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第八話 おじいちゃんのおよびだし!

「はぁ、まさか王城に呼び出されるとはな……」


 王城に入るための最後の関所を潜ったディアルは、とぼとぼとした足取りで溜息を溢した。

 そんな夫の様子に、フィアナはくすりと笑みを溢す。


「そんなにしょげなくてもいいじゃない。バーントラフト領での一件について褒美を取らせるって連絡だったんでしょ? そりゃあ、多少は事情聴取もされるでしょうけど、悪い事にはならないわ」


「まあ、そこは俺も同意なんだが……あのジジイ、じゃなかった王様、口煩くて苦手なんだよなぁ」


 はあ、と再度溜息を溢すディアルの肩を、フィアナが慰めるように叩く。


 サーブルスは決して、ディアルを嫌っているわけではない。むしろ、戦争が終わったことで王家の威信を取り戻した彼にとって、魔族を統べるディアルとは今後も可能な限り友好的な関係を築きたいと願っている。


 が、そこはフィアナを実の娘だと半ば本気で考えているボケ老人。さながら娘が連れてきた彼氏を無駄に試そうとするたちの悪い親父の如く、ことある事に絡んでくるのである!!


 結婚したばかりの頃はそういうものだと諦めもつくが、既に二児の父親となって尚そんな調子なので、いい加減苦手意識が定着しつつあるディアルであった。


「パパ、おじいちゃんのこときらいなのー?」


「おじいちゃん、なにかわるいことしたのかしら?」


 そんな父親の機微を敏感に察した子供達は、遠慮容赦なくその内心へと踏み込んでいく!

 ちなみに、おじいちゃんと呼んでいるのはサーブルス自身がそう呼んでくれとしつこく迫った結果であり、別に彼女達が実の祖父のように慕っているわけではない。

 滅多に会える相手でもないため、感覚としては「年末になるとお年玉くれるけど、名前も知らない親戚のお爺さん」くらいの親密度である。哀れ、国王。


「いや、嫌いでもないし悪いこともしていないぞ。だから間違っても襲うなよ? いいな?」


「「はーい!」」


 念押しすると、子供達は元気よくそう返事をするが……正直、不安である。

 最近、子供達は悪とみれば誰彼構わず突撃して暴れてしまうので、どうしたものかと頭を悩ませているのだ。


 いや、一応(セバスを除けば)被害に遭っているのは本当に悪人ばかりなので、別に間違っているとまでは思わないが。


(子供の教育って……難しい……)


 なんでもかんでも素直に受け取って実践してしまう多感なお年頃、何を言っても逆効果になる気がして、頭を抱えるディアル。


 一方の子供達はと言えば、そんな親心など露知らず、とっくに他のことに興味を移していた。


「ニーミ、からだがかっちかちだよー? だいじょうぶー?」


「は、はひっ! らいひょうふれす!!」


 ジャミィが声をかけたのは、新人メイドのニーミ。白狼族という獣人の子で、白銀の毛並みが特徴的な十歳の少女だ。

 ジャミィとポメラの活躍により、彼女の両親の仇であるバーントラフト家が壊滅し、更には奴隷となっていた多くの獣人達が解放されたことで、随分と明るくなったのだが……まさか、自分が王城に呼ばれるとは思ってもみなかったのだろう。どういうわけか手足がバラバラのリズムで動き出すほどには緊張していた。


「だいじょうぶよニーミ、わたしたちがついてるわ」


「ポメラ様……はい、ありがとうございます」


 ぎゅっと手を握られ、ニーミの表情に笑顔が戻る。

 ジャミィもまた反対の手を掴み、三人並んで歩く姿は、まるで全員が姉妹であるかのようだ。


「もしなにかあっても、わたしが、がつーん! ってしてあげるから! あんしんして?」


「はい、ジャミィ様もありがとうございます」


「いや、ありがとうじゃなくてな!? ジャミィもパパの話ちゃんと聞いてたか!?」


 もっとも、飛び出す単語はちょっと聞き逃すには物騒過ぎたが。

 慌てて割って入るディアルだったが、ジャミィはきょとんと首を傾げていた。

 そう、残念なことに、子供は自分に都合の悪い事はすぐに忘れてしまう生き物なのだ!!


