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第九話 おしろのなかをたんけんだ!

 盛大な無駄話で時間を大いに無駄にした一行は、ようやく話を本題に戻し、バーントラフト家について調べた情報を交換し合ったが、よほど悪さをしていたらしいということ、裏で何やら大物貴族と繋がりがあったらしいことは分かったものの、それ以上詳しい情報は出てこない。


 そして、そんなドロドロとした政治の話を、子供に聞かせるべきではないとようやく気が付いた王の命令により、ジャミィ、ポメラ、ニーミの三人は、適当な部屋で待たされることになった……が。


「ねえ、おしろのなか、たんけんしましょ!!」


 幼い子供が、何もない部屋で長々と待ちぼうけなど、耐えられるはずがなかった!!

 いい子で待っているようにと言われてから十分と経たずそんなことを言い出したジャミィに、唯一の常識人たるニーミは慌て出す!


「あの、ジャミィ様。ディアル様にもフィアナ様にも、いい子で待っているようにと言われましたし……もう少し待ちませんか?」


 二人には、双子の面倒をよろしくと言われ、ついでにナナツから「お嬢様達のお姿を克明に記録するように」と魔導カメラまで渡されたのだ。

 カメラの必要性は分からないが、自らの雇い主と先輩の言いつけなのだから、どうにか守ってもらわなければ困ってしまう。


 だが、この双子はそんなに甘い相手ではない!


「だいじょうぶよ、ニーミ。わたしたちは、『いいこでまってて』って言われただけで、『このへやでまってて』とはいわれてないもの! いいこでたんけんすれば、おこられないわ!」


 人、それを屁理屈と呼ぶ!!


 だが、つい先ほどもサーブルスが屁理屈(?)を捏ねてバレなければ誤魔化しても構わないと言ったばかり、自分の言葉が間違っているなどとは欠片ほども考えなかった!


「ほら、ポメラもそういってるし、いきましょ!」


「え、えぇぇ……」


 いいのだろうか? と思うニーミだったが、止められるはずもなく流されていく。

 まあ、軽く見回ればすぐに飽きるだろうと高をくくり(言い訳ともいう)、結局はジャミィに連れられて部屋を後にするニーミ。

 何だかんだ言っても、彼女とて子供。しかも、白狼族の獣人である。


 子犬(狼だが)は、どう足掻いてもじっとしていられない生き物なのである!!


「えへへ、ここにはなんどかきてるけど、まだぜんぶのへやはみてないのよねー」


 無駄に広い屋内を見渡しながら、ポメラが呟く。

 どこまでも続く廊下には無数の扉がひたすらに連なり、まるで迷宮の中にも迷いこんでしまったかのよう。

 一般的な感性であれば、どう足掻いても迷子になりそうなそんな場所、案内もなしに歩きたくないであろうが……今の子供達は、好奇心の方が勝っていた!

 適当な扉に近付き、無造作に抉じ開ける!


「ふふふ、いいじゃないかアマーリア、少しくらい……」


「ダメですよクリス様、こんなところ、誰かに見られたら……あ」


 そこにいたのは、濡れ場一歩手前くらいに濃密にいちゃつく、一組のカップルだった!

 ビシリと固まる貴族風の男と使用人の女性を前に、何をしているのかよく分からず首を傾げる幼女二人と、何となく察してしまい顔を赤くする少女が一人。微妙な歳の差で反応が変わる三人組に対し、カップルの二人は大いに慌て始めた!


 なぜなら、そう……貴族と使用人という身分の差もさることながら、この二人、絶賛不倫中!! 男の方は既に将来を誓い合った婚約者がいるのだ!!


「あ、あー、これは違うんだ、これはその……」


「わ、私達、決してそういういかがわしいあれでは……!」


 幼い子供達を相手に言い訳を重ねるが、そもそもの前提を理解していない双子からすれば、話の流れが全く見えない。

 なぜ、仲良くしているのを隠さなければならないのか。その理由は一体何なのか。


 その答えは、一つしかない!


「もしかして、なにかこまってるの? わるいやつにじゃまされてたりとか!」


「それならいって! わたしたちがやっつけてあげるわ!」


 既にそれしか選択肢がないかのように断ずる姉妹に、ニーミはおろか不倫カップルさえも困惑する。

 が、都合が良いのも確かだ。


「そ、そうなんだよ! 俺達愛し合ってるのに、とある連中に邪魔されていてな!?」


「え、ええ! だからね、こうしてこっそり会うしかなくて……いい子だから、誰にも言わないでね?」


 嘘に乗っかり、自分達の行いを誤魔化そうとする大人達。きたない、なんときたない。

 だが、ここで下手に不倫のことが知れ渡ると、男女共に洒落にならない事態に陥りかねないので、彼らもなりふり構ってはいられないのだ。


「そっか、わかった」


 ただし、そんな彼らの紛らわしい気持ちが子供達に伝わるかと言えば……


「じゃあ、わたしたちがその“じゃまもの”をやっつけてあげるわ!」


 答えは、否である!!


