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第五話 かぞくがふえたよ!

今回はサービス回(?)

 家族でピクニックに出かけ、何の因果か奴隷商の一団を壊滅させてから一週間。ジャミィとポメラの二人は、実家である魔王城にて平穏な日々を送っていた。

 相変わらず(奴隷商の件もあって)忙しい両親は中々構ってくれないが、悪党らしい悪党も見つけられず、大人しく過ごす他ない双子の姉妹。

 さぞ不満も溜まっているだろう……と思いきや、意外なことに、彼女達もさほど退屈してはいなかった。


 なぜなら、奴隷商に捕まっていた一人である獣人少女のニーミが、新しく新人メイドとして二人の傍付きになったからである!


 二人より少々年上、十歳の彼女は助け出された時点で既に身寄りがなく、どこにも帰る場所がなかった。

 そんなニーミを不憫過ぎると考えたディアルとフィアナは、そのまま家に連れ帰ってメイドとして雇うことにしたのである。


 どん底生活が一転、天上人さながらの豪勢極まりない城に連れて来られ、困惑するばかりだったニーミ。その所在なさげな立ち振る舞いを見て、年上の妹を得たような気分になった双子は、それはもう新しい玩具を与えられた子供のように構い倒しているのだ!


「はーい、きれいにしましょうねー」


「うごいたらだめよー?」


「うぁ、えっと、はい……」


 今もまた、魔王城の広大なバスルームにて、入浴の経験がないというニーミのため、ジャミィとポメラは二人がかりで彼女の体を丹念に洗い流していた。

 野生に生きる獣人というだけあって細く引き締まった手足はしなやかで、磨けば磨くほど輝きを増していく白銀の髪は背中までふわりと伸び、前髪に隠れた垂れがちな碧の瞳は彼女の気弱さを表すと同時に、見る者の庇護欲をどこまでもかき立てる。

 ぴこぴこと跳ねる狼の耳やふさふさの尻尾など、普段あまり獣人と関わりを持ったことのない二人にとっては、全てが新鮮で興味の対象! お風呂という状況下も手伝って、これでもかと触りまくっていた!!


「うわーっ、ニーミのしっぽ、ふわふわしてきもちいー!」


「ふあっ、ぁ……! ジャミィ様、それ、強すぎ……!」


「あ、ごめんねー、じゃあやさしく、やさしくー」


「んっ、んぅ……! こ、これはこれで、くすぐった……ぁ」


「ニーミのみみ、おっきいわね。エルフとどっちがよくきこえるの?」


「た、多分獣人の方が……あ、でも部族によって違うし、エルフは魔法もあるから……そ、それより、耳、だめぇ……」


「でも、こんなにかわいいみみ、ちゃんときれいにしないともったいないわよ? ほら、がまんがまんー」


「ふ、ふえぇ……!」


 敏感なところを弄り倒され、洗われて、ニーミの顔が赤く火照っていく。

 そんな少女を幼女二人が取り囲み、きゃっきゃきゃっきゃとはしゃぎながら泡だらけにしていく光景は控えめに言って尊く、見ているだけで心が洗われるかのよう。


「はあ、はあ……! こ、これは決してやましい気持ちではありません。そう、お嬢様方や後輩のニーミの身に何かあった際にすぐ駆け付けられるよう、様子を見守っているだけです……!」


 一部、鼻血を流しながらこっそり覗き見しているド変態メイドもいるが。

 これで同性でなければ……いや、同性であっても普通に通報案件である。警備員仕事しろ。


「よーしっ、きれいになった!」


 そんな熱烈な視線に終始気付くことなく、ジャミィの元気な声がバスルームに響く。

 ポメラが水魔法で泡を洗い流すと、ニーミと三人、仲良く湯舟へと移動する。


「えっと……ジャミィ様、ポメラ様、ありがとうございます……私なんかのために、こんな……」


「もー、そんなこといわないのー! ほら、さいしょにあったときみたいに、ふつーにしゃべって? わたしはジャミィでいいから!」


「わたしもポメラでいいわ。ニーミはわたしたちのメイドなんだから、もうかぞくみたいなものよ」


「ああ、そんなお嬢様……私達のようなメイドをそのように想っていただけているなんて……ナナツ、嬉しすぎて悶死してしまいます……!」


 何やら色々と勘違いして身悶えているメイドがいるが、ポメラの言葉はニーミにとっても衝撃的だったらしい。前髪に隠れていても分かるほど、小さな瞳をまんまるに見開いている。


