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従者として3(スペリア視点) 終


 殿下とエイミー様が婚約されて3年の月日が経ちました。

 そして本日、ついにお二人はご結婚されます。


 この3年間で色々な事がありましたが、簡潔に俺の話だけするのであれば、その期間で殿下の従者を辞める事はできませんでした。

 しかし今は、どうしてもう少し頑張って逃げなかったのかと、その事を一番悔やんでいるスペリアです。


 何故俺がこんな気持ちになっているかといえば、全ては殿下のせいとしかいえません。あの極悪非道な殿下はエイミーさまとの挙式の日程が決まると、俺に悪魔のような言葉を言い放ったのです。


「言い忘れてたけど、スペリアには僕達の子供が出来るより先に子供を作って欲しいんだ。それでその子には、いつか生まれてくる僕の子供の従者になってもらう。もちろんわかってると思うけど、スペリアに拒否権はないよ?」

「な、なななっ!!」


 何と恐ろしい事でしょう!?

 俺には今まで恋人の一人もいた事なんてありませんし、年齢なんてもう28歳になってしまったのですよ。そんな俺に今更結婚をして子供を作れなんて、殿下はなんと酷い事を仰るのでしょう。

 しかし殿下も俺に恋人が居ない事を考慮して下さったからなのでしょうか、更にこう付け加えたのです。


「それから僕たちの披露宴では、スペリアに釣り合うお嬢様方を何名か差し向けるつもりだ。出来ればその中からお嫁さんを選んでくれると嬉しいな」


 それはつまり披露宴でお見合いをしろと、殿下はそう仰っているわけです。

 今まで殿下とあの方のせいで恋人がいなかった俺は、その事に浮かれなかったわけではありません。

 きっと俺にも春が来る……そう思って挑んだ披露宴の筈でした。



 それなのにどうして───!?


「どうして、お見合い相手が全員フィア様を取り合ってるんですか!!?」

「あら、スペリア様。そんな大声を出してどうされましたの?」

「あらあら、フィーリア様の前なのに恥ずかしいですわ」

「そうですわ、フィーリア様が驚かれているではないですか!」


 皆さんは俺のお見合い相手な筈なのに、どうして俺じゃなくてフィア様の味方なのですか!!?

 間違いなくこうなってしまったのは、フィア様が原因なのはわかっています。きっと殿下だってこうなる事は予想していなかった筈でしょう。


 そう、俺に今まで恋人が出来なかった原因でもあるこのお方は、フィーリア・ブレイズ侯爵令嬢。

 殿下の元婚約者であり、何故か出会ってからずっと俺を追いかけ回してくる10歳以上も年下の女性です。

 彼女が俺の事を好いてくれているのは昔から知っていました 。ですが俺には年齢差のせいで妹程度にしか見えないのです。つまり今後も、フィア様に恋愛感情が芽生える事はありえないと言えるでしょう。


「それでフィア様は、私のお見合いを邪魔してまで一体何の用ですか?」

「…………そうですわね、単刀直入に言いますわ!スペリア様、ワタクシと結婚して下さいませ!!」

「……は?」


 こんな所で突然何を言いだし……いや待て、そうかこの場所だからか!?

 フィア様がわざわざ大声を出した目的に気が付いた俺は、やられたと顔を青くしてしまいました。

 だってこの場所は、この国の王太子であるクレス・グレフィアス殿下の結婚披露宴会場なのです。

 ここで俺が断れば、せっかくのめでたい日なのに縁起が悪くなったと責められてしまう……つまり俺は披露宴を台無しにしたとして罪に問われる事になるでしょう。


 その為、こういう時はとりあえず受けた後にコッソリと断る事が普通なのです。まあ、その場合は後で笑い物になる事を我慢すれば良いだけですから。

 しかし目の前で俺に求婚してきたのは普通では無いフィア様なのです。きっとこれを受けてしまえば、言質を取ったとばかりにそのまま結婚に持ち込むに決まっています。


 それによく考えたらここ最近のフィア様は、異様に静かでおかしいと思っていました。俺のお見合い話を聞いても一番最初にすっ飛んで来ませんでしたし、その事に少し寂しいなんて思ったりもしたのですが……今はその気持ちを全て無かった事にしたいですよ。

 しかもフィア様がこのタイミングを狙っていたなんて、俺も頭が回りませんでした。

 ……気付いていれば絶対に近づかなかったのに!