「えっ、いや、別にやっつけたりとかしなくてもいいんだよ!?」


「そ、そうよ!! 私達はこうして密かに付き合えればそれで……」


「だめー! かぞくはなかよしじゃなきゃだめなの!」


 必死に押さえようとする不倫カップルを余所に、ジャミィは断固たる口調で宣言する!

 自分が普段、家族であるパパやママと思うように遊べないでいる現在、たとえ他人といえど、それを制限されてしまっている状況を見過ごせるはずがない。


 そう、子供には、今にもバレそうな禁断の恋こそ盛り上がるというややこしい衝動は理解出来ないのである!!


「それで、じゃましてるのってだれなの?」


「いってちょうだい!」


 故に、あくまでも善意の心からぐいぐいと迫る双子達。

 断ろうにも断れない空気だが、まさかここで「実は邪魔なんて何もされてなくて、ただの不倫なんだ」などとバカ正直に打ち明けるわけにもいかない。

 無垢な二つの視線に見詰められ、どうすべきか必死に考えた男の脳裏に、一つの名案が電撃の如く閃いた!


「邪魔をしているのは、そう……この国の貴族の在り方そのものなんだよ……!」


「きぞくの?」


「ありかた?」


「そう! この国の身分制が立ちはだかる壁となって僕と彼女の前に立ちはだかり、運命の赤い糸を無情にも断ち切ろうとしているんだ!」


 秘技・取り敢えず小難しいこと言って有耶無耶にしてしまおう作戦!!

 相手が子供であり、どうせ難しいことを言っても分からないだろうという前提に立って行われる、非常にいやらしく大人気ない作戦である!

 これをされた子供は、「なに言ってるのかさっぱり分からないけど、難しい言葉ばっかりだしきっと正しいことなんだろう」と無意識に思い込み、自らの主張を引っ込めてしまう。

 そう、たとえ相手の言っていることが、全く中身のないただのポエムだったとしても!!


「ああ、僕らは制度の奴隷、長らく続いた風習のために、貴族と平民が結ばれることは決してないんだ。だが、このままで終わりはしない。僕ら二人力を合わせ、少しずつこの醜悪な世界を変えてみせる……! だからどうか、君たちは静かに見守っていてくれないか?」


「クリス様……」


 散々語り倒した後、最後に一言だけ言いたいことを添える、小学生の読書感想文のような思ってもみない言葉達。

 だが、少なくともお相手の使用人の女性の心は打ったらしい。やたらと目を輝かせている。

 そう、恋はどこまでも人を盲目にしてしまうのである……!


「そうなんだ……」


「へー……がんばってね」


 そして男の作戦通りと言うべきか、双子達は何がなにやら分からないまま「静かに見守っていて欲しい」という部分だけ辛うじて飲み込んだ結果、普段の押しの強さを発揮出来ずにいた。

 そんな幼女達の姿に、成功を確信する男。しかし、そこで思わぬ伏兵が声を上げた!!


「あのー……身分差による結婚の是非については、ボーマン王子がご婚約された件で制度が変わったので、特に問題はないのではないかと……」


「はい?」


 そう、新人メイドとしてナナツの指導を受ける少女、ニーミである!

 この娘、田舎育ちの獣人と侮ってはいけない。その恐るべき吸収速度で、メイドに求められる作法を始めとした様々な知識を、ものの数日で見事物にしてみせた、スーパー少女なのだ!!


「つまり、どういうこと?」


「えっと、誰が邪魔しているとかではなく……法務大臣様に相談すれば、お二人も普通にご結婚出来る、ということです」


「えっと、ほーむだいじん? っていうおじさんをみつければいいの?」


「はい、そうです」


「なるほど! それならかんたんだね!」


「そ、そうだったんですか……!? やった、これでクリス様と結ばれることが……!」


 ジャミィとポメラにも分かりやすく解説し、あっさりと理解を得るニーミ。

 ついでに使用人にまでその情報が伝わり、あっさりと夢見る乙女のように瞳を輝かせる。


 こうなると、困るのは男の方だった。


「そ、そうだったのかー、知らなかったー……い、いやでも、大臣もお忙しいだろうから、ご相談はまたの機会に……」


 必死に誤魔化そうとするこの男、使用人の女性とはあくまでお遊び、本当に結ばれるつもりなど微塵もなかった!

 再び誤魔化そうとする男だったが、流石に同じ手を喰う双子ではない。


「いいから、はやくいこっ!」


「しゅっぱーつ!」


「あっ、待って、ちょっ……ねえぇぇぇ!?!?」


 こうして、不倫男はこの国の法律やらなんやらを司る代表者の元へと、強制連行されていくのだった!!

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