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婚約書2


 私は今、フィア様と資料室で息を整えていたわ。

 だけどこんな場所に駆け込む羽目になったのは、頭のおかしいアルロスがいきなり攻撃を始めたせいよ。

 確かに、それを煽った殿下も頭がおかしいけど!

 それに殿下といえば、何か忘れているような気がするのよね……一体何だったかしら?


「エイミー様、無理に走らせてしまいましたけど大丈夫でして?」

「ええ、走るのは何故か慣れてるので……」


 もちろん、それは殿下のせいですけど!!

 だって以前はよく追われたり、見つかりそうになると走って逃げたりしてたもの。

 だけどなんだかそれも懐かしいわね……。


「令嬢が走り慣れてるのも変ですけど、大丈夫そうでよかったですわ!」

「やっぱ変、ですよね……いえ、それよりも置いて来たカロスは大丈夫でしょうか?アイツ魔力も体力も普通だから、巻き込まれて怪我してないといいんですけど……」


 って、待って!喋ってる最中に凄い爆発音がしたわよ!?


「い、今凄い音がしましたよね!?外は一体どうなってるんですか!」


 しかも爆発と同時に、建物が揺れたようなきがしたんですけど!?

 本当に大丈夫なの、コレ!!


「ああああ!!!もう、あの男どもは何という大惨事を引き起こすつもりでして!?でもあの二人を止めるには、騎士団長でも連れてこないと無理ですわよ!?」


窓から様子を見ているフィア様が突然発狂したけど、こんな状況だもの仕方がないわよね。

私も少しだけ、外の様子を見てみようかしら?


「フィア様、外はどんな感じ……」

「エイミー様は見ない方が!って、もう手遅れですわね……」


 ええ、勿論手遅れですけど!?

 いやなんでさっき私が馬車から降りた場所に、クレーターができてるの???


「待ってください!!?これは現実ですか!?」

「エイミー様、気を確かに持って下さいまし!二人は大魔法使いと呼ばれてもおかしくない程の実力者ですわ。そんな者同士が戦えば、あれぐらいの一つや二つは簡単に出来てしまいますのよ」


 ……こ、怖わ!!!

 魔法って身近にある便利な物だけど、やっぱりそこそこ出来るだけで充分なのね。

 だって、あんなのただの人間兵器じゃない……。


「一応言っておきますけど、あれはエイミー様を巡っておこった争いですわよ?」

「わ、私を……?」


 流石に目の前で起きてる事が現実離れし過ぎていて、無関係な気分でいたけど……。

 いや待って、私を巡ってってどう言う事!!??

 

「まさか、私がモテる時代が来ていたという事ですか!?」

「……エイミー様、まさか本気でいってまして!?流石にそれは今更過ぎですわ!!」


 え、本当に!??

 確かに殿下の気持ちは知ってるわ。だけどアルロスのは嫌がらせとか、揶揄われていたわけじゃなくて本当に好かれてたの!?

 一度アルロスに殺されかけたせいで、憎しみと愛情を勘違いしたのかと思っていたわ……。


「……フィア様すみません。ずっと混乱していたせいで気がついていませんでした」

「仕方がないですわ。メンツがメンツなだけあって好かれても嬉しくないですものね!」

「いえ、嬉しいは嬉しいですよ。でも私は一人の人に愛して貰えればそれだけで良かったので……」

「それは、殿下の事ですの?」

「な、何でそこで殿下が……!?」


 私はフィア様の口からどうして殿下の名前が出たのか分からなくて、首を傾げてしまったわ。


「あの、エイミー様。もしかして、殿下に婚約を迫られている事もお忘れになっているのではありませんか?」

「こんやく……あああ!!!私、婚約の事すっかり忘れてた!!?」


 余りにも怒涛の展開に私の頭がついていけず、古い事から順番に消しさってしまったんだわ!!?


「まあ、エイミー様の事ですからそんな事ではないかと思っていましたわ」

「す、すみません。でも殿下と婚約なんて……私はこれからどうしたらいいと思いますか?」

「そう言われましても……エイミー様の気持ちは、エイミー様にしか決められませんのよ?」

「そ、そうですけど……」

「ですがワタクシが見たところ、エイミー様は自分の気持ちを本当はわかっているように見えますわ。ですから、よろしければワタクシにエイミー様の心を全て教えて下さらないかしら?」


 私の気持ち……?

 そうよね、自分で考えてもわからないんだもの。

 ここはフィア様に聞いてもらう方がいいわよね。


「……わかりました。正直に話しますけど、私はまだ殿下が好きです。でもこのままだと悪女になるんじゃないかって不安で……」

「何を言ってますの?殿下の頑張りで、エイミー様が悪女と呼ばれる心配はありませんわよ?」

「確かにその通りですけど……。でもそれなら、今の私は一体何を心配しているのでしょうか?」

「そうですわね、もしかすると殿下の愛を受け止めるのが怖いのではありませんの?」

「それは……確かに怖いです」


 でも、そう思うのは仕方がないじゃない。

 だって殿下と婚約するという事は、いずれは王妃になるという事なのよ。

 こんな私が王妃なんて無理だし、なにより私は殿下と全く釣り合ってないんだもの。


「それならエイミー様は簡単に諦めますの。せっかく殿下がエイミー様の願いを叶えて、ここまでして下さったのに!」

「そ、それは……」

「もしエイミー様が好きな人の気持ちを踏み躙ってまで恋を諦めるというのでしたら、ワタクシはそれを恋だと認めませんわ!」

「でも、私は……!」

「エイミー様、よく思い出して下さいまし!殿下と過ごした楽しかった日々を、きっとそこに答えはありましてよ?」


 殿下との楽しかった日々?

 そうよね、思い出せば一つや二つ……そう思って私は記憶を探ってみたけど───。

 何で、いい思い出が一つも出てこないのよ!!?


「あのエイミー様、凄く唸ってますけど……」

「待ってください、今思い出しますから!?」


 そうよ、頑張って私の記憶!!

 追いかけられたり、待ち伏せされたり。馬車の中にいたり、計画が失敗して湖に落ちたり……こうして思い返してみても本当散々じゃない!

 だから、きっとこんなのはいい思い出じゃないわ。

 だけど……湖に落ちた時に助けてくれた殿下は、きっと間違いなく私の王子様だったわ───。

 ……王子様?


「そうよ、王子様よ!!」

「王子様?まあ、確かに殿下は王子ではありますけど……」

「そうなんですけど、そうじゃないんです!!殿下は私にとって本当の王子様だったんです!」


 殿下は一度『エイミーの王子様は僕だ』と言っていたわ。きっとそれは本当の事だったのよ……。

 でもその時の私はそれが信じられなかった。それなのに殿下は失望せすにずっと私を好きでいてくれたんだわ。

 でも私だけは王子様を馬鹿にされたあの日からずっと、何もかも諦めていたのよ。

 きっと殿下は今も昔も変わっていない、私の王子様だったのに……その現実から目を逸らしていたのは私の方だったんだわ。


 ───だから私が変わらないと!


「フィア様、話を聞いて下さってありがとうごさいました。私、逃げてばかりなのはもうやめる事にします。だから危険かもしれませんが、私は殿下達を止めに行きます!」

「……まあ!ワタクシはエイミー様が決めた事を尊重しましてよ。それにあの争いを止められるのはエイミー様だけですし、ワタクシも一緒にあの馬鹿どもに喝を入れに行きますわ!」

「ええ!一緒に行きましょう」


そして私は、資料室を出るとすぐに走りだしていたわ。

だって今度は私からこの気持ちを伝えたいもの。

だから待っててください!


私の王子様───。


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