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第四話 "どれいしょう"をやっつけろ!

 ディアルとフィアナ、ついでにナナツが捜索を開始した頃、当の子供達はと言えば……


「ポメラ、みて、みて! おもしろいむしー!」


「うきゃー!? こっちこないでー!」


 入り込んだ森の中で、未だ呑気に遊んでいた!

 そう、子供は迷子になるとすぐに泣いてしまうが……何かに夢中になっている限り、全く迷子の自覚が持てない生き物なのである!!


 果たして、その自覚という名の時限爆弾はいつ爆発するのか。それが爆発した時、この森はどうなってしまうのか。

 誰一人知らぬまま、今日この時まで平和を享受していた森の生き物達に、かつてない危機が訪れようとしていた!!


 が、しかし! それよりも先に、森の救世主(?)が現れる!!


「おや、お嬢ちゃん達、こんなところでどうしたのかな?」


 背中に斧を背負った木こり然とした男が、虫を手にきゃっきゃうふふと遊び回る子供達に声をかける。

 その表情には優しげな笑みを浮かべ、いかにも親切な好青年といった雰囲気を醸すこの男……しかし実は、心優しい木こりなどではなかった。


 幼気な子供やか弱い女性を拐い、売り物にする極悪非道! 奴隷商である!!


「パパやママはどうしたの?」


「うん? パパとママはねー……あれ? どこいったんだろ?」


「まいごかな?」


 もちろん、かつては奴隷商も合法的な商売だったのだが、人族と魔族の融和を押し進める現在、両者の間で奴隷の売買を禁じる法律が新たに制定されたため、奴隷を保有しているだけでも犯罪である。


 それまで奴隷商だった者達は、その伝を生かして行き倒れや孤児、職にあぶれた者を集め、復興支援の人手を必要とする場所へと紹介する、いわばハローワーク的な仕事で国から報奨を得る形にシフトしている。

 が、それに反発する者も後を絶たず、裏で取引される奴隷問題は、両種族の融和政策推進派にとって頭痛の種となっていた。


「そうか、迷子かー。じゃあ、良かったら僕が君達をパパとママのところへ連れていってあげるよ」


 そんな奴隷商の目の前に、見るからに弱そうな見目麗しい美幼女が二人、保護者もいない状態で森の中迷子になっているのを見つけたらどうするか?

 当然、そのままお持ち帰りコースである!!


「ほんと?」


「じゃあお願いするわね!」


 そして、大人の悪意をまだ知らない無垢な幼女達は、そんな男の甘言にまんまと引っ掛かる。


 だが、本当にヤバいのは奴隷商の男だ。今は子供達に親切な男の人だと認識されているからいいものの、もし何かの拍子に奴隷商だとバレてしまった場合、彼女達の中で即刻彼は"へいわ"のためにジェノサイドすべき悪党と化し、ひったくり犯と同じ末路を辿ってしまうだろう。ついでに、森にも甚大な被害が出る。


 今ここに、男の命と森の平穏、そして両親の胃の耐久力を賭けた仁義なき騙し合い(たたかい)の火蓋が、切って落とされたのである!!


「さあ、こっちに馬車が用意してあるから、行こうか?」


「「はーい」」


 そんなことになっているとは誰一人気付かないまま、両者共ににっこにこ笑顔で森の中を歩いていく。

 やがて森を抜け、どこかの街道に差し掛かると、そこには奴隷商の仲間と思しき数人の男と馬車、そしてそこに乗せられた奴隷達の姿があった。


「よう、遅かったな。ん? なんだそのガキは?」


「森の中で見付けたんだ、迷子みたいでな。……中々上玉だろ?」


「へへ、確かにな。ツイてるじゃねーか、やるなお前」


「よせやい、照れるだろぉが」


 げっへっへと、ゲス極まりない笑みで笑い合う男達は、自分達がツイてるどころか地獄への片道切符を手にしてしまったことに未だ気付かない。


 そして、肝心の子供達はと言えば、もちろん馬車に積まれた自分と同じ年頃の奴隷達に興味津々である。


「ねえおじさん、あのこたちは?」


「おじ……!? あ、ああ、あいつらはな、君たちと同じように迷子になっていたところを助けたんだ。これからみんなパパとママのところに連れていくところだよ」


「へー、そうなんだ!」


「おじさんたち、やさしいのね!」


 キラッキラとした無垢な視線に見詰められ、男達は笑みを浮かべる。

 愛らしい幼女達の尊敬の眼差しに絆され、彼らの心にも正義の光が宿った……わけではない!!


(((この笑顔がこれから絶望に染まるかと思うと、たまんねえぜ)))


 この男共、ゲスの極みである!!

 そんなゲスの発想が自らの命を風前の灯に変えているなどとは露知らず、男達はついに最後の一線を越えてしまう!!


「さあ、それじゃあ君達も馬車に乗って?」


「「はーい!」」


 なぜかやたら頑丈に施錠された扉が開き、中へと押し上げられると、ようやく、ジャミィとポメラの二人も何かがおかしいことに気が付いた。


「あれ? あなたたち、それ……」


 外からでは、ギリギリ顔の上半分が見えるかどうかと言った感じだったため気付かなかったが、中にいる子供は皆例外なく痩せ細り、薄汚い服装で足枷を嵌めている。


 想像と現実のギャップに戸惑い、理解が追い付かない。そんな二人に、狼の耳を持った獣人の少女が一人、掠れた声で叫んだ。


「に、にげて……!」


「おっと、もうおせぇよ」


 ガシャン! と音がしたかと思えば、ジャミィとポメラにそれぞれ鉄の枷が嵌められる。

 呆然とする二人に、奴隷商は下卑た笑みと共に真実を突き付けた。


「お前達はこれから、貴族の好事家に買われて、一生そこで暮らす奴隷になるんだ。死ぬまで、な。ひひひっ」


「ごめん、なさい……声、上手く出せなくて。教えて、あげられなかっ……けほっ、けほっ」


 涙ながらに謝罪する獣人の少女。何がなんだかよく分からないが、彼女は自分が辛い時、自分達のために声を振り絞ろうとしてくれていたのだと、幼い二人にも理解出来た。


 つまり、この場における悪者が誰なのか。ついに理解してしまったのである!


