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第一話 “わるもの”をやっつけろ!

ノリと勢いと趣味を全開にして書いた。後悔はしていないッ!!


 魔王と勇者――

 魔族、そして人族を代表する最強の二人は、戦場で幾度となく熾烈な争いを繰り広げ、やがて恋に落ちた。

 最強の二人が結ばれたことで、両陣営は共に剣を置き、ついに数百年の長きに渡って続いた"人魔大戦"は終結の時を見る。


 それから七年、魔王ディアルと勇者フィアナの二人には、愛らしい双子の娘が生まれていた。

 両親が作り上げた平和な世界の中、仲良し姉妹は今日もすくすくと成長し、穏やかな毎日を――


「なんでよぉぉぉぉ!!」


 ――送ってはいなかった。

 幼い子供の癇癪と共に、魔王城の一角に用意された子供部屋の壁があっさりと吹き飛ぶ。

 親バカな両親の意向によって、ドラゴンが体当たりをしてもびくともしないという無駄な頑丈さを与えられた部屋なのだが、現状では全く逆の意味で無駄な頑丈さと化してしまっている。


 そんな、ドラゴンを軽く越える怪力をあっさりと発揮したのは、長女のジャミィ。父の血を色濃く受け継いだ結果、頭からは捻れた角、お尻からは可愛らしい尻尾が生えた魔族の少女である。

 太陽のように輝く金色の髪を掻き乱しながら、ジャミィは己の不満を雲ひとつない青空へと叫ぶ!


「なんでパパもママもいっしょにあそんでくれないのー!?」


「パパもママもいそがしいんだもの、しょうがないじゃない」


 そんなジャミィを宥めるように声をかけるのは、次女のポメラ。

 母の血を色濃く受け継いだ結果、夜空のように澄み渡る黒髪と、人外染みた魔法の才能を持つに至った人族の少女である。

 片目にはモノクルをかけているが、これは単に「頭が良さそうに見えてかっこいいから」という理由で、昨年迎えた六歳の誕生日に父から与えられたものだ。

 【鑑定】の魔道具となっていて、これ一つで王都の一等地に屋敷を建てられるお値段だったりするが……当然、幼いポメラはそんなことは知らず、単なるファッションアイテム兼おもちゃとして使っている。怖い。


「なら、ポメラはこのままでいいの!?」


 ぷんすかと頬を膨らませながら、ジャミィは双子の妹へと詰め寄る。

 しかし、両親に構って貰えず不満を抱えているのはポメラとて同じ。心外だとばかりに読んでいた本を置いて立ち上がった。


「よくないわ。だからね、ジャミィ。わたしたちはパパとママをいそがしくする"げんいん"をどうにかしなきゃならないの」


「げんいん?」


「そう、パパもママも、いまは"ひとぞく"と"まぞく"をなかよしにするためにがんばってるでしょ? だからね……」


 くいっと、特に意味もなくモノクルを持ち上げ、きりっとした表情を向ける。

 特に意味もない間を取って、ノリの良いジャミィがごくりと生唾を飲み込んだところで、ポメラは満を持してその考えを披露した!


「パパとママをじゃまする"わるもの"を、わたしたちでみんなやっつけちゃえばいいのよ!! せかいが"へいわ"になって、ふたりのおしごとがなくなれば、きっとわたしたちとあそんでくれるわ!!」


「なるほど! さっすがポメラ、かしこい!」


「えっへん!」


 ドヤ顔のポメラを、ジャミィがさも賢者であるかのように褒め称える。


 そう、考えてみれば当然のことなのだ。

 人族と魔族が仲良くなるなどという()()()()()()()がいつまで経っても出来ないのは、きっと"わるもの"が裏で悪さをしているからに違いない。いや、そうに決まっている!

 ならば、偉大なる魔王と勇者の娘として、自分達こそがその"わるもの"を成敗しなければならないのだ!!


