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第二話 “とうぞくだん”をやっつけろ!

二話目です。次の相手は盗賊団です!!

「いーやーだーーーー!!」


 セバスが諸々の事情で寝込んでしまってから一週間後。魔王城の執務室に、甲高い幼女の叫びが響き渡る。

 頭が割れそうなほどの声量にぐわんぐわんとめまいを覚えつつも、ディアルはその発生源たるジャミィに向け、必死に言葉を重ねていく。


「す、すまんジャミィ! この埋め合わせは必ずする、だからどうか泣き止んで……」


「いやだいやだー!! パパのうそつきー!! きょうはみんなでピクニックってやくそくしたのにー!!」


 しかし、床で転げまわる娘には、その程度の言葉は何の効果ももたらさなかった。


 そう、本来なら今日は、家族四人水入らずで、どこかにピクニックに行こうと計画していたのだ。

 それが今になって、突然の予定変更である。心から楽しみにしていたジャミィが泣くのも仕方ない。


 とはいえ、ディアルとしてもやむにやまれぬ事情があるのだ。


「そ、それはだな……! 王都の方で厄介な盗賊団が現れて、人族の者達がとても困っていてな? ママはどうしてもそちらの対処に行かなければならなくなって……パパもその応援に行くことになったんだ、分かってくれ」


「いーやーだーー!!」


 じたばたと暴れ回るジャミィの拳や足が床を砕き、執務室を徐々に破壊していく。このままでは、執務室どころか魔王城ごと崩壊させてしまいそうだ。

 もちろん、魔族最強の王たるディアルであれば、幼い娘の一人や二人、取り押さえることなど容易ではある。

 だが、子供達は何も悪くないこの状況、果たして無理矢理押さえつけるような真似が親として許されるのだろうか?


 当然、否である!


「ぽ、ポメラ! お前は分かってくれるよな!?」


 追い詰められたディアルは、ジャミィと違って泣き叫ぶこともなくただ静かに佇む妹のポメラへと救いを求める。

 中々に情けない話だが、娘を泣かせてしまった父親など大体こんなものだ。


「……きらい」


「えっ?」


「パパなんて……だいっきらい!!」


 そして、ある意味当然と言うべきか……静かなだけで、ポメラも大概怒っていた。

 いやむしろ、ジャミィのように分かりやすい発散のさせ方をしない分、ポメラの内心は戦略級火炎魔法の如く煮えたぎっていたのだ!!


「うわーーーーん!!」


「あ、まってよポメラ! むうぅ、パパのばーか!! あーほ!! もうくちきいてあげないからーー!!」


 双子の妹の不満が爆発したことで、逆に冷静になって泣き止んだジャミィは、最後にそう捨てゼリフを残して走り去ったポメラの後を追う。

 残されたディアルは、よろよろとその場に膝を突き、この世の終わりを見たかのように絶望した表情で呟いた。


「嫌いって……娘に嫌いって言われた……しかも口利かないって……そんな……そんな……」


 魔王ディアル。かつて勇者だったフィアナとの激闘の最中、幾度死にかけようと不敵な笑みを絶やすことなく戦場に立ち続けたとされる彼の心を初めてへし折ったのは、幼い二人の娘達の、ありきたりな怒りの言葉なのであった。





「ぐすん」


「ポメラ、げんきだして?」


 執務室を飛び出した後、ポメラとジャミィの二人はとぼとぼと廊下を歩いていた。

 もちろん、彼女達も両親が忙しいことは分かっている。

 だが、分かっているからと言って、楽しみにしていたピクニックの予定が消えた悲しみを抑え込めるわけではない。二人はまだ幼い子供なのだから。


「うん……げんきだす。それでジャミィ、これからどうする?」


「どうするって、きまってるでしょ?」


 そして、幼い子供だからこそ、立ち直るのも早く……涙を拭ったポメラに向かって、ジャミィは高らかに宣言した。


「わたしたちで、わるい“とうぞくだん”をみんなやっつけるわよ!!」


 ババン!! と効果音が付きそうなほど堂々と、地平線の彼方に(多分)いる盗賊団を指し示す。


 君たち、やっつけるも何も、盗賊団のこと何も知らないでしょ? と、少しでも頭が回る大人がいれば指摘したことだろうが……悲しいかな、ここにいるのは幼い双子と、次元の狭間から幼女を盗撮するロリコン変態メイドのみである。常識的な大人などどこにもいなかった。


