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「――で、ここを捻ればお湯が出るから」
クラッチはお湯の出し方を説明しながらフレアを振り返る。フレアは部屋に入るなりびしょ濡れの服を脱ぎ捨てて下着姿になっていた。
「あとは一人で出来そう?」
そう言って、クラッチはチラリとフレアの胸元を確認する。服を着ていた時は分かり辛かったが、一皮剥くと意外と大きな二つの膨らみがあった。
「どうされました? クラッチさん?」
「……嫌、別に」
クラッチは自分の胸元に視線を落とし、小さくため息を吐いた。
「やはり一人では不安ですわ。クラッチさん一緒に入りましょうよ」
「あんた、そんなんでよく一人旅しようなんて思ったわね。ていうか嫌だよ。二人で入るには狭いし――それに恥ずかしいし」
「女同士なんですから恥ずかしがらなくてもいいじゃないですか。ほら脱いで脱いで」
「知ってる人間に裸見られる方が恥ずかしいって――ちょっ、こら、何すんだ!」
下着を脱ぎ捨て、裸になったフレアがクラッチに抱き付き、服を脱がしにかかる。
「うふふ。実は私、一度、友達と一緒にお風呂に入ってみたかったのです」
フレアが含みを持たせた笑みを浮かべて言った。
「……まさか私を風呂に誘うために、わざわざびしょ濡れになったわけ?」
「いえいえ。お風呂の使い方が分からなかったのは本当ですわ」
「……全く、分かったよ。一緒に入ってあげるわ」
クラッチは諦めたように小さく息を吐くと、フレアにされるがまま服を脱がされる。そして裸になった二人は一緒にバスルームに入った。
一人用として作られているバスルームは予想通り狭く、二人はほぼ肌を密着させた状態で浴槽に入った。シャワーからお湯を出し、二人して頭から浴びる。
クラッチがフレアの頭を洗ってやっている間、フレアが楽しそうに鼻歌を歌っている。
「呑気な歌ね」
洗う係を交代する。フレアが石鹸を泡立たせ、クラッチの髪をわしゃわしゃと洗い始める。
「いつもメイドに身体を洗ってもらっているので、誰かの身体を洗うのは新鮮ですわ」
「何か変な感じ。他人に身体を洗ってもらうなんて、子供の時以来だわ」
「クラッチさんのお肌すべすべですわ。なんだか触るのが楽しくなってきました」
「――ちょっ、どこ触ってんだ、こら!」
「わっ、暴れたら危ないですわ。狭いのですから」
「あぁ、もう、さっさと上がるよ! こんな状態じゃリラックスどころか、余計に疲れが溜まるわ!」
シャワーで泡を洗い流した二人は早々にバスルームから出た。バスタオルで体を拭き、下着を身に着け、モーテルに備え付けのガウンに着替える。フレアは子供のようにはしゃぎながらベッドに飛び込んだ。
「クラッチさん、恋バナしましょうよ、恋バナ!」
ベッドに寝転がるなり、フレアが言った。クラッチはバスタオルで髪を拭きながら、怪訝な顔をフレアに向ける。
「は? いきなり何言ってんの?」
「え? だって女の子の友達は一緒にお風呂に入って、そのあと一緒のベッドで好きな男の子の話をするものなのでしょう? 本に書いてありましたわ」
「あんた普段どんな本読んでんの? だいたいあんた婚約者いるでしょ」
「私はクラッチさんの話が聞きたいのです。もっとクラッチさんの事を色々知りたいのです」
フレアはキラキラとした純粋な目でクラッチを見つめる。そんな視線を向けられ、クラッチは、ぐっと言葉に詰まる。その眼差しには逆らえる気がしなかった。
「あぁ、もう分かったわよ。朝まで付き合ってやるわ」
クラッチはそう唸ると、ベッドに飛び込んだ。ベッドが跳ね、フレアが楽しそうにはしゃぐ。
「それでそれで、クラッチさんの初恋の相手はどんな方なのですか?」
「……えっ、いきなりそんなこと答えないとダメ?」
クラッチはいきなりの質問に、困った表情を浮かべた。




