆然としている俺の前で、グラディオが一人の男性を奥から連れてきた。
黒い皿をひっくり返したような帽子を被った、三〇代くらいの無精髭を生やした人物だ。
片手に持つナイフを熱心に布で磨いている。刃物の先から鉄錆びの匂いが漂ってきそうだ。
見た目は頼りのない中年に見えるが。隠しきれない、立ち振る舞いが只者じゃないと告げている。
「せっかくだ、お前にも紹介してやるよ。この御方はガンツ先生といって、なんと、元Aランクの凄腕魔法剣士様であらせられる。怪我で一度現役を退いてはいたが、俺の知り合いの伝手でクランを盛り上げる為もう一度現場復帰していただいた。もう【鍋底】をGランクの落ちこぼれクランだとは言わせねぇ! ここから俺は成り上がっていくんだ!」
グラディオは自分に酔いしれながら、野望を語りだす。
勝手に紹介された本人は、鼻歌を奏でながらナイフから視線を逸らさない。
「んー君が例の古株くんか。グラディオくんから聞かされたよ。契約獣を持たない、落ちこぼれテイマーだとね。俺は頑張る子は嫌いじゃないから、必死に足掻いている姿を間近で見ていたかったけど。残念だが、クランリーダー様の指示となれば仕方がない。この挨拶もすぐに無駄になるな」
ガンツはこちらを見向きもしなかった。上位ランクの厳しい闘争を経験した人物だ。
脱落者にはとことん冷酷で、無慈悲。明日にはきっと俺の存在すら忘れられているだろう。
クランにも、冒険者にも。Gから順にSまでのランクが存在する。
組織に所属している以上は、この格差社会から逃れる事は叶わない。
元Aランクの助力を得れば、落ちこぼれクランであってもEランクは現実的に目指せるだろう。
一度Eランクにさえなってしまえば、そこから有能な人材を招き補強する事で更に上も目指せる。
グラディオはこの機会に、足を引っ張る邪魔な人間をすべて排除するつもりなのだ。
クランの方針に口を出す俺が前々から目障りだったんだろう。追い出す口実を探していたと。
事実、ガンツの加入をあらかじめ知っていれば、俺は必ず反対していたはずだ。
落ちこぼれである俺たちが、腕も未熟なまま急なランク上昇に追い付ける訳がない。
グラディオが目指す先に俺たちの居場所はなく。奴はいずれ全員を切り捨てるつもりでいる。
俺は――頭を下げてでも【鍋底】に残ろうとしていたが、一気に熱が醒めてしまう。
落ちこぼれだと笑われても、協力し合って、周囲を見返してやろうと誓ったじゃないか。
結局、目先の欲に眩んで仲間を捨てるんだな。このクランに残っていても未来はないだろう。
前々から独り善がりな一面は見えていたのだが、立場が人を変えると信じていた。
しかし、ここに来て悪い意味でコイツは変わった。修復できない亀裂が生じたのだ。
「……わかった。今ここでクランを抜ける。長い間お世話になった。生まれ変わった【鍋底】でも、グラディオが変わらず活躍できることを切に祈っている」
「ついに己の人望のなさを理解したか。当然だが装備は置いて行けよ? どうせお前はここを抜ければどこにも行き場がないんだ。これまであえて見逃していた俺の寛大さに感謝して欲しいところだが。いっそ冒険者なんてやめちまえ、その方が少しは長生きできるだろうよ。まっ、惨めだろうけどな」
鼻を鳴らし冗長したグラディオには皮肉すら通じない。
俺は溜め息を付いて装備を投げ渡す。自費で買い揃えた物もあるが。
所有権を巡って揉めるのも馬鹿らしいので。いっそ全部捨て去っていく。
「気の毒に。君の今後の幸運を祈っているよ。落ちこぼれのオルガくん」
「……そりゃご親切にどうも」
去り際にガンツが呟いた。突如現れた彼の存在もどうにも怪しいものだが。
もはや部外者でしかない俺には無意味な疑問か。古臭い扉を潜って眩い外界へ出ていく。
その僅かの間、背中に強い視線を浴びる。振り返ると、彼はナイフ拭きの作業に戻っていた。
こうして俺は、落ちこぼれクランからも落ちこぼれてしまったのだった。
面白いな、続きが気になるな、と感じていただけましたら。
是非とも評価をお願い致します。感想もご自由にどうぞです。
☆の数は一つだけでも参考になります。