「なるほど! わるいやつがいなくなれば、パパたちのおしごともなくなって、ピクニックにもいけるものね!」


「そうよポメラ、そうときまれば、さっそく“とうぞくだん”のところにいくわよっ!」


「おー!」


 ジャミィが背中から翼を生やし、ポメラは飛行魔法を発動し、それぞれの手段で宙に浮かぶと、そのまま城の外へと飛び立っていく。


 重ねて言うが、二人は盗賊団の名前も、所属人数や規模も、その居場所さえも全く知らない。

 一体どこへ向かおうというのか、それは本人たちすら知らないことである。


「さて、お嬢様達が慰め合う可愛らしい映像もバッチリと魔導カメラに撮り終えましたし、そろそろ追いかけましょうか。迷子になられても困りますし」


 そんな彼女達を見送った後、空間を裂いてにょっきりと姿を現したメイド、ナナツ。

 キリッとした、如何にも出来るメイドですよと言わんばかりの表情で呟く彼女だったが、その鼻から垂れる血のせいで不審者にしか見えないのであった。


 というか、働け。






「それでジャミィ、“とうぞくだん”ってどこにいるかわかってるの?」


「んー、わかんない! どうしよう?」


 二人仲良く手を繋いで空を飛ぶジャミィとポメラは、城から飛び立つこと十数分、ようやく自分達がどことも知れない場所に向かっていることを認識した。


 しかし、そこは最強の魔王と勇者を両親に持つハイパースペック幼女達。この程度のことで慌てたりはしないのだ!


「ふふ、そうだろうとおもって、わたしが“とうぞくだん”のいるばしょをかんがえておいたわ!」


「えぇ!? ポメラすごい! どこ? どこにいるの?」


「ふふふ……いい、ジャミィ? “はんにん”はね、かならず“はんこうげんば”にもどってくるものなのよ。このまえ、“えんげき”でみたわ」


「ほえ~、そうなんだ。ということは……?」


「そう……“とうぞくだん”はいま、じぶんたちがわるいことをした“おうと”にいるわ!!」


 ババン!! と堂々たる推理を披露するポメラ。

 そもそも、正確な犯行現場は“王都”ではなく“王都近郊”な上、ポメラが見た演劇はあくまで「殺人事件の犯人が、証拠隠滅のために戻って来た」だけだったりするのだが、まだ七歳の幼女に筋道を立てた推理など出来るはずもないので、こうなるのも致し方ない。


 結果、いつの間にやら「警備が厳重な王都の町中で堂々と盗みを働いた盗賊団が、今も呑気に王都に滞在している」という、客観的に見ればあまりにも無理があり過ぎる予測が組み上がってしまっていたのだ!


「おおっ、さすがポメラ! かしこい!」


「えっへん!!」


 しかし、そんなハチャメチャな推理を聞く方も同い年の幼女なので、前提や根拠が色々とおかしいことに気付けない。妹の優秀さ(?)をはやし立て、我が事のように喜んでいる。

 褒められたことでポメラもまた益々調子に乗り、もはや自分の考えが間違っていることなど想像だにしない。


 思い込みの激しい双子の姉妹は、そのままノンストップで空を飛び、遥か遠く離れた王都まであっさりと到着してしまった!