「ほら、そろそろ城内に入るから、みんなしっかりして。ナナツ、いざという時は頼むわよ」


「承知しました」


 一番後ろからついて来ていたナナツが一礼し、一家は城内へと足を踏み入れる。

 衛兵に出迎えられ、通されたのは国王が極秘の対談に用いる談話室。

 国王を除けば本当に限られた人間しか足を踏み入れられないはずのその場所がわざわざ選ばれたのは、それだけバーントラフト家壊滅にまつわる一件が大事だから……というわけではなく。


「おお、フィアナ、そしてジャミィにポメラよ! よくぞ来た、歓迎するぞ!!」


 親バカ(?)全開ではっちゃける王の姿を、万が一にも他の人間に見られるわけにはいかなかったからである!!

 そんなダメな国王サーブルスの姿に、ニーミは目を白黒させ、フィアナとディアルは苦笑を浮かべる。

 なお、ナナツは特に無反応のまま、ジャミィとポメラは歓迎されたことを素直に喜んで「わーい」とはしゃいでいた


「父上、そうしたことは話が終わった後にでも」


「おっと、そうじゃったな」


 脇に控えた息子のボーマンに諭され、サーブルスはこほんと咳払いする。

 そして、本題であるバーントラフト家での一件について……


「ディアルよ、お主あの領地を潰すのは一向に構わんが、なぜ可愛いジャミィとポメラを巻き込んだのじゃ? フィアナの名を使ったのはいい判断じゃが、そこについてどう考えておる!?」


「そこ!? いやもっとこう、バーントラフト家の不祥事について裏は取れてるのかとか、そういう話の確認じゃないのか!?」


「そんなもん後でいくらでもでっち上げられるからどうでもええわい」


「こらああああ!! 言いたいことは分かるが子供達の前で言うんじゃねええええ!!」


 悪徳領主に負けず劣らずの腹黒さを発揮する王の姿に、同じ王として……というより、父親としてディアルは全力で抗議する。

 もっとも、聞いている子供達は何を言っているのかあまり理解していなかったが。


「貴様がそれを言うか!? だからなぜ子供達を矢面に立たせたのかと聞いておる!!」


「いや、順序が逆なんだよ!! この子達が勝手にバーントラフト家に喧嘩売りに行ったから、大慌てで暴れても問題ないように手回しして追いかけたんだ!!」


「なにをぅ!? ちゃんと止めんか!!」


「いや止める暇もなかったんだっての!! 第一あんたなら止めれるのか!? 友達の友達が捕まってるから助けたいって、実際に助けられるくらいバカ強い娘にうるうる見つめられてダメだって言えるのか!?」


「言えるわけないじゃろうが!!」


「だろぉ!?」


 もはや何の話をしているのか、バカ親同士訳の分からない口論(?)を繰り広げる。

 そんな二人に、フィアナはすたすたと歩み寄り……にこりと笑み。


「二人とも、子供達の前ですからもっと紳士的に」


「ごふっ!?」


「ぬふぉ!?」


 ゴツンッ!! と盛大な音を立て、拳骨が降り注いだ。

 一応、得意の峰打ちを使ったのでダメージはないが、国王相手に容赦ないことである。


「ふぃ、フィアナよ、ディアルは旦那だからいいとして、一応ワシ、国王なんじゃが……」


「あらおじさま、私がやったという証拠はないでしょう? ボーマン、今の見えたかしら?」


「いえ全く」


 ふるふると首を振るボーマンは、嘘は吐いていない。実際、フィアナの放つ拳は早すぎて、常人の目には追えないのだ。


 証拠がなければ、いくら疑わしかろうと罰せられることはない。推定無罪の法則だ。

 そう、大人とは、非常に汚い生き物なのである!!


「パパもママも、なんのはなしをしてるんだろ?」


「さあ? よくわからないけど、バレなかったらなにしてもいいってことはわかったわ」


「うーん? つまり、どういうことー?」


「バレなければ、おやつをつまみぐいしてもだいじょうぶってことよ!」


「なるほど、じゃあポメラ、こんどやってみよっか!」


「うん!」


 そして、そんな悪い大人たちを見て、子供達はまた新たに一つ、悪い知恵を身に付けてしまった。

 こうして、無垢な子供は世の悪を知り、大人になっていくのである。悲しい。


「あ、あの……結局、お話は……?」


 ただ一人、ニーミだけが全力で脱線しつつある全体の会話を憂いて声を上げるのだが、誰一人それには気付かない。隣に立つナナツがそっと肩に手を置き、首をそっと横に振るのだった。

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