すぱいす
スターク城下町。
豊富な資源を誇るスターク王都の文化の中心地、ここでは日々目新しいものが生み出されては淘汰されていく。
城下町中央に位置する噴水広場から東西南北4つのメインストリートが十字に貫きそれらの間を張り巡らせるように小道が接続されている。
最初に訪れたのは北東の方向、主に魔法の込められた道具である魔道具が多く取り扱われている地区。
二件の珍しい魔道具を扱う店を探ってみたが、目当てのものはなかった。
探しているのは魂を宿した武器や防具、道具。情報屋として集めた情報にはそんなものはなく、店主に尋ねてもけげんな顔をされただけ。
当たり前と言えば当たり前、魂を知覚できる人間自体聞いたこともない。まぁ想定内の結果ではある。
「見てください、南方のアウェイクォーターで採れたスパイスです! とっても辛いんですけど香りが良くて癖になるんですよねー。店主さんこれを一袋ください!」
「そんな値段も見ないで大丈夫かよ? どれどれ......って10万円!? 両手に乗る程度の量だぞ! ......もしかしてモモナって金持ちなのか?」
「辺境ですが領主の一族なのでそれなりにはあると思います。まぁ今は騎士団のお給料でやり取りしてるのであまり関係ないですけど。むむ、確かに買ってしまったら給料の大半が無くなってしまいます......今回は諦めるしかないですね......」
残念そうに肩を落とすモモナ。
店内には様々なスパイスの匂いが漂い、混ざり合い独特の雰囲気を醸しだしている。
ここは城下町南方の調味料や保存食を扱う店。
俺の用事ばかりに付き合わせては悪いと思い、行きたいところを聞いた結果訪れた店だ。
棚には塩やコショウなど元居た世界に一般的に流通していた調味料から、見たこともない物まで所せましと並んでいる。
例えばいくつか挙げるなら、感覚に作用する香りを持つ催眠効果を調味料や、魔力を回復させる保存食が異世界特有で興味深い。
なんでも『汎用魔粒子』なる自然界の魔力を元にした粒子を使って効果を持たせているようだが、魔力を持たない身ではイマイチ原理を掴みづらいな。
「店主これ半分だけ貰えるか?」
「おお、レオじゃないか! 半分、か。普通の客なら絶対断る所だけど......いいだろう、お前には世話になったし半分を半分の値段で持ってきな!」
「ホントか! じゃあこれで......よし、ほらモモナ」
「え? 私に、ですか?」
片手に乗っかる程度のスパイスが入った袋をモモナは思わずといった感じで手に取り、あとから驚く。
もちろん彼女を喜べば代金はいらないって訳じゃない。
国内で強い影響力を持つ王国騎士と繋がりを持っておけば後々役に立つ可能性がある。
本当はアルコスにコネを作れればいいのだが曲がりなりにも騎士団長だと暇は少ないらしい。
その点モモナは新人ではあるが、その強さは確かで出世の見込みがある、好都合だ。
「代わりに話を聞きたいと思っていてな、これは代金だ」
「話......もしかしてこの刀についてです?」
「ああ、この辺では見ないタイプの剣、どこで手に入れたんだ?」
「これは譲り受けたんです......たぶん」
「たぶん?」
彼女は頭に手を当て思い返すように目を閉じた。
「その時の記憶がなんだか靄がかかったようにボンヤリしていて、そんなに前の事じゃないはずなんですけど......あと覚えているのは『いずれ時が来る』ってその時耳にした覚えがあることくらいなんです」
「ふむ? じゃあ戦闘用でもないってことか」
「いえ、手ほどきを受けたので多少は使えます! どうやらリザという騎士団員さんの故郷にも同じ武器があるらしくて。『きっと有意義だ』って初歩を教わったんです、けど今は王城の方に行ってて騎士団に居ないんですよねー」
騎士団のリザ、刀を知っている事といい、たぶん彼女だ。
来歴不明の刀、魂を切る性質を見るに神の恩恵、現代人の持ち物の可能性はある。しかし手放す理由も『いずれ時が来る』って言葉も謎。