「さて、“とうぞくだん”はどこかなー?」


「かくれんぼならまけないわよー!」


 盗賊団は果たしてこの町のどこにいるのか(いない)、何ならここに来ているはずのママにも会えないだろうかと(目的の盗賊団がいないのだからいるはずがない)、上空からきょろきょろ町中を見渡す姉妹達。

 すると、幼女が持つには無駄に高性能なモノクル型魔道具をフル稼働させていたポメラが、偶然にもあるモノを目撃した。


「おらっ、寄越せ!!」


「きゃーーーー!! ひったくりよーーーー!!」


 少し羽振りの良い服装をした女性から、手荷物を奪い取る男が一人。

 ひったくりなど、こうした大きな町であれば多かれ少なかれ現れる、極々ありふれた犯罪ではあるのだが、犯罪は犯罪。そして、ひったくりとは要するに、窃盗にあたる行為である。


 つまり、


「あ、いたわ! “とうぞく”よ!!」


 上空から見ていたポメラには、そういう風に映ってしまうのである!!


「よし、なぐり(はなし)あいのじかんだー!」


 不穏な言葉を叫びつつ、二人仲良く急降下。

 目指す先はもちろん、大急ぎで逃走するひったくりの目の前である。


「へへへっ、誰が捕まるかってんだ。この鞄を売るだけでも相当な値がつく、中身も合わせりゃ、どれだけになるか想像もつかねえぇぇぇぇ!?!?」


 突如目の前に降り注いだ二人の幼女は、着地の衝撃で石畳を破壊し、盛大な土埃を上げながらひったくり犯をすっ転ばせる。

 一体何が起きたのか、全く理解が及ばず、ひったくり犯も周囲の野次馬も、誰も彼もが呆然と口を開けて固まってしまう。


 そんな空気を引き裂いて、元気いっぱい双子の姉妹が、びしりとポーズを決めながら土埃の中から現れた。


「ふふふ、かんねんしなさい、"とうぞくだん"! あなたのこれまでのあくじ、ぜ~んぶ、しらべはついてるんだから!」


「おとなしく"こーふく"しなさい、じゃなきゃ、パパとママにかわってわたしたちが"おしおき"よ!」


 どこで覚えたのか、舌ったらずな口調で妙に芝居がかった口上を垂れる幼女達。


 いやいや、盗賊団も何も、俺に仲間なんて一人もいませんが!? ソロのしがないひったくりですが!? それにこれまでの悪事も何も、やったの今回が初めてなんですけど!?


 幼女が空から降ってくるという怪現象も相まって、混乱の極みへと至るひったくりの男。数多の言い訳(?)が内心に渦巻くが、一言たりとも口から出て来ない。

 しかし、何がなんだかよく分からないが、このままでは自分がよく分からない罪で捕まってしまうことだけは何となく理解した。理解してしまった。


 結果、男は無謀にも、隠し持っていたナイフを取り出し、見た目には弱そうなポメラへと襲い掛かったのである!!


「へへっ、よくわからねえが、俺だってこんなところで捕まるわけにはいかねえ! 死ね!」


 人質ではなく、あくまで殺そうとナイフを突き出したのは、彼の防衛本能が目の前の幼女をただものではないと感じ取っていたからかもしれない。突然の凶行に、周囲からは悲鳴が響く。


 だが、彼の本能は判断を誤った。

 生き残りたければ、プライドも何も捨てて誠心誠意土下座すべきだったのだ!!


「あら、こんなおもちゃまでもってるなんて、あなたもわたしたちとなぐり(はなし)あいがしたいの?」


「へ?」


 男が繰り出したナイフは、確かにポメラの幼い顔に当たった……が、皮膚の一枚たりとも傷付けることは出来ず、まるで硬い鉄板にぶち当たったかのように弾かれてしまう。


 そう、繰り返すが、この双子は世界最強の魔王と勇者を両親に持ち、その強大な力を受け継いでいる。

 そのため、体内に宿す膨大な魔力が無意識の内に垂れ流され、全身をさながら鎧のように包み込んでいるのだ。


 そんな強固な防壁を突破してこの二人を傷付けたければ、国宝級の魔剣でも持ち出さなければ不可能。すなわち、そこら辺で買える鉄のナイフなど、彼女達にとってはペーパーナイフも同然の玩具でしかないのである!!


「じゃあ、つぎはわたしたちのばんね!」


「いくわよー!」


「えっ、いや、ちょっと待っ……!?」


「「おしおきぱーんち!!」」


「ぎゃあぁぁぁぁぁ!?!?」


 そんな化け物染みた力を誇る二人の合体攻撃(ただ同時に殴っただけ)が、容赦なくひったくり犯に叩き付けられる!!