 ですが例えこんなふうに脅されたとしても、俺の答えは『NO』と決まっているのです。だってフィア様を愛していない俺が、彼女を幸せに出来るとは思えませんから。

 それなら例え罪に問われようとも、ここは断るのが正解なのです。

 これが、彼女の為なのですから───。


「フィア様、その話……」

「スペリア、今この場で断る事は許さぬ!!」


 会場中に響いたその声に驚きましたが、それはフィア様の声ではありませんでした。

 シンっと静まり返った会場にコツコツと歩く音だけが響いていました。そしてその靴音を奏でていたお二人は、俺の前でピタリと立ち止まったのです。


「スペリアお前という奴は、この天女のように美しいエイミーと王太子である私の、全世界が感動し涙した素晴らしき結婚日に、まさか断るなんて事は天地がひっくり返ってもあり得ないよな?」

「ちょ、ちょっとクレス様!もう、天女ってなんなんですか!?いい加減私を変な例えで言うのは恥ずかしいからやめて下さい。ほら、スペリア様も困ってますよ!」


 相変わらずお二人は変わらないなと、私はそのラブラブさに白目を剥きそうになりました。

 真っ白なタキシード姿の殿下と、純白のウェディングドレスを纏ったエイミー様。

 その姿を見るとお二人がくっついたあの日が、昨日の事のようによみがえって涙がでそうになりますね。

 しかしです、今は殿下であろうとも俺の邪魔をしてほしくありません。


「殿下、私がどういう思いで今までフィア様に接していたかご存知の筈です!だからこそ、このような場を設けて下さったのですよね?」

「その通りだ。だから私はフィアが来る前に相手を選べという意味で言ったんだぞ?それなのにお前ときたら、全く情けない男だな……」


 いや、そんなのわかりませんて!!?

 フィア様の事を知っていたのなら、もっと早く言ってほしかった……なんて今更言えるわけがありません。


「こうなってしまった以上、覚悟を決めろよ」

「…………」

「あの、クレス様。私からもスペリア様に一言よろしいですか?」

「え、エイミー。ダメだよ僕以外の男と話したら、もちろん見るのなんて問題外だ!」

「もう、クレス様!だからって目を隠したら前が見えないじゃないですか!?」


 流石のバカップルぶりになんだかイライラしてきました。これを見続けるぐらいなら早く話を終わらせて欲しくて、俺はつい口を挟んでしまいました。


「あの、エイミー様が俺に言いたい事とはなんでしょうか?」

「……あ、そうでしたね。それではハッキリと申し上げます。スペリア様、私はこの3年間何度もお2人のやりとりを見てきました。そしてずっと不思議に思っていた事があるのですが……どうしてスペリア様は、フィア様をちゃんと見てあげないのですか?」

「…………え?いや、それは……」


 年齢差が気になるし、なにより俺では彼女を幸せにできないから───。

 そんなくだらない理由だなんて、言えるわけがありません。


「エイミー様、もういいですわ。これ以上は聞きたくありませんの!」

「フィア様……ですが!」

「いえ、勘違いしないで下さいまし。ワタクシは今聞きたくないと言っているだけで、諦めたと言っているわけではありませんのよ!」

「っな!?」


 ───何故、フィア様は諦めないんだ?

