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第三話 ピクニックだー!

双子念願のピクニック回

「ピクニックだー!!」


「だー!!」


 王都の町中にて、極悪盗賊団と間違われたひったくりが、それはもう哀れなほどボッコボコに叩きのめされるというちょっとした事件から一週間。双子の姉妹はついに、両親と一緒に念願のピクニックへとやって来た。

 場所は、人族の領土である王国東部辺境の地、アウスブルク領。かつての大戦において特に戦略上重要な土地ではなかったために半ば放置され、長らく平和を保っていた土地である。

 そのため、魔法によって焼かれていないありのままの自然がどこまでも広がるこのアウスブルク領は、平和になった今の世界において、戦いに傷ついた心を癒す絶好の観光スポットとして名を馳せていた。


「ポメラ、きょうそうよー! きゃわー!」


「ああっ、ジャミィまってー!」


 そんな場所で、幼い姉妹は元気よく野原を駆け回る。その顔には、幾度となくピクニックの延期を懇願した父親に対する不満などもはやなく、満面の笑みでディアルへと手を振っていた。


「ああ、良かった……あの子達の機嫌が直って本当に良かった……!!」


 楽しげな娘たちを見て、滂沱の涙を流すディアル。

 かつては女子供相手だろうと容赦しない、極悪非道の大魔王と恐れられていた彼が、今やこんなことになっていると知られれば、誰もが「魔王ってなんだっけ?」と首を傾げることになるやもしれないが、彼も父親になって丸くなったのである。


「ふふっ、だから言ったでしょう? 子供の言う『だいきらい』なんて、『だいすき』とあまり変わらないって」


 そんな彼に寄り添うのは、黒髪黒目の妙齢の美女。かつては剣を片手に戦場を駆け回り、《戦人形バトルドール》などという大それた二つ名で知られた戦闘機械、勇者フィアナもまた、母親となったことで女性本来の美しさと優しさを取り戻している。


 なお、それを本人の前で言うと、「私は昔から優しかったし綺麗だったでしょ?」とのお言葉に合わせ鉄拳制裁が待っているので、決して口走ってはいけない。


「さあ、あの子達がはしゃいでる間に、こっちも準備しましょう」


「ああ、そうだな」


 近くに立っていた木の陰にシートを敷き、用意しておいたお弁当を置く。ピクニックの主眼は外でのんびりと食事を摂ることだが、流石にまだ少々時間が早い。


「パパー、ママー、いっしょにあそぼー!」


「あそぼー!」


「おっと、呼ばれたか。では行くとしよう」


「そうね。あ、でも荷物どうしようかしら?」


 子供達の呼び声に答えて立ち上がるも、せっかく作って来たお弁当が野生の獣に齧られては大変だとフィアナが困り顔で呟く。

 すると、まさにその言葉を待っていましたとばかりに、時空の裂け目からメイドのナナツがひょっこり顔を出した。


「ご安心を、私が見ておきますので」


「お、おう、そうか。……いや、いつからここにいたんだ、ナナツよ……」


「私はいつでもお嬢様方の傍におります」


「あなたのそういうところが頼もしくて、何よりも不安だわ」


「お褒めいただき光栄です、フィアナ様」


「褒めてないわよ」


 ともあれ、荷物番をしてくれるのならばありがたいと、ナナツにその場を任せて子供達の下へ向かう二人。

 何やらいそいそと魔導カメラを取り出してアレコレし始めたのは気になるが、家族写真は欲しいので素直にやらせておくことにする。やけに鼻息が荒いが、それは気にしたら負けなのだ。


「さーて、何をして遊ぶ?」


「まおうとゆうしゃごっこ!」


「んん? なんだそれは?」


「えっとね、パパがまおうで、ママがゆうしゃで、わたしたちはそのおともなの」


「みんなでまおうをやっつけるんだよ!」


「ぱ、パパはやられ役か……」


 容赦ない配役に、ディアルはがっくりと肩を落とす。

 何も、世間の常識として魔王が悪とされているわけではないが、現在の平和はディアルが決戦の末にフィアナに敗北し……身も蓋もない言い方をすれば、尻に敷かれる形で実現したので、やられ役というのもいまいち否定出来ないのが悲しいところだ。


