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図書室での出来事5

 焔が選んでくれた参考書はとても春夜と相性が良かった。

 いつもは1ページの内容を覚えるだけで途轍もない時間を要していたが、この参考書のお陰でいつもより効率よく勉強ができた。といっても他の教科よりは遅いが。


「あの、春夜さん」


 ページをめくろうと参考書に手を伸ばしたとき、焔が申し訳なさそうに話をかけてきた。


「どうかした?」

「えっと、もう図書室の利用時間が迫っているのでそろそろ帰り支度をと思いまして……」


 時計を見てみると勉強を開始してからもう30分もたっていた。

 確かにもう帰り支度をしなきゃいけない、しかしこの参考書でもっと勉強をしたい。


「わかった、帰り支度をする前に、ちょっと橘に頼みたい事があるんだけど」

「はい、なんでしょう?」

「やっぱりこの参考書借りていい?」

「はい、問題ないですよ、では貸し出しの準備をするので1回本を借りますね」

「あぁ、よろしく頼む」


 そう言って焔に本を差し出した。

 本を受け取った焔はカウンターに向かいパソコンを操作し始めた。

 その間に春夜は筆記用具を片付け帰り支度をした。

 ちょうど出していた筆記用具等をしまい終わった時、カウンターにいる焔から声がかかった。


「春夜さん、貸し出しのの準備が整ったのでこちらに来てもらえますか」

「あぁ、わかった」


 カウンターに着くと焔は『契約書』と書かれた紙を用意していた。


「えっと、この紙は?」

「これは契約書ですが?」

「いや、なんで本の貸し出しで契約書が出てくるの!?」


 春夜は耐えきれず少し大きな声で突っ込んでしまった。

 焔は春夜の声に驚いて肩を震わせた。


「あ、ごめん、大きな声を出しちゃって……」

「い、いえ、私の方こそすみません、なれちゃってて忘れてましたが普通はありませんよね、契約書だなんて」


 春夜が謝ると焔は慌てて否定し、契約書がある理由を教えてくれた。


「たまに本を期限までに返し忘れることって、ありますよね」

「まぁ確かにあるな」

「それだけなら契約書は要らなかったのですが、返し忘れるにとどまらず、あろうことか本をなくしてしまう不届き者もたまにいますよね」

「あ、あぁ」


 焔にさっきまでの雰囲気とは違う雰囲気に春夜は驚いて少し返事が遅れてしまった。

 そんな春夜を気にせずに焔は話を続けた。


「そこで何代か前の図書委員長が弁償制度を生徒会に提出したらしいんです」

「べ、弁償制度……?」

「はい、その制度は本をなくしてしまったら、なくした本人が同じ本を買わなくてはならない、しかもどれだけ古くて本屋さんにもなかろうが、本を図書室に戻すまで、成績を下げる制度と言うものです」

「は、はぁ」


 本をなくした代償が少し重すぎる、提案した委員長もどうかと思うが採決した生徒会もどうかとは思う。なくすことは誰にでもあるのに。


「当時本をなくす人が多くて、買い替えで消える予算を抑えたかった生徒会は即決したらしいんです」

「あぁ、なるほど……」

「この制度ができてから本をなくす人が減ったのですが、なくした人の中にはなくした事を黙っている方がいるので、どの本が今どの人が持っているのかを可視化し、期限を過ぎたら毎日その人にお伺いするため、契約書を書いてもらっているのです、そのお陰か制度ができてから誰一人も期限以内に本を返してくれるようになりました」


 毎日自分のもとに来られるのはしんどい、しかも本をなくしたら成績が下がる。確かにこの制度があれば期限以内に本を返すだろう。


「ですから春夜さんもこの契約書にサインをお願いします」

「あぁ、わかった、サインするよ」


 焔に促され、春夜は契約書にサインをした。

 契約書がなくても期限以内に返すつもりだが、そういう制度があるなら従うべきだろう。


「はい、確かにサインをいただきました、それでは返却期限は二週間以内となっていますのでお忘れなく、返されなければ私が毎日春夜さんの元に行く羽目になりますから」

「そうならないように返却期限は守るよ」


 そう言う会話をしながら本を受け取った。


「それじゃあ俺はこれで」

「はい、ご利用ありがとうございました、また利用してくださいね」


 焔の声を背に春夜は図書室をあとにした。

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