「か、家族……私が、お二人の……?」


「そうよ! だからね、これからはいっぱいなかよくしましょ?」


「あ、ありがとうございます、ジャミィ様ぁ……私、私……!」


「ニーミ、どうしてなくの? どこかいたいの?」


「違うんです、ポメラ様……私、嬉しくて……!」


 ぐすん、と鼻を啜るニーミを、ジャミィとポメラは優しくあやすように撫でる。

 これまで辛い思いをしてきたニーミにとって、どこまでも無垢なその優しさはお風呂と同じように温かく染み渡り、凍り付いた心を溶かしていく。


「ある日突然、お隣の領主様の使いの者が、私兵団を率いて私達白狼族の村にやってきて……鉱山で人手が必要だからって、みんなを奴隷として連れていこうとして……! 横暴過ぎるって抗議した村のみんなが、どんどん殺されたり、捕まったり……それで、お父さんとお母さんも、私を逃がすために死んじゃって……! それで、もう私、ずっとひとりぼっちなんだって、思ってたのに……そんな私を、まさかこんな、優しくしてくれる人が、まだいるなんて……うえぇ……!!」


 それにより、ニーミの口から、滅茶苦茶重い身の上話がポロリと零れ落ちてしまった。

 ジャミィとポメラには、彼女の言っていることの半分も理解出来ず、当然その心の内に抱えた孤独と絶望を推し量ることなど出来はしない。


 だが、二人に分かったことが一つだけある。


「そう、ニーミ、ずっと“わるもの”にいじめられてたのね」


「つらかったよね? でも、もうだいじょうぶだよ。……ニーミをいじめるわるいやつは、わたしたちがぜんぶやっつけてあげるから!!」


 そう、二人にとってもはや家族同然となった、大切な新人メイドを泣かせるド畜生の悪徳領主が、この世に存在したということである!!


「やっつける……!? 嬉しい、ですけど……出来るんですか……?」


「ええ、もちろんよ!」


「わたしたちに、ふかのうなんてないわ」


 そして、二人の宣言を聞いたニーミの瞳に、一筋の希望の光が宿る。宿ってしまう。


 悪徳領主とは言うものの、山奥に棲み人間との交流が少ない獣人の村を襲ったなど、証拠が無ければ言いがかりにしかならず、やっつけるどころか糾弾一つとっても中々すぐにとは行かない。だが、ニーミもまだ十分に幼いと称して差し支えないほど小さな子供だ、そんなややこしい政治の駆け引きなど分かるはずがない。


 更に言えば、ニーミにとってジャミィとポメラは奴隷商の男達を完膚無きまでに叩き潰し、自分達を助けてくれたヒーローであり、辺境領主など目ではないほど巨大な城に住む正真正銘のお姫様だ。そんな二人が言うのだから、もしや本当に家族の仇を討ってくれるのではないかと期待してしまったとしても、彼女を責めることは出来ないだろう。


 結果、ニーミ本人には全く自覚がないまま、世界で最も危険な双子の枷を取り払うに足る、分かりやすすぎる目標を与えてしまった!!


「お願い、します……! お二人の力で、お母さんとお父さんの仇を取ってください……!!」


「「まかせて!!」」


 ドンと胸を叩き、早速とばかりに湯舟から飛び出す二人の幼女。

 そんな彼女達を見て、こっそりと覗きをしていたポンコツメイドは、遅まきながらポツリと呟いたという。


「……あ、これやばい。魔王様とフィアナ様にご報告しなければ」


 アウスブルク領の隣に広がる鉱山に囲まれた土地、バーントラフト領。

 王国随一の鉄の産地として知られるそこに、史上最強の幼女達が襲い掛かろうとしていた!!

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