「へへっ、さーて、休憩もこれくらいにして、そろそろ出発をぉぉぉぉぉう!?」


 ドカーン!! と派手な音を立て、馬車の荷台、その扉が吹き飛ばされる。

 一体何事かと集まった男達の視界に映ったのは、小さな瞳に溢れんばかりの怒りを滾らせる、世界最強の二人の幼女の姿だった!!


「わたしたちをだまして」


「このこたちにひどいことして」


「どれーにしようだなんて」


「そんなわるいひとたちは……」


「「わたしたちが、おしおきよ!!」」


 解放された魔力によって枷が吹き飛び、ついに奴隷商達にとっての悪夢が解き放たれる!!


「お、お前ら、ぶっ殺せ!!」


 ここに来て、ようやく自分達が手を出したのがただの子供ではなかったと気付いたリーダーの男はそう指示を飛ばす。

 が、当然、魔法もロクに使えず、斧やボロ剣くらいしか武器を持たない男達に二人をどうにか出来るはずがない。

 ジャミィの拳で武器はあっさりとへし折られ、ポメラの魔法で男達は宙を舞う。

 殴っては投げ、殴っては投げ、気付いた時にはもはや、リーダーの男以外誰もいなくなっていた。


「い、一体なんなんだお前らは……!? どうしてこんなことに!?」


「そんなの、きまってるでしょ!」


「わるいことするひとは、おしおきされるうんめいなの!」


 狼狽える男に向かって、二人の幼女が拳を握る。

 絶大な魔力を前に失禁寸前になりながら、男はただただ物思う。なぜ、こんなことにと。

 その答えは、ただ一つ。


 よりによって、少し休憩しようと足を止めたのが世界最強一家のピクニック先とダダ被りだったこと。

 そして、少しばかり欲をかいて、予定にない幼女を連れ去ろうとしてしまったことである!!


「いくよー」


「かくごしなさい!」


「ちょっ、ちょっと待て! どうか、どうか見逃して……!」


「「おしおきぱーんち!!」」


「ぎゃあぁぁぁぁ!?!?」


 答え二つあるじゃねーか!! という世界のどこかから響く突っ込みすら吹き飛ばすように、幼女達の鋭いアッパーカットが男を打ち上げる。

 そんな打ち上げ花火を目にしたどこぞのメイドが、「はっ、お嬢様方の雄姿を見逃した!!」と叫んだかどうかは、定かではない。


「あ、あの……あなた達は一体……」


 奴隷商が全員打ち倒されたことで、馬車に詰め込まれていた子供達がぞろぞろと降りてくる。

 人間、獣人、エルフと言った人族だけでなく、魔族まで混じった雑多なその集団は、ジャミィとポメラの見せた恐るべき力に怯えた様子だったが……。


「わたしたちは、せいぎのみかたよ! それより、みんなけがしてるわね。なおしてあげる!」


「えっ?」


 ポメラが手をかざし、回復魔法を発動すると、弱っていた奴隷達の体がみるみる癒えていく。

 奴隷商に捕まる以前から何らかの傷病を患っていた者まで全回復する奇跡に、子供達は目を見開いた。


「だいじょうぶ、あなたたちのことは、わたしたちがちゃーんとパパとママのところにつれていってあげる! またわるいやつがきても、わたしがぶっとばしてあげるから、あんしんして!」


 そこへ更に、ジャミィの頼もしく優しい言葉が加わって、ようやく助かったのだと自覚が追い付いた子供達は、その場で泣き崩れる。

 なぜ泣くのか、全く理解出来ずに戸惑う二人に、子供達を代表するように、獣人の少女がひたすらにお礼の言葉を紡いでいた。


「ありがとう……助けてくれて……本当に、ありがとう……!」


「えへへっ」


「これくらい、せいぎのみかたなら、とうぜんのことよ!」


 なぜ泣いているのかは分からないが、お礼を言われて悪い気はしない二人。

 やがて、遅れて到着した両親やナナツの手によって、奴隷として売られる寸前だった子供達は親元へ帰されることとなる。

 こうして、世界から一つ悪が消え去り、目指す平和へとまた一歩近付いた。


 しかし、その平和のために、犠牲となった者が存在することを忘れてはならない。


 連れていく途中で泣かれても面倒だからと、森を出るまで演技を続けたリーダーの男。

 そして、奴隷が逃げ出しては困るからと、借金をこさえてまで無駄に頑丈な馬車を用意した、奴隷商の仲間達。

 彼らのファインプレーによって、荒れ狂う二人の幼女達から、森と奴隷の子供達の平穏は守られたのだ!


 平和のために尊い犠牲となり、絶大なトラウマを負いながら強制労働に従事することとなった彼らの献身に、敬礼!!

これまでで一番楽しく書けたかもしれない一話(笑)


感想評価お待ちしてまーす(*゜∀゜人゜∀゜*)♪

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