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ノーブレーキ・ランナウェイ  作者: 佐久謙一
第五章 またお買い物を邪魔されます
31/35

5-5

「ヘイ、姉ちゃん。俺がいる限り、俺のニューブラザーに手出しなんてさせねえぜ!」

「……何だ手前は」

 突然の珍客にファーティは呆れた顔で言った。ビーストは口でリズムを刻みながら、華麗に腰を振っている。

「俺の名はワン・オー・ワン・ビースト! この町の支配者さ! この町で好き勝手したいならまずは俺を倒してから――」

 ビーストが喋り終える前に、ファーティはビーストに向かって銃を乱射した。銃声と共に放たれた無数の弾丸がビーストの身体を貫き、ビーストは血を噴きながら倒れた。

 フレアが悲鳴を上げる。初めて目の当たりにした凄惨な光景に体中が震えている。

「さて、お嬢様」

 ファーティはフレアを見る。フレアの肩がビクンと跳ねる。

「これで私が本気だってのは分かっただろ。さっさとついてきな! 次逆らったら隣の女を撃ち殺すよ!」

 今の銃声によって、フレアの顔は完全に怯えきっていた。恐怖で体が震えている。

「おら、さっさと来るんだよ!」

 ファーティがフレアの腕を乱暴につかんだ。フレアは悲鳴を上げながらファーティに引っ張られる。

「――おい」

 その時、何者かがファーティの腕をつかんだ。ファーティが眉をひそめてそちらに視線を向ける。

 その瞬間、ファーティの体が宙を舞い、視界が逆転していた。自分の身に何が起きたのか理解する間もなく、そのまま地面に叩きつけられる。

「――がっ!!」

 背中に走る痛みにファーティは思わず悲鳴を上げる。そして天井と、自分を見下ろす男の顔を見て、自分が投げられたことをやっと理解した。

「……バーンズ」

 ファーティが忌々しそうに男の名を呟く。その男――バーンズはファーティを見据えたまま鼻を鳴らした。

「やっと会えたな。ウォルフファミリー残党」

 バーンズは視線を周囲に巡らせ、状況を確認する。そしてフレアとクラッチを確認すると、柔和な笑みを浮かべる。

「フレア、クラッチ、怪我はないか」

「は、はい」

 フレアが視線を逸らしながら頷く。その反応に怪訝な顔を向けると、クラッチが引きつった笑みを浮かべながら、バーンズを指差した。

「……その……服……」

「服?」

 バーンズは自分の格好を確認する。そしてしばらく無言で立ち尽くした後、後ろを振り返りアクセルを睨みつける。

「……お前には後で話がある」

「分かったから早くそいつを片付けてくれよ」

「言われずとも。お前は二人を連れて外に逃げろ」

 バーンズはファーティに向き直りながら指示を出す。

「畜生……目を覚ましやがったのか……」

 ファーティがゆっくりと立ち上がる。店から出ていく三人を尻目に大きく息を吐く。

「まぁいい。手前とは決着をつけなきゃいけないと思ってたんだ」

「同感だな。やり残した仕事を片付けさせてもらおう」

 ファーティの視線が床に向けられる。先程バーンズに投げ飛ばされた時に手放した銃が転がっている。バーンズもファーティの視線でそれに気付く。

 ファーティが銃に手を伸ばす。それと同時にバーンズが駆け出した。

 銃を拾ったファーティがバーンズに銃口を向ける。引き金を引くと同時にバーンズが銃を持つ手を払いのけ、弾丸が明後日の方向に発射される。

 バーンズはファーティの手を捻り上げ、足払いを放つ。再びファーティの体が宙を舞い、地面に叩きつけられた。銃が音を立てて床を滑っていく。

 さらにバーンズは素早く関節を極め、後ろ手に捩じ上げた。ファーティが苦痛の声を上げる。

「これまでだ。貴様を拘束する」

 そう呟き、腰の後ろに手を伸ばす。だが自分が腰みの一丁であることに気付き、バーンズは慌てて拘束できそうな物を探す。

「――バーンズさん」

 その時、入口の方から一人の人物が姿を現した。そちらに顔を向けると、そこにはフレアが立っていた。

「フレア? どうしました? 何故戻ってきたのです?」

 バーンズが尋ねる。フレアは答えず、手を後ろに組んだ状態で近付いてくる。バーンズは眉をひそめてフレアを見つめる。

「フレア?」

「ミスター・バーンズ!」

 その時、フレアの後ろから、もう一人のフレアが血相を変えて姿を現した。

 突然の事態にバーンズの顔が強張る。それと同時に、最初に現れたフレアが右手を振り上げながらバーンズに向かってくる。その手にはナイフが握られていた。

 ナイフが振り下ろされる。そして悲鳴と鮮血が飛び散った。

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