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第七話 おうさまたちのわるだくみ?

 王都の中央には、王族が住まう立派な城がある。

 黒を基調とし、どこか威圧感を覚える魔王領の城とは対照的に、白を基調としたその造りは荘厳さと気品に満ち溢れ、この国――アルメリア王国の舵取りを行う国政の中枢としての機能も兼ね備えていた。


「ふぅむ、バーントラフト領で反乱、統治者の交代が起こったと……して、反乱の指導者は?」


 そんな王城の謁見の間にて、気難しい顔で報告を受けとる一人の老人がいる。

 名を、サーブルス・ボア・アルメリア。ここアルメリア王国の国王である。

 老いて尚迫力を失わぬ眼光に射抜かれた大臣は、嫌な予感から背筋を冷や汗が伝っていくのを実感しながら、それでも自らの役目を全うすべく口を開く。


「はっ……どうやら、勇者フィアナとその娘達が主導となり、反乱を起こしたようです」


「なにっ、フィアナじゃと!? 確かなのか?」


 目を見開き、王としての威厳ある態度すらかなぐり捨てて問うサーブルスに、大臣は覚悟を決めて頷きを返す。


「はっ、間違いありません」


「くっくっく……そうか、またあやつがやったのか……くくく、くはははは!!」


 玉座から立ち上がり、狂ったように笑いだす国王。

 その姿を見て、大臣は静かに耳を塞ぎ……


「――いい!! 非常に素晴らしいぞフィアナ!! 流石は我が愛しの娘よぉぉぉぉ!!」


 直後、サーブルスは盛大に勇者への想いをぶちまけた!


 そう、王家にとっても、無駄に民から税を搾り、人目を盗んで種族間の対立を煽るような悪行に手を染める悪徳領主は頭痛の種だったので、消えてくれて大いに助かったのだ!!


 その気持ちは、サーブルスに限らずここにいる全員が思いを同じくするところ。しかし、最後の一言だけは余計だと、それまで大人しく傍で控えていた王子が溜息混じりに口を開く。


「父上、フィアナはあなたの娘ではないし、俺の婚約者でもないんだが」


「だまらっしゃい、ボーマン!! ワシらは魂で繋がれたソウルファミリーなんじゃ、分かれ!!」


「いえ分かりませんが」


「そうか、ならば分からずともよい! ワシにとってフィアナは娘同然! それでよいのじゃああああ!!」


 一人でヒャッハーする父の姿に、王子ボーマンは再度溜息を溢す。


 元々、勇者フィアナはしがない平民の娘だった。


 当時、人魔大戦の影響で国内が荒ていたことで、王家の求心力がどん底にまで落ちぶれ、実質的な国の実権すらも軍部に握られてしまう有様。このままではいつクーデターが起きてもおかしくないと、王家の者達は頭を抱える日々だった。


 そんな時、起死回生の一手として、度々城を抜け出していたボーマンが出会った非常に腕の立つ娘を、勇者として王家が全力で祭り上げたのが事の始まり。

 正義感が強く、自分の力を国の役に立てたいと考えていた彼女はそれを快く受け入れ、家柄に囚われない腕利きばかりの精鋭パーティを結成。魔族相手に連戦連勝を重ね、あっという間に国民の心を掴み取ったのだ!!


 それだけならば、結局は王家に向かうはずだった民の心が勇者に向いてしまっているのだから、嫉妬の一つも湧いたかもしれない。だが、そこは息子のボーマンが上手かった。

 フィアナに父の頑張りと苦労をそれとなーく伝えて同情させ、自主的に王であるサーブルスを立てるよう仕向け、互いに情が移るよう幾度となく腹を割った話し合いの場を設けたのだ。


 その結果、フィアナはサーブルスのことを頼れるおじ様として慕うようになり……サーブルスに至っては彼女を見る度「ああ、娘がいたらこんな感じだったのかのぉ……よし、ちょっとお小遣いあげよう、クソ貴族の領地でいいか?」などと、バカ親が行きすぎてもはやポンコツと化すまでになっていた!!