「それでね、パパをたおしたら、さいごはみんなでおててつないで、なかなおりして、けっこんする!」


「かぞくになって、みんなでへいわにくらすの」


「ジャミィ、ポメラ……!」


 しかし、娘達がただパパを虐めたいわけではないと分かり、ディアルは感涙に咽び泣く。

 二人はあくまで、両親の馴れ初め話を再現したいだけなのだ。そうすることで、自分達もその幸せの登場人物になろうとしている。

 まるで娘達に改めて結婚を祝福されているようで、既に胸いっぱいの幸せを嚙み締めるディアル。

 しかし、彼は幸せのあまり肝心なことを秒で忘れていた。


「それじゃあ、いくよパパ!」


「もえろー!」


 その幸せに至る前に、一家の女性陣によるフルボッコタイムが待ち構えているということを!!


「うおぉぉぉぉ!?」


 ジャミィの拳とポメラの炎魔法に襲われ、ディアルは全力で回避を選択する。

 そう、娘達は最終決戦の再現をしたいようだが、当然その時と同じように全力で相手をするわけにはいかない。あくまでこれはごっこ遊びなのだ。

 しかし、だからと言って一方的にぶっ飛ばされるには、娘達のパワーは半端なく強かった。それはもう強かった。

 つまり、この遊びをハッピーエンドで終わらせるためには、娘達が力を使い果たし、自分が怪我をしない程度に威力が弱まるよう逃げ回る必要があったのだ!!


「こらっ、にげるなー!」


「わたしたちとたたかいなさいー!」


「ふ、ふははは! 我は魔王なり、これもまた戦術というもの、捕らえられるものなら捕らえてみるがいい!!」


 それとなく魔王っぽいセリフを吐きながらも、やることと言えば全力の逃亡劇。魔王としては情けないが、肝心の娘達が楽しそうなのでそれでいいのである。素直にやられ役に徹するのもパパの役目なのだ。


