転校初日の朝
春休みも終わり、今日から学校が始まる。春夜にとっては転校初日となる。
今日次第で孤立するか、友人を作り楽しく過ごせるかが決まる。これから先の学校生活を平穏に過ごすためには今日が勝負どころだ。
そう思いながら職員室前で待っていた。
すると職員室から三十代ぐらいの男性教員が出てきた。
「君が如月春夜だな、俺は担任の神無月だよろしくな」
そう男性教員……神無月が言うと笑みを浮かべた。優しく生徒人気がありそうな先生だと思った。
「そういや春夜は如月……風夏の義兄妹になったんだよな?」
「あ、はい、風夏とは義兄妹同士になりました」
「そうか、おっともうこんな時間か、よし春夜、そろそろ教室にいくぞ」
そう言うと神無月は廊下を歩き始めた。
春夜はそのあとを追いながら風夏との朝のやり取りを思い出していた。
「ねぇはる、今日から私がいる学校に転校することになってるじゃん」
「あぁ、そうだな」
「実はねはるに頼みたいことがあって……」
そういいながら風夏は申し訳なさそうな顔をした。
「学校では義兄妹って事を秘密にして」
「え?」
「それと、あまり私と関わらないで」
春夜はわけがわからなかった。関わらないでほしいと言うことは何となくだがわかる。風夏には風夏なりの学校生活があると理解が出来るからだ。でも義兄妹であることを秘密にする事はわからない。
秘密にする意味がわからないのだ。
だから春夜は率直にその疑問を聞いた。
「なんで、秘密にする必要があるの?」
「えーとね……」
風夏は少し気まずそうな顔をした。しかし決心がついたのか真面目な顔になって春夜の瞳を見た。
「それはね、はるのためだよ」
「俺のため?」
「うん。私ね、学校ではキャラが違うんだ。学校ではねはると再開した時みたいな感じなんだ」
「あのメイドみたいな感じで、過ごしているの?」
「うん、まぁそうかな、あれよりも固いけど」
「それがなんで秘密にする事に繋がるの?」
「えーとね、義兄妹ってばれると、絶対みんな、はるに家での私について聞くと思うんだ、それを答えるのは大変だろうし、何より私自身が嫌なんだ、みんなに家での私がばれるのが……」
風夏はそう説明しながら顔を暗くしていった。
そんな風夏を見て春夜は少し悲しい気持ちになった。風夏が人見知りと言うことは知っているが、仲良くなれば気草で優しく、一緒にいて楽しいと知っているから風夏が学校のクラスメートに心を開いていないことが悲しかった。
しかし風夏の表情を見ると、人見知り以外にも何かがあり、それのせいもあってクラスメートに心を開いていないことがわかった。
その何かは春夜にはわからなかったが今は力になれないことを悟った。だから春夜は風夏の頼みを聞くことにした。
「あぁ、わかった、秘密にする」
「あ、ありがとう、はる」
そんな約束を春夜は風夏とした。
そんな朝のやり取りを思い出していたら、教室についたらしい。春夜のクラスはE組らしい。
神無月は「呼んだら入ってきてくれ」と言い教室に入っていった。
「やぁみんな、元気だったか」
「あ、先生、うちらはとても元気でしたよ。そう言う先生はどうだったんですか?」
「俺か、俺はみんなと会えなかったから元気じゃなかったよ」
そんな神無月の言葉にE組は笑い声で溢れた。一部の生徒からは「またまた、先生は冗談がうまいんですから」や「本当は俺らと会わなかったから元気だったんじゃないんですか」などが発せられた。そのあとに「まぁ神無月先生だからね~」と言う発言にほとんどの人が賛同していた。
そんなクラスの様子を聞いていて、春夜は風夏と同じクラスになったことを納得した。
この学校は三年間でクラス替えや担任が変わることがないらしい、だから学校側の配慮で、風夏がいるクラスに転入することになった。
最初はそんな配慮はいらないだろうと思っていたが今のクラスの雰囲気をみてるとその配慮は確かに必要だった。この雰囲気に入っていくのは少し勇気がいる。でもそのクラスに知り合いがいれば入りやすくもなるものだ。
しかし、学校では風夏と関わらないと約束したため、その配慮はあまり意味がなかった。
「そうそう、今日からこのクラスに新しい仲間ができる」
「マジですか、先生」
「あぁ、そうだ、しかも如月の義兄妹らしい」
神無月の発言にクラスは「マジか」や「うそー」と言った声が聞こえてきた。
春夜はその発言や反応に頭を抱えた。多分風夏も頭を抱えていることだろう。
神無月のカミングアウトで朝、風夏と約束した事が無駄になった。いや、学校では関わらないと言う約束もあったので無駄ではないが、義兄妹であることを秘密にすると言う約束が無駄になった。
「よし春夜、入れ」
そう神無月が呼んだ。
春夜はため息をつきながら教室に入っていった。今は約束のことより、クラスメートへの第一印象が大切だ、約束のことは自己紹介が終わってからでいい。そんな事を思いながらクラスメートの前にでた。