 一応補足しておくと、優秀な王ではあるのだ。

 既存の概念に縛られることなく、他者の意見にも耳を傾け、状況に応じて的確で堅実な判断を下すことの出来る賢王だと、他国からも評判になるほどには。


 ただ、身内しかいない場で王としての仮面を取ると、少しばかり頭がパーになるというだけで。


「全く、お前がフィアナと結婚しておれば、本当に義娘になったんじゃが」


「フィアナのことは尊敬しておりますが、そういう関係ではありません。それに、俺はナナリーを愛していますから」


 ボーマンの言葉に、サーブルスはなんとも複雑な表情を浮かべる。

 フィアナとの距離が近付くにつれ、息子であるボーマンとの婚約話は幾度となく持ち上がったが……本人達があまり乗り気でなかったこともあり、結局結ばれることはなかった。


 というのも、ボーマンが好きなのはフィアナの幼馴染である、ナナリーというなんの変哲もない心優しい平民の少女。フィアナ自身も二人の関係を応援していたので、たとえ政略結婚であろうと間に割り込むような真似はしたくなかったのだ。


 そのお陰で、今やフィアナは魔王ディアルと結ばれて終戦の切欠となり、戦争による支出の大きさに頭を抱えていた王家を筆頭とする内務派閥にとって良い結果をもたらしたのだから、文句などないのだが。


 それに、ナナリーはナナリーで良い子な上、平民を王室に迎え入れたことで、"民衆のこともきちんと気にかけてくれる王"として民の信頼も増したので、王としても親としてもこれが最善の道であったと、サーブルスは確信を持てる。


 すこーしばかり、既存の貴族達からの反発が高まり、バーントラフト家のような輩がちらほら現れているが……まあ、元より軍務派閥の連中は政敵だったのだから、大して変わりはないだろう。

 そういうことにしておく。


「あー、ごほん、話を戻しますぞ、王よ」


「おっと、そうじゃな。して、フィアナの起こした反乱に何か問題でも?」


 そんなバカ話をしていると、報告を持ってきた大臣が咳払いと共に注意を促す。

 慌てて王の仮面を被り直したサーブルスに溜息を溢す日常のやり取りを終えると、改めて大臣は口を開いた。


「反乱というだけで色々と問題ですが……一つは、同じように悪行に手を染める貴族達が、此度の件で警戒を強めるだろうということ。次は自分達の番ではと恐れた彼らが、勇者を亡き者にしようとどのような手を打ってくるか分かりません」


「それは当然じゃな。益々連中の動きには目を光らせる必要があろうて」


「もう一つは、民への説明ですね。その"連中"の策謀かとは思われますが、民衆の間で流言飛語が飛び交っております。ここは、王都に勇者や反乱に加わった者達を集め、悪行を正した正義の使者として王直々に褒美を取らせる姿を民に示し、噂に歯止めをかけておくべきかと愚考致します」


「ほう、それは良い考えじゃな。して、段取りの方は?」


「既に粗方手配済み、後は王の許可を貰うだけでございます」


「相変わらず、良い手際じゃな。その方針で構わんから、進めてくれ」


「はっ、了解しました」


 礼を取り、「ではこれにて、失礼いたします」と退室しようとする大臣。

 そんな彼を、サーブルスは「ああそうじゃ」と呼び止めた。


「褒美を取らせるのはいいが、民の前で披露するのであれば事前の段取りは必要じゃろう? 勇者達と顔を合わせる機会もちゃんと用意しておくんじゃぞー」


「……承知しました」


 自分がフィアナやその娘達と会いたいだけでは? と思ったが、口には出さない。ここで指摘したところで、開き直った王がヒャッハーするのは目に見えているからだ。


 これが無ければなー、理想の王なんだけどなー。などと、割と失礼なことを呟きながら退室していく大臣だったが、その声は幸い(?)にも、王まで届くことはなかった。


「むふふ、フィアナ、それにジャミィとポメラに会うのも久しぶりじゃのう、ワシのこと、忘れられておらんと良いのじゃが……」


 何せこの王、既にフィアナ達一家と会える時が楽しみ過ぎて、完全に一人の世界に入り込んでしまっている!!

 ダメだこりゃ、と頭を抱えた息子ボーマンは、そんな父を現実に引き戻す魔法の一言を放つ。


「楽しみにするのは結構ですが、大臣が持ち込んだ書類へのサインはきちんとこなしてくださいよ、父上。終わらなければフィアナ達との面談は無しですよ」


「……分かっておるわい」


 渋々、と言った具合に玉座から立ち上がり、自らの執務室に引っ込んでいく王、サーブルス。彼の後ろ姿はさながら、終わらぬ宿題に絶望する学生の如し。


 そう、大人になったからと言って、面倒事が無くなることは一生ないのである!!


 むしろこの判断が、更なる面倒事を持ち込むことになろうなど、サーブルスはおろか、優秀な王子であるボーマンにすら予想出来なかったのだった。

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