 どう考えても諦めるタイミングは今なのに、そんな事を言うフィア様が信じられなくて、俺はついその顔をしっかりと見てしまったのです。


「…………!」


 そして俺は驚きました。だって彼女の姿はもう幼くなどなかったのですから。

 いつのまにか身長は伸び、スラリと長い手足は華奢な彼女をさらに優雅に見せていました。なにより幼かった頃の面影を残したままの彼女が、とても美しい大人の女性へと変わっていた事に、俺はこの時はじめて気がついたのです。

 どうやら俺は、本当にフィア様をちゃんと見ていなかったと言う事なのでしょうね……。


「スペリア様、ワタクシは例え貴方に愛される事がなくとも、お側にいられるだけでもいいのです!」

「それではフィア様が幸せになれないではありませんか、フィア様にはもっと良い人がいつか現れる筈で、俺なんかでは駄目で……」


 って、しまったーー!!!

 なに本心をポロポロこぼしてるんだ俺は!?


「……スペリア様?今の話はどう言う事ですの?」

「いや、あのですね。私はフィア様を愛せる気がしませんし、そんな私よりはフィア様を本気で愛してくださる人がいるのなら、その人と幸せになった方がいいんじゃないかと思いまして……それに俺と歳も凄い離れてますからね?」


 上手い言い訳が思いつかないからって本音が出まくってるよ、どうするんだよコレ!?

 周りを見回しても俺を軽蔑する目を向ける人達ばかりで、ここには俺の味方はいないし……!


「スペリア様、言いたい事はそれぐらいですの?でしたらワタクシも言わせて頂きますが……スペリア様に言われなくとも、ワタクシの幸せはワタクシが決めますわ!何より年齢差なんてワタクシ全く気になりませんのに、何故それをいつも言い訳にしてくるんですの!?」

「いやいや、歳は大事ですよ!だって若者は若者同士の方が話も合うでしょうし……」

「ワタクシは、スペリア様のありとあらゆる好みを知っておりますのよ!ですから、いくらでも話を合わせられますわ!!」

「えーっと、ですが……」


 どうにか他の言い訳を考えようとして、俺は固まってしまいました。

 だってフィア様は突然膝を折り曲げると、床に手をつけて頭を擦るぐらい低くしていたのですから。


「ちょ、ちょっと!その姿勢はお辞めください。貴族の女性がしていい姿ではありません!!」

「ワタクシ、泣き落としだろうが脅しだろうがなんでもしますわ!だってコレが、ワタクシの最後のチャンスなんですもの……っぅうっうっ!!」

「……フィア様?」


 突然号泣し始めたフィア様を見て、きっとコレもフィア様の作戦の一つだという事はわかっていました。

 それなのに、どうして俺はこんなにも動揺してしまうのでしょうか……?

 今日の俺は結婚する相手を無理矢理決めに来ただけで、愛のない結婚になるのは仕方がないと諦めていました。だからでしょうか、俺に一方的な愛情をくれると言う彼女に心が揺れ動かされてしまったのは……。


 そのせいで今の俺はこのまま愛のない結婚をするぐらいなら、俺を好きでいてくれるフィア様の方がましなのでは?なんて最低な考えが頭に浮かんでしまったのです。

 やはりこんな俺なんかが、フィア様と結婚してはいけないに決まっています……。


「フィア様、どれ程あなたに縋られようが私は、私はですね……えっと」


 …………あれ?

 おかしいですね、何故かうまく断れません。


「だから、この話は……」

「待って、それ以上はまだ言わないで下さいまし!それにスペリア様の事ですもの、ワタクシを憐れむ事を口実にして逃げるおつもりではなくて?」


 ……ギクリ。

 どうしてこの方は私の思っている事が何でもわかってしまうのでしょうか?


「別に、俺は逃げてるわけでは……」

「なら、スペリア様はワタクシの覚悟を全くわかっていないと言う事でしてよ!」


 いやいや、これまでの奇行からフィア様の覚悟はわかってるつもりですよ?

 ただその思いが俺には理解できないだけで……。


「いいですこと、もしスペリア様がこのまま愛のない結婚をするのであれば、ワタクシは夜這いをしてでも無理矢理貴方をワタクシのモノにしてみせますわ!」


 ───は!!!????