「そうときまれば、さっそく"わるもの"のところにいくわよっ! でもポメラ、"わるもの"ってどこにいるの?」


 成敗するのはいいが、肝心の悪者がどこにいるか分からなければどうしようもない。

 そんな姉の真っ当な疑問に、妹のポメラはふふんと得意気に鼻を鳴らした。


「ジャミィ、すぐちかくにいるでしょ? パパをいつもこまらせてる"わるもの"が……!」


「そっか、あのひとね! わかった!」


 誰のことを言っているのかすぐに察し、ジャミィはポメラの手を引いて部屋を飛び出していく。

 魔王城の廊下を突っ走ることしばし、目的の人物を見付けたジャミィは大声で叫んだ。


「あっ、いた! "だいじん"のセバスよ!」


「おや、これはお嬢様方、このようなところでいかがしましたかな?」


 ポメラにびしっと指差されたのは、仕立の良い執事服に身を包んだ人族の男。現在、この魔王城にて魔王ディアルの秘書を務めている人物だ。

 かつては勇者フィアナの師匠を務めていたこともある彼は、その娘である双子を自分の姪のように可愛がっている。

 最近気になり始めた髪の生え際を気持ち整えつつ、二人を出迎えようと笑顔を浮かべるセバス。しかし、どうにも様子がおかしいことにすぐ気が付いた。


「パパにいつもおしごとをもってきてこまらせる"わるもの"だー!!」


「……ん?」


 はて、誰が悪者なのだろうかと、ジャミィの言葉の意味を図りかね、一瞬の現実逃避に浸るセバス。

 そんな彼の前で、ジャミィが拳を握り締め、ポメラの掌にボッ! と魔法の炎が灯った!


「「やっつけろーー!!」」


「ちょっ、えぇぇぇぇ!?」


 突然襲い掛かってきた幼女二人を見るや、すぐさま反転して逃げ出すセバスの背後で、床が爆散して破片が飛び散る。

 とんでもないパワーに冷や汗を流しながら逃げ惑う彼を、幼女達は容赦なく追い立てていく。


「お、お待ちくださいお嬢様方! 何やら誤解があるようですが、私は決して魔王様に意地悪がしたくて仕事を持ち込んでいるわけではございません! 魔王様がすべき仕事を取り纏め、運び込むのが私の仕事なだけでございます!」


 必死に叫ぶセバスの言葉は、実に正論である。誰も文句など言えるはずがない。

 しかし、相手はまだ七歳の幼い子供達、残念ながら正論にはなびかなかった!


「でも、パパがいつもいってたもの! 『あー、セバスのやろう、いっつもこんなにしごとばっかもってきやがってー、ぜったいおれにうらみがあってわざとやってるぞあいつー、まじくそだわー』って!」


 そう、子供達にとって、パパの言うことは正義。パパが悪口を言う相手なのだから、悪いやつに決まっているのである!!


「あんのバカ野郎ぉぉぉぉ!! 自分の娘になんて愚痴を聞かせてやがるぅぅぅぅ!?」


 もはや恥も外聞も捨て、素の態度で叫びながらとにかく逃げる。

 一応、彼とて大戦の折には魔族達と血みどろの争いを繰り広げた猛者だ。ただスペックが高いだけの幼女二人を取り押さえるくらい、やろうと思えば出来るのだが……色々と方向性を間違っているとはいえ、親への善意100%で襲ってくる可愛い幼女達を、力ずくで黙らせることが出来ようか?


 答えは、否である!!


「こらっ、にげるなー!!」


「ひぃぃ!?」


 真横で炸裂したジャミィの拳の威力に慄きながら、セバスはごろごろと転がって回避する。

 このまま逃げて一気に振り切ろうかと考えるが、それはそれで子供達が可哀想だとすぐに思いとどまる。

 何せ、セバスを追う二人の幼女は、眩しいくらいにその瞳をキラッキラと輝かせていたのである!!


(魔王様も、フィアナ様も、最近はお忙しいからな……きっと寂しかったのだろう)


 幼女達の突然の奇行、その動機をセバスはほぼ完璧に読み取った。読み取ってしまった。

 故に、セバスは反撃も出来ず、完全に逃げ切ることも出来ないという圧倒的な縛りプレイの中、一撃でも貰えば割と洒落にならない攻撃を、彼女達が飽きるまで避け続けるという苦行に挑まなければならなくなったのだ!!


