絶対に見捨てない
「はぁ~、疲れた……」
春夜は今、家にいた。
今日は始業式と言うこともあり、午前の三時間だけ授業をして、そのあと式をやって終わった。
まだ午前中だが、春夜は疲れきってしまった。転校初日だったことや風夏の学校での様子、自分ではわからない感情などで精神的に滅入ってしまったのだ。
ちなみに風夏は先生に頼まれ事をされたらしく、帰ってくるのが少し遅くなるらしい。その間、なにもすることがないためソファーに座っていた。
「はぁ、暇潰しに本でも読み直すか」
だらけているだけでは、時間が過ぎるのが遅く感じるだけなのだから、前に読んだ本を読み直すことにした。そうと決まれば自分の部屋に戻って本を読もう。春夜はソファーから立って自室に向かった。
春夜がリビングからちょうど廊下にでたとき玄関のドアが開いた。
「あ、はる、ただいま」
「おぉ、お帰り、なつ」
「今何してたの?」
「なつが帰ってくるまで自室で本でも読み直そうかと思って」
「へー、あ、ところで昼食食べちゃった?」
風夏が少し不安そうな顔をしながら春夜に聞いてきた。そんな風夏に少し疑問を抱いた。
「いや、まだだけど……」
「そう!よかった」
「何がよかったんだ?」
「え、いや~まだはるに私の手料理しっかりと食べてもらってないな~って思って……」
風夏は少し気恥ずかしそうに答えた。
確かに春夜は風夏の手料理をしっかりとは食べたことはない。前に手作りであるコロッケを食べたがあれは朝に作った物の残り物だと言っていた。風夏の性格を考えるとあれでは手料理を食べてもらったってことにはならないのだろう。だからまだ手料理をしっかりと食べてもらってないと言ったのだろう。春夜はそう納得をした。
そう考えると春夜は風夏が作る昼食を楽しみになってきた。作り置きでもあんだけ美味しかったのだ、出来立てならなおのこと美味しいのだろう。
「そうか、なつが作ってくれるのか、とても楽しみだな!」
「そんなに楽しみなの?」
「あぁ、もちろんさ、なつが作り置きしていたコロッケだってとても美味しかったんだから出来立てならなおのこと美味しいに決まっている」
そう春夜が答えると風夏は驚いたような顔をした。しかしそれは一瞬の出来事ですぐに少し嬉しそうで、とても不安そうな顔に変わった。
「期待してくれるのは嬉しいけど、その期待に答えられるか不安だな~」
「そうか、あんだけ美味しいんだから大丈夫だと、俺は思うけどなー」
「はる……」
「まぁ、美味しくなかったらあの時はたまたまだったんだなって思うよ」
「フフ、はる、それは酷いんじゃない、私、そんな事を言われでもしたら泣いちゃうよ」
「そうか?それならうまく作ればいいじゃん。それになつならそんな感じの事を言われても大丈夫なんじゃないのか?」
「そんなことはないよ」
そう言うと風夏はとても暗く、悲しそうな顔になった。
そんな風夏を見て困惑をした。今までこんな顔をした風夏を見たことはない。人見知りだから言われたら傷つくに決まってるかと言えば春夜は否と答えるだろう。なぜなら風夏なら酷いことを言われてもその言った人が居なくなるとすぐに「もう、酷いと思わない」と怒ったような様子を表すからだ。なのに風夏がこんな顔をするのは春夜と離ればなれになっている間に風夏にも何かがあったのだろう。少なくとも昔はこんな顔を絶対にしないはずだ。春夜と別れてから何があったらこんな顔になるのかわからなかった。
「私ははるが思っているより弱い女だよ。大事な友人だろうと、自分を守るためなら、助けなきゃいけないと思っても動かずに見捨てる事ができちゃうんだもん」
「なつ.....」
風夏の自嘲したような言動に春夜は何となくだが何があったのかをわかった。多分、前に学校で友人を助けられなかった、そのせいで友人と絶交になってしまってとても後悔をしたのだろう。いや、後悔ではなく、友人と絶交になってしまったことや、友人を助けられなかった自身を風夏はすごく責めたのだろう、そして二度とそのようなことがないように人と仲良くすることを止めたのだろうと、その結果が、学校での様子ではないかと春夜は思った。
「ハハハ、ごめんごめん、辛気臭くなっちゃったね、着替えてすぐ昼食を用意するからリビングで待ってて」
春夜が風夏の過去を思って暗くなったことに勘づいたのか、風夏は明るく振る舞った。しかし春夜から見るとただの強がりでしか見えなかった。
「なつ!」
気がつくと春夜は風夏の手を腕をつかんでいた。風夏はそんな春夜の行動に驚いていた。春夜自身も自分の行動に驚いた、しかしそれは風夏に言っておきたい事があったのだと理解した。
「なつ、お前がどんだけ弱かろうが、自分自身を責めようが、他人がお前を罵ろうが、俺は俺だけは絶対にお前を見捨てない、それだけは忘れんな」
「はる……」
春夜がそう言うと風夏は驚いた顔をした。しかしすぐにとても嬉しそうな顔をした。
「はる、ありがとう」
そう言うと、春夜の手をそっとどかして自室に着替えに戻っていった。