 いやいや、こんな大勢の人が聞いてるなかで突然アウトな事を言わないで下さいよ~~!!

 はぁ、どうしてこの方は俺に脈がないとわかっているのに、こんなにも執着してくるのでしょうか?


「スペリア様、お願いです。どうかワタクシをお側において下さいませ……そうでないと、ワタクシは一生幸せになんてなれませんわ!!」


 そう言われても……ああ、くそ。何で俺なんだ?

 どうしてか全くわからん!!


「はぁ、わからなさすぎてモヤモヤします、どうしてくれるんですか?」

「……す、スペリア様?」

「こんな気持ちはじめてなので、逆にどうしてなのか凄く気になってるんです」


 本当、おかしな話です。

 この俺がフィア様を気にする日が来るなんて、一生来ないと思っていました。

 ですがこのモヤっとした気持ちの答えを知る為には、きっと彼女の傍にいるしかない……という事なのでしょうね。


「フィア様、どうやら貴女の根気勝ちみたいです」

「それって、つまり……!」

「喜ぶのはやめて下さい。私はようやく貴女と同じスタートラインに立ったばかりなのですから」


 脈なしから少しだけ気になるぐらいの差ですけどね。


「先に伝えておきます。私がフィア様を一生愛せなくても恨まないで下さるのでしたら、私は貴女の手を一生離さないと誓いましょう」

「…………っ!す、スペリア様……それでも構いませんわ!ワタクシ、一生かけて貴方と大恋愛をしてみせますもの!!」


 喜び泣き崩れるフィア様の顔が見える位置までしゃがんだ俺は、持ち上げたフィア様の手に唇を落としたのです。

 この結婚を受ける。という意味こめて……。



 こうして俺とフィア様は勢いのまま結婚する事になってしまったのです。

 途中からコレは、殿下とフィア様が手を組んでセッティングした罠だと俺にもわかっていたのです。

 だけどあの時、フィア様の泣く姿を見ているのが凄く嫌だったのは間違いありません。

 それに結婚すると決めた時のフィア様の笑顔に、少しだけトキめいたと言うのも秘密にしておきましょう。


 そうですね、今は殿下とエイミー様が掴んだ幸せを、俺もフィア様と一緒にお裾分けしてもらった事にしておきます……。

 そしていつか生まれる俺の子と殿下のお子様が幸せに暮らせるように、もう少しだけ殿下の従者として頑張る事としましょう。

 ただし、もし女の子が産まれたとしても絶対に殿下の息子のお嫁にだけは出すつもりはありません!

 なんて思うのは、少し気が早すぎるでしょうか?


 そんな事を考えてしまいクスリと笑う俺の姿に、フィア様は不思議そうに首を傾げていました。

 俺はその可愛らしい動きに何故か動揺してしまったのです。

 ……こんな気持ち初めてなので、どう対処していいのか困ってしまいますね。ですが、これからは逃げるつもりはありません。

 俺が今まで目を逸らして来たこの気持ちをこれからは大事にしよう。そう思いながら、俺はフィア様の手をギュッと握りしめたのです。









ー 完 ー



















読まなくても大丈夫です。


エイミーちゃんの話は、裏主人公であるスペリアの話を持って完結とさせて頂きます。

大変更新が遅くなりましたが、最後までお付き合い頂きありがとうございました。


自分の感想は別で書かせて頂きます。


そして次回作ですが、時間ができればいずれフィーリア主人公の話を書きたいと思っています。

本編では全く語られていませんが、フィーリアは異世界転生者であり本当の悪役令嬢になる筈の運命を変えた子でした。

何故フィーリアがスペリアが好きなのか全くこちらで書いてなかったので、そこで書けたらと思っています。

彼女とスペリアの幸せな大恋愛を願って、再びお会いできましたら是非ご覧下さい。


最後までご覧頂きありがとうございました。


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