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「ヘイ、姉ちゃん。俺がいる限り、俺のニューブラザーに手出しなんてさせねえぜ!」
「……何だ手前は」
突然の珍客にファーティは呆れた顔で言った。ビーストは口でリズムを刻みながら、華麗に腰を振っている。
「俺の名はワン・オー・ワン・ビースト! この町の支配者さ! この町で好き勝手したいならまずは俺を倒してから――」
ビーストが喋り終える前に、ファーティはビーストに向かって銃を乱射した。銃声と共に放たれた無数の弾丸がビーストの身体を貫き、ビーストは血を噴きながら倒れた。
フレアが悲鳴を上げる。初めて目の当たりにした凄惨な光景に体中が震えている。
「さて、お嬢様」
ファーティはフレアを見る。フレアの肩がビクンと跳ねる。
「これで私が本気だってのは分かっただろ。さっさとついてきな! 次逆らったら隣の女を撃ち殺すよ!」
今の銃声によって、フレアの顔は完全に怯えきっていた。恐怖で体が震えている。
「おら、さっさと来るんだよ!」
ファーティがフレアの腕を乱暴につかんだ。フレアは悲鳴を上げながらファーティに引っ張られる。
「――おい」
その時、何者かがファーティの腕をつかんだ。ファーティが眉をひそめてそちらに視線を向ける。
その瞬間、ファーティの体が宙を舞い、視界が逆転していた。自分の身に何が起きたのか理解する間もなく、そのまま地面に叩きつけられる。
「――がっ!!」
背中に走る痛みにファーティは思わず悲鳴を上げる。そして天井と、自分を見下ろす男の顔を見て、自分が投げられたことをやっと理解した。
「……バーンズ」
ファーティが忌々しそうに男の名を呟く。その男――バーンズはファーティを見据えたまま鼻を鳴らした。
「やっと会えたな。ウォルフファミリー残党」
バーンズは視線を周囲に巡らせ、状況を確認する。そしてフレアとクラッチを確認すると、柔和な笑みを浮かべる。
「フレア、クラッチ、怪我はないか」
「は、はい」
フレアが視線を逸らしながら頷く。その反応に怪訝な顔を向けると、クラッチが引きつった笑みを浮かべながら、バーンズを指差した。
「……その……服……」
「服?」
バーンズは自分の格好を確認する。そしてしばらく無言で立ち尽くした後、後ろを振り返りアクセルを睨みつける。
「……お前には後で話がある」
「分かったから早くそいつを片付けてくれよ」
「言われずとも。お前は二人を連れて外に逃げろ」
バーンズはファーティに向き直りながら指示を出す。
「畜生……目を覚ましやがったのか……」
ファーティがゆっくりと立ち上がる。店から出ていく三人を尻目に大きく息を吐く。
「まぁいい。手前とは決着をつけなきゃいけないと思ってたんだ」
「同感だな。やり残した仕事を片付けさせてもらおう」
ファーティの視線が床に向けられる。先程バーンズに投げ飛ばされた時に手放した銃が転がっている。バーンズもファーティの視線でそれに気付く。
ファーティが銃に手を伸ばす。それと同時にバーンズが駆け出した。
銃を拾ったファーティがバーンズに銃口を向ける。引き金を引くと同時にバーンズが銃を持つ手を払いのけ、弾丸が明後日の方向に発射される。
バーンズはファーティの手を捻り上げ、足払いを放つ。再びファーティの体が宙を舞い、地面に叩きつけられた。銃が音を立てて床を滑っていく。
さらにバーンズは素早く関節を極め、後ろ手に捩じ上げた。ファーティが苦痛の声を上げる。
「これまでだ。貴様を拘束する」
そう呟き、腰の後ろに手を伸ばす。だが自分が腰みの一丁であることに気付き、バーンズは慌てて拘束できそうな物を探す。
「――バーンズさん」
その時、入口の方から一人の人物が姿を現した。そちらに顔を向けると、そこにはフレアが立っていた。
「フレア? どうしました? 何故戻ってきたのです?」
バーンズが尋ねる。フレアは答えず、手を後ろに組んだ状態で近付いてくる。バーンズは眉をひそめてフレアを見つめる。
「フレア?」
「ミスター・バーンズ!」
その時、フレアの後ろから、もう一人のフレアが血相を変えて姿を現した。
突然の事態にバーンズの顔が強張る。それと同時に、最初に現れたフレアが右手を振り上げながらバーンズに向かってくる。その手にはナイフが握られていた。
ナイフが振り下ろされる。そして悲鳴と鮮血が飛び散った。




