ありがとう
「ふぅ、荷解きはこれくらいでいいかな」
春夜は中身がなくなった段ボールです処分しながらそんな事を言った。
春夜に与えられた部屋は二階の風夏の隣の部屋だった。
「はる、荷解き終わった?」
「まだあるけど、生活できるぐらいにはなったよ」
「そう、わぁ~、やっぱりはるは変わってないね」
「そうかな?」
風夏がそう言うと春夜は首をかしげた。
そんな春夜を見て、風夏はクスッと笑った。
「そうだよ、昔と趣味が変わっていないもん、そこにおいてある漫画やボードゲームを私は昔、春夜の部屋で見たことあるもん」
風夏の言葉に春夜は納得をした。
風夏が指を指した先には、某少年探偵漫画や昔ながらの人生ゲームなどがあった。
それらは風夏の言う通り、春夜が昔から好きで今でも買っているものだった。
確かに趣味は昔と変わらないなと思った。
そんな事を考えていると、ふと気になったことがあった。
それは風夏と再会した時、風夏の様子がおかしかった事だ。
「なつは変わったよな」
「え?」
「最初、再会したときのなつは、昔のなつとは違ってメイドみたいだったからさ」
「あ、あー、その事ね……」
風夏はそう言うと視線を春夜からはずし一瞬困ったような、悲しそうな顔をした。
そんな風夏の様子に春夜は違和感を覚えた。
「私って人見知りじゃん」
「そう言えばそうだったね」
風夏の言葉に春夜は、風夏が人見知りだった事を思い出した。
春夜の前ではいつもそんな様子を見せないため、春夜は忘れていたのだ。
「始めてあった人にも緊張しないように私なりに考えた結果、その人の従者……つまりメイドみたいにすればいいんじゃないかなって思ったんだ」
「あー、なるほどそう考えたんだ、確かになつはモノマネ……いや、演技か?まぁ、真似がうまかったからね」
春夜は昔、風夏が真似した近所に住んでいた雷親父を思い出した。
幼いころ、風夏とキャッチボールをしていたら、春夜が投げたボールが雷親父の住んでいた家の敷地内に入ってしまった。その時、雷親父は留守にしていたがそんな事を知らない春夜は雷親父に怒られるのではないかと戦々恐々としながらボールを取りに行った。そんな春夜を見て、風夏は雷親父の真似を敷地内でした。
『コラー、貴様、ワシの家の敷地内に入って何をしておる!』
『うわ~、ご、ごめんなさい~』
『ハハハハ、はる、私だよ』
『な、なつ--!』
春夜はそんな幼き頃を思い出し、笑みをこぼした。
「まあね、真似には自信があるからね」
「その自信、どこで付けたんだ?」
「幼いころ、何回も騙されてくれる親友がいたから」
春夜の質問に風夏は意地の悪い笑みを浮かべた。
その笑みは、悪い笑みながらも風夏の魅力を強めるだけの効果はあった。
そんな風夏に春夜は少しドキッとした。
それを誤魔化すように顔を明後日の方に向け、頭を掻いた。
「でも、その自信のお陰で、私は学校で何とかやっていけているんだよ」
風夏は意地の悪い笑みからとても優しい笑みに変えた。
その風夏の笑みに、春夜の心臓の鼓動が、速く動いた。
「だからね、ありがとう、はる」
「あ、あぁ」
風夏の不意の感謝の言葉に春夜の動揺は加速していった。
春夜は風夏に感じた違和感を忘れた。