 魔法の一つも使えない一般人など、本来であれば二人の拳を受ければ肉片すら残らない……が、男の体はなぜかスプラッタなことにはならず、ボールのように跳ね回っては近くの屋台を粉砕して、ようやくその動きを止めた。


 自分がなぜ生きているのか、全く理解が及ばないひったくり犯だが、当然それにも理由がある。


 二人が繰り出した《おしおきぱーんち》、またの名を《秘拳・峰打ち》と呼ばれるこの技は、元々は彼女達の母親であるフィアナが開発したものだ。

 直撃の瞬間に膨大な魔力を爆発させることで、敵の体質や魔法防御を容赦なく破壊しつつも、敵の体には強化魔法と回復魔法を同時に作用させて必要以上のダメージを与えないという、暴徒鎮圧を目的として編み出された高等魔法である。


 なぜ、そんな魔法を二人が使ったのか。それはもちろん、双子の心優しい性格ゆえに……というわけではなかった!


 そう、この魔法、家ではいつもフィアナがディアル相手に容赦なく連発しているのである!!


 些細な喧嘩が起こる度、「ま、待て、話せば分かる! 話し合おう! な!?」「ええ、だから今話し合ってるじゃない。拳で……ね?」などというやり取りを目にして来た幼女二人。彼女達の頭の中には既に、話し合い=殴り合いという図式が完成し、今この時もそれを実践しているに過ぎない。


 そう、子供とは、親の言動を見て成長する生き物なのである!!


 そして、親のやることが悪いことだなどと全く考えず、更にはTPOなどというややこしい概念は理解出来ないお年頃。

 魔王だからこそ耐えられるフルボッコを、遠慮容赦なく軽犯罪者に向けて行使しようとしていた!!


「うん、まだうごけるよね?」


「さあ、もっといっぱいはなしあいましょ?」


「ま、待ってくれ、降参、降参する! だから命だけは……!!」


「もう、ころしたりなんてしないよっ!」


「そうよ、わたしたちはただ、きちんとはんせいするまで"おしおき"してるだけだもの。ねー?」


「ねー! というわけで、ほら、もういっぱつ!」


「ちょっ、待っ……あ、アッーーーー!?!?」


 痛みはさほどでもないのに、なぜか走馬灯だけは何度も見せられる摩訶不思議な体験を繰り返し、体以前にメンタルをボッキボキにへし折られる哀れな男。

 ひったくり程度なら多少はお目こぼしされるだろうと、軽い気持ちで犯行に及んでしまった彼の不幸は、たった一つ。


 よりによって、最強姉妹の機嫌が極限まで悪い今日この日を選んで、ひったくりを決行してしまったことである!!




 その後、どこからともなく現れたメイドによって助け出されたひったくり犯は、幼女を見ると恐怖で震え上がるほどのトラウマを植え付けられたことと引き換えに、少々過剰なほどに品行方正な人間へと生まれ変わり。


 ついでに、姉妹が暴れまわったことで破壊された町の修繕やら謝罪やらで、盗賊団の討伐から帰った両親が休む間もなくあちこち駆けずり回り、ペコペコと頭を下げるハメになるのだが……それはまた、別の話である。







「ところでナナツ?」


「はい、何でしょうかフィアナ様」


「あなた、娘達が暴れている間、何をしていたの?」


「お嬢様方のサディスティックぶりに興奮……じゃなかった、その雄姿を克明に記録してご報告すべく、魔導カメラで撮影しておりましたが?」


「そう、分かったわ。とりあえず、あなたこれからお仕置きね?」


「えっ」

盗賊団が相手だと言ったな? あれは嘘だ(幼女達にとっては本当)。

リアル幼女も偶に謎の行動力発揮して迷子になるのでみなさん気を付けて見守りましょう。


合言葉は、Yesロリータ、Noタッチ!!

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[一言] 幼女を盗撮するロリコン変態メイドをお仕置きすると聞いて
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