今は考えても無駄だな。
「ともかく今はモモナの所有物ってことか、それなら......」
「レオさん! あの!」
意を決したような声色でモモナは言葉を遮る。
まるで愛の告白でもするかのような長い間。
「どうした? 何か思い出したか?」
「えっと、違います! 実はお願いがあって......」
「何を伝えたいか分からんが、言いたいことがあるなら遠慮するな、なんでも聞いてくれ」
「それなら......よし......実は__!?」
「......悲鳴だな、それもかなり近い」
彼女は言葉より先に行動していた。
後を追いかけて店を出ると、はるか遠方の中央の噴水広場の手前で人々の注目を浴びていた。
それもそのはず数100mはあろう距離を数回の跳躍で駆け抜けたんだ皆一様に目を奪われる。
と、思ったが俺が広場につくと、その衆目の半数は別の箇所に集まっていることに気が付く。
「なんだアンタら!? 野次馬したいのは分かるけどよ、焦りすぎだろう!」
「悪い悪い、おっと、俺はこういう者だヨロシク」
「なんだ? 名刺か? ってやってる場合か! ほら、あれを見ろ」
「あれは女か、妙に顔色が悪いな」
「タダの人ならこんなに騒がねぇさ! 顔色が悪いのもそうだがアイツ妙に冷たい空気と変な臭いを纏ってやがる、急に現れた事といい魔物が擬態してるんじゃねぇかって話だ。うう寒い」
「言う割にのんきだな」
男が言うように取り囲まれた女は背丈や服装は普通だが目がうつろで生気が感じられない。
誰も助けに入らないのは野次馬したいが触れるのは恐ろしい、といった心理だろう。
「どうやら遅れてしまったみたいですね、レオさん加勢しましょう!」
モモナの言葉で視線を戻すと反対から帯剣した男が人混みをかき分けて剣を構えた様子が見える。
それに呼応するように民衆は少し後退して俺とモモナが相対的に取り残された。
「モモナさん! 加勢感謝します。むっ、そちらの方は?」
「こちらはレオさん、私の命の恩人です!」
「そんなにジロジロ見るなよ、照れるだろ」
「......モモナさんの言葉を疑いたくないのですが、本当ですか?」
「本当だ! 騎士団員なら森での報告くらい聞いてるだろ? ......おっと後ろ危ないぞ」
先ほどまで動きを止めていた女は敵意に反応したのか黒髪の騎士の背に拳を振りかぶった。
俺は黒髪の騎士を回り込み女の前に出て、振り下ろした腕を軽く掴み地面にぶつけ逸らすように受け流す。
しかし女は受け身で地をけり距離をとった。有効打ならず。
「速い、それに硬いな」
「ほぉ......話は本当だったみたい様で。強い、いや巧いようですね」
「評価ありがとさん、油断するなよ新米騎士のお二人さん、少し肩の力を抜け」
「はい!」
元気よく返事するモモナに対して黒髪の騎士は『そんなことわかってる』という顔をしている。
緊張で力が入っている所を見るに新米に見えたが、違ったか?
にしてもあの女、速いのはいいとして、硬さが気になる。あの硬さは魔力障壁と同じ位に感じたが障壁というには体表に近すぎる。
フィートから得た情報によれば障壁は体から数センチ浮いた位置に張られて、人により多少の差がある。
そして当然のことだが体から距離が空くほど衝撃が逃がされダメージが和らぐ。もしアレが本当に障壁だとするなら硬度は高いが脆い鉱石のようだ。
「それとモモナあいつはあの獣と同類だ、刀を貸してもらえるか?」
「刀、あの魔力食らいを使うと!? 本気ですか?」
「あの刀そんな名前で呼ばれてんのか、なるほど俺にピッタリなわけだ」
「持ってるだけで魔力を食べられて放置すると暴れだす。妖剣なんて言われてますね!」
「確かに報告では使用したとありましたが、事実を有耶無耶にするため隠ぺいだとばかり......」
日常にはほんの少しの刺激、スパイスがないと惰性で生きちまう。
しっかし刺激的すぎるのも考えもの、休み休みにオーダーしたいもんだ。