「これ、後で臨時ボーナスふんだくりますからね魔王様ぁぁぁぁ!!」


「「まてーー!!」」


 悲痛な叫び声と共に走り抜けるセバスだったが、彼は失念していた。

 自分が既に中年と呼ばれる年頃で、体力が衰え始めているということを。

 そして何より……遊びに集中している時の幼い子供は、アスリートもびっくりなほど無尽蔵の体力を誇るのだということを!!






「……ということでして」


「なるほど、セバスがいつまで経っても来ないと思ったら、そんなことになっていたのか……後で詫びのボーナスと……質の良い育毛剤でも贈ってやるか」


 魔王城執務室にて、自らに仕えるメイドの報告を聞いた魔王ディアルは、どうしたものかと目の前に立つ娘達を見た。

 数時間に渡って追い回され、"ちょっとばかり"怪我をして寝込んでしまったセバスの苦労を思えば、父親としては叱ってやるべきなのかもしれない。


 しかし……キラキラと、それはもう全身から褒めて褒めてと期待するオーラを放つ娘達を前にして、それが出来るだろうか?


 いやそもそも、あくまでこの子達は父親である自分を想ってやってくれたのだ。下手に叱りつけ、その優しい心さえも失わせたくはない。


(俺は、俺はどうすればいい……!?)


 魔族最高と唄われた彼の頭脳が、最適な答えを求めてめまぐるしく回転を始める!

 その優しさを褒め称えつつ、やり過ぎたことを反省させる見事な言葉とは――!?


「……うん、ジャミィ、ポメラ、パパのために戦ってくれたのは嬉しいぞ。ただな、うん……次からは、最初に話し合いから入るようにしような?」


 結局、捻り出されたのはそんな凡庸極まりない、どこかご機嫌を窺うような軽い注意の言葉だけだった。

 ヘタレと罵るなかれ、娘を前にした世の父親など、こんなものである。


 パパは、愛する娘にだけは嫌われたくないのだ!!


「はーい!」


「わかったわ、つぎはなぐり(はなし)あいからはじめることにするわね!」


「そうか、分かってくれたか」


 にこにこと元気いっぱいに返事をする娘達を見て、ディアルは己の成功を確信した。

 なんだか話し合いという言葉から不穏な気配がしたが、きっと気のせいだろう。


「もう行っていいぞ。来週には時間も出来るから、その時は家族でピクニックに行こう」


「やった!」


「パパ、だいすき!」


 そう言って仲良く部屋を後にする姉妹の姿を、それはもうだらしなく鼻の下を伸ばしながら見送るディアル。

 こほん、という咳払いを聞いて気を取り直した彼は、(既に手遅れだが)魔王としての威厳ある態度で音の発生源である自らのメイドへ向き直る。


「ナナツ、悪いがこれからしばらく、あの子達を見ておいてやってくれないか? こんなことがあったばかりだし、何をするか不安でな」


「ご心配なく。私は以前からずっとお嬢様方しか見ておりませんから」


「そうか、ならば安心……ん?」


 このメイド、一応俺の専属という扱いじゃなかったか?

 そんな疑問が頭を過るが、まあさほど気にすることでもないだろう。


「では、頼んだぞナナツ」


「承知しました。……これで合法的にお嬢様達を盗さt……じゃなかった、見守れますね、ぐふふ」


 一礼し、得意の魔法でどこかへと転移していくナナツ。

 何やら不穏な単語が聞こえた気がしたが……まあ、流石に手を出すことはないだろう。多分。


「……一応、他の幹部連中にも気を付けるように言っておくか。やれやれ、何事も無ければいいんだが」


 釘は刺しておいたし、何事も起こらないとは思うが、念のため。

 そう考え、知己の者達に連絡を取るディアルだったが……彼はまだ知らなかった。


 自分の何気ない発言と采配によって、まさか自分や仲間達の胃の耐久性が極限まで試される事態になろうとは……。








 その頃。


「おおっ、ボーナスですか、魔王様も偶には気が利く……えっ、育毛剤……? えっ、私は既に、傍から見ても気になるほどに髪が薄い、と? ……ぐすん」

良い子のみんなは気にしている人に直接そういうのあげちゃダメだぞ!

帰ったら隠してあったはずのエ□本が机の上に綺麗に並んで置いてあった時くらいのダメージを受けてしまうぞ!!(多分)



それでは、感想評価お待ちしてまーす!(≧▽≦)

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