婚約書3
ようやく殿下のところまで戻って来たというのに、あまりにも戦いが激しくて出るタイミングを見失った私達は今、右往左往していたわ。
「フィア様、ごめんなさい。戻って来たのはいいのですけど、私ってば何も考えていませんでした」
「いえ仕方がない事でしてよ?こんな目の前でドッタンバッタンされると、流石のワタクシもドン引のあまり足ガクガクで動けませんわ!」
「え?」
こんな凄い堂々と仁王立ちしてるのに、足ガクガクなの!?
そう思ってフィア様をじっと見ると、僅かに足が震えていたわ。
「やはり、ここまで爆風が酷いとは思っていませんでしたから仕方がないですよ」
「その通りですわ。それからカロスですがスペリア様の後ろで倒れていますわね」
やっぱり、カロスってば気を失ってるじゃない!大丈夫なのかしら……?
「今は被害が酷くならないように、スペリア様が結界を張って下さっているようですわ」
「そうなのですね、流石スペリア様です!」
やはり殿下の従者なのだもの実力は高いわよね。
「ですがこのままでは、結界もすぐに壊れてしまいますわ」
「え?」
「エイミー様よく見てくださいまし。結界に無数のヒビが出来始めていますわ」
「そんな!?でもこのままじゃ、また大穴が出来てしまいますよ……!」
「大穴だけではないかもしれませんが……救援がそれまでに来て下さるのを願うしかありませんわね」
だけどもうその結界は、既に限界にしか見えないのですけど!?
……こうなったら、覚悟を決めるのよエイミー。
チャンスは結界が壊れたその時だけよ。
「あっ!エイミー様、もう結界がもちませんので一旦退避を……って、エイミー様!?」
今だ、走るのよエイミー!
「うおぉおおおおおーーー!!!」
「エイミー様、何故そちらへ!?今は流石に危ないですわよ!!」
もうここまできたら、そんな甘い事言ってられないわ!
この争いの原因が私にあるというなら、ここは意地でも私が止めるしかないんだから。
「二人ともお願い、攻撃をやめて!!!」
「「エイミー!!?」」
私は無理矢理、殿下とアルロスの前に立ち塞がったわ。
正直ここまで生きて来れた事が奇跡よ!
「エイミー、何故ここに?それに危ないからそこをどいてくれないかな」
「エイミー、そんなやつを庇うなんて正気か?」
「もう、二人は黙ってて!そして私の話を聞いてください!!」
どうやら、私が目の前にいる事で二人は一旦魔法を止めてくれたようね。
それなら、ここからが本番なんだから……。
「まずはアルロス、貴方が私の事を好きだという気持ちはようやく理解できたわ。だからずっと疑っていた事は謝ります」
「いや、何を言ってるんだ。僕は前からずっと、エイミーの事が好きだと言っていただろ?」
「そうね。でもやっぱりアルロスには一つだけ言わせてもらうわ。その感情は、絶対に勘違いよ!!本当、思い込みが激しいからっていつまでも勘違いしてるとかありえないんだから!!」
「……この気持ちが勘違い?いや、そんな訳がないだろ」
「それならアルロスは私の何処が好きなのよ?」
「それは、えっとだな……その……」
やっぱりアルロスは何も言えないわよね。
だって私の事なんて全然見てないんだもの。
「アルロス、まだかしら?」
「いや、確かにすぐには思いつかない。だが僕はエイミーを取られると思うと凄く嫉妬するんだ。それはエイミーが好きだからだろ?」
「本当にそうかしら?きっとそれはアルロスが好きなオモチャを取られて嫌だと思う事を、嫉妬と勘違いしているだけよ」
「オモチャと同じだと……?それならこの気持ちは本当の恋じゃないというのか……」
どうやら思い当たる事があったのか、ショックで固まってしまったアルロスに背を向けた私は、今度は殿下をしっかりと見たわ。
「あの、私は殿下に伝えたい事があります!どうか私の気持ちを聞いて下さいませんか?」
「……うん、いいよ。僕はどんな事でもしっかり受け止めてみせるから、エイミーの気持ちを教えてくれるかな?」
ドキドキする気持ちを抑えるように深呼吸をした私は、息を吸って言ったのよ。
「私は、殿下が好きです!」
「……エイミー」
「きっと私は、出会ったときからずっと殿下が好きでした。それなのに殿下に嫌われたくて、ずっと酷いこと言ってしまいました……」
今まで言えなかった本音をポツリポツリと零した私は、気がつくと目から涙が溢れていた。
「こんな私は殿下に釣り合わない、醜い悪女なんです。だから婚約については、ごめんなさい!」
「そうか、エイミーに直接断られるとは……」
「だから、こんな私が殿下と婚約しても許して貰えますか?」
「え?」
「……え?」
「えっと……それは、どっち?」
どっちって何!!?
もう、なんでそこでバシッと決められないのよ私は……しかも勘違いさせたせいで、殿下がおかしな事を聞いてきたじゃないのよ!!
「で、殿下その……!」
「いや、ごめんエイミー。信じられなくて変な事を聞いてしまったよ。でも今のは僕の婚約者になってくれるって事でいいのだよね?」
「そ、そうです!私は殿下と共にこれからの人生を歩いて行くと決めました。だからこんな駄目な私でも殿下は受け入れてくれますか……?」
「ああ、勿論。だって僕も、エイミーが大好きだからね」
「で、殿下……!」
私は殿下に歩み寄り、殿下は私を強く抱きしめてくれたわ。
「じゃあ、エイミー。今から婚約書を記入しに行こうか」
「は、はい……」
そう言って殿下の手を取ろうと思ったのに、突然殺気が膨れ上がって驚いたのよ。
「ちょっと待て!エイミーが王子と婚約とは一体どう言う事だ?僕は絶対に認めないぞ!!」
先程まで固まっていたアルロスはいつのまに復活したのか、私達を睨んでいたわ。
「なんだ、君は大人しくそのまま固まっていたらよかったのに」
「なんだと!」
「仕方がないね。雑魚は雑魚らしく、眠っていてくれないかな?」
「なっ……」
殿下は指をパチンと鳴らしただけなのに、アルロスはすぐに眠ってしまったのだけど……もしかして殿下は最初からそれが出来たのにやらなかった?
それは私がこうして戻ってくるのを予想していたからなんじゃ……!?
「殿下、まさか私が告白しに戻ってくるってわかってました!?」
「いや、流石にそんな事はわからないよ~?」
「そんな笑顔で言われても信じられません!!」
もしかして私、殿下にまんまと嵌められた!?
「でも、エイミーは僕の婚約者になると言ってくれたのだから、婚約書に署名してもらうまでは返さないよ?」
「もう殿下のバカ!って、私を抱えて歩こうとするのはやめて!?」
「だーめ。今から僕の部屋でイチャイチャしながら婚約書にサイン貰うからね」
「な、何言ってるんですか!そうだ、フィア様助けて……って、めっちゃ泣いてる!?」
しかも感涙しているフィア様は、私がその場を離れる最後まで気付く事はなかったわ。
こうして私は殿下に攫われるように部屋へと連れ込まれたの。だけど頭が沸騰していた私はそこで何が起きたのかわからないまま、とりあえず署名をして帰宅する事になったのよ。
「名残惜しいけどまた明日、学校でね」
「はい、殿下……」
そしてフワフワした頭で馬車に揺られていた私は今、突然我に返って頭を抱えていたわ。
いや、どうしてこうなった!?
勢いで婚約しちゃったけど、家族になんて言えばいいのよ?
しかも明日には学校中に噂が流れてるに決まってる。それなのにどうやって登校したらいいの!?