「あ、そっちにげた!」


「ママ、つかまえて!」


「えっ」


 しかし、その発言は少々問題だ。

 まさか、という思いのまま視線を向ければ、正面に立ち塞がる愛する妻は、にこりと笑いながら全身の魔力を漲らせる。


「まあ、せっかくだしね。久しぶりに、勇者として魔王退治と行きましょうか!」


「ま、待て待て!! フィアナにまで襲われたら、俺が死ぬ! 本当に死ぬ!!」


「大丈夫よ、それとなく手加減するから」


「本当だろうな!? 頼むぞ!?」


 必死に懇願するディアルの言葉に、フィアナはまるで聖母のような笑みでこくりと頷く。

 優しい妻の反応にほっと胸を撫で下ろしながら、そのまま走り抜けようとして……。


「はあぁぁぁ……! 《秘拳・峰打ち》ぃぃぃ!!」


「んぎゃあああああ!?」


 思い切り殴り飛ばされ、ディアルは吹き飛んだ。

 いや、手加減は手加減だけど、俺が言いたいのはそういうことじゃない。むしろ逃げるのを手伝ってくれ。

 そう思うのだが、苦言を呈している暇はない。吹き飛んだ先には、妻以上に容赦がなさそうな娘が二人。


「きたー!」


「パパ、かくごー!」


「あっ、ちょっ、待てお前達、今は……!!」


「「おしおきぱーんち!!」」


「うぎゃあああああ!?!?」


 娘二人の全力の拳を受け、またもボールのように吹き飛んでいくディアル。

 その後も散々に女性陣から殴られまくり、怪我もないのにメンタルと体力に絶大な消耗を強いられた末、ようやく『まおうとゆうしゃごっこ』は終わりを迎えた。


「はあっ、はあっ、はあっ……くそ、俺ももう歳か……」


「何言ってるの、あなたはまだ若いでしょうに」


「いやあ、娘達を見ていると、どうしてもな……」


 先ほど敷いたシートの上で大の字になりながら、ディアルは嘆く。

 魔族は寿命が長い者が多く、実年齢で言えばディアルはフィアナの数倍は生きているのだが、まだまだ魔族全体で見れば十分若い部類に入る。

 とはいえ、自分は立っていられないほど疲労が溜まっているというのに、同じように遊んでいたはずの娘達が未だ元気に野原を駆け回っているのを見ると、どうしてもそんな感想が頭を過ってしまうのだ。


「お前こそ、以前ほど無茶の出来る体でもあるまい。大丈夫なのか?」


「何言ってるの、私だってまだ若いわよ。少なくとも、あの子達がちゃんと大人になるまでは生きるから、心配しないで」


 一方、人族であるフィアナは、人魔大戦の時の無茶が祟り、以前ほどの力はもう持っていない。恐らく、本気で戦えばディアルはおろか、娘達にも押し負けるだろう。

 寿命の観点からしても、家族の中でフィアナが間違いなく最初に死ぬ。ポメラも見た目や能力は人族そのままだが、魔族との混血であることに変わりはないので、寿命は相当に長いはずだ。


 家族の中で、一人だけ違う時間を生きねばならないフィアナ。その辛さを、ディアルはどう和らげればいいかとしばし考え……ふん、と、魔王らしく不遜に笑ってみせた。


「心配などせんさ。お前は誰にも不可能と言われた魔王の撃破を、世界でただ一人成し遂げた女だぞ。俺が生涯で唯一惚れた奴がそう簡単にくたばるなどと、思ってはいない」


「あら、ありがとう。そうね、私がいないとあなた、ご飯の一つもまともに作れないし。頑張って長生きしないとね」


「いや、料理くらい作れるぞ、何を言っている」


「適当に魔物を丸焼きにしたものを料理とは認めません」


 軽口を叩き合い、共に笑顔を浮かべるディアルとフィアナ。

 じっと見つめ合った二人は、やがてその距離を徐々に近づけていき――


「お楽しみのところ申し訳ありませんが」


「ぬおおおおお!? ナナツ、お前まだいたのか!?」


 突然現れたメイドに驚き、両者すぐさま距離を取る。

 遊び疲れて二人が戻った時にはどこにもいなかったので、気を利かせて離れたのかと思っていたのだが、またしれっと隠れていたらしい。

 バクバクと高鳴る心臓を抑える二人だったが、ナナツはそれにはお構いなしで用件を伝える。


「そんなことより、お嬢様方がどこにも見当たらないのです」


「……は? 何を言っている、二人ならちゃんとそこで……」


 遊んでいるだろう、と言いながら振り返ったディアルは、幼い娘達が忽然と姿を消している現実を認識するのに、しばしの時間を要した。

 それはフィアナも同じようで、目を見開いたまま硬直している。


「いやあ、魔王様や先日のひったくりをボコボコにして瞳を輝かせるお嬢様方の映像を編集している間に見失うなど、このナナツ、一生の不覚。やはり子供というのは、時に予想だにしない行動を取るものですね。だからこそ愛らしいのですが」


「言ってる場合かぁぁぁぁ!! 急いで探せぇぇぇぇ!!」


「ジャミィーー!! ポメラーー!! どこにいるのーーーー!? いたら返事しなさーーーーい!!」


 頭を抱えて指示を飛ばすディアルと、必死に娘達へ呼びかけるフィアナ。しかし、ジャミィもポメラも全く見つからない。


 そう、子供はほんの少し目を離しただけで、簡単に迷子になる生き物なのである!!

パパは娘のやられ役、これ全宇宙の法則。


感想評価お待ちしてま~す(*゜∀゜人゜∀゜*)♪

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