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ぎもん ほうもん

「......で、浅い方だってのに妙に強い魔物が出てきた。倒して後に残ってたのがコイツだ」

「子犬、いや子狼か。どんな戦い方をするのだろうか、レオ殿?」

「......育てても強くならないぞ。調べたところただの狼の子供だった。戦いたいなら森に行けばいい、きっとまだ他にも居るぞ」

「ダハハハ! バレたか。報告はもう受けてるし、堅苦しいのはもういいだろ! 人命救助に魔物討伐の手助け、やっぱり騎士に向いてるぜ、レオ!」

「俺は情報屋で武闘派でもない。って前にも言ったよな」


 現在地はスターク王国騎士団の応接室。

 あれから一休みして王都に帰った俺と桃色の彼女は、疲れもあったため翌日改めて会おうって話になった。

 で、どこで会うのか約束し忘れた俺は騎士団本部前でウロウロしてたらこの男に捕まった。


 アルコス、この長身で筋肉質な男には以前王都でのひったくり事件で鉢合わせたことがあった。

 その時は私服で気が付かず騎士団長だとは今この場で知った。

 強い奴との戦いを求めているらしく好戦的。俺もターゲッティングされている。


「それよりあの子と少年はどこにいるんだ?」

「あー、食堂辺り......じゃねぇか?」

「コホン......少年はいまだ目を覚ましていないようです。なので二人とも医務室に居ると思われます。団長、お腹がお空きで?」

「昼時だしなぁ、よし飯行くぞ、レイン!」

「あ、待ってください! 警備のローテーション変更の件は今すぐ回答貰わないと困ります!」

「んなもん飯食いながらでも出来るだろ? やっぱ今日は肉だなぁ! 今朝俺が獲ってきたヤツ、まだ残ってんだろ?」

「まったく......レオさん、医務室は分館の方にあります。案内できなくてすみません、ではこれ失礼します」


 慌ただしく出ていく2人。大丈夫かこの騎士団。

 副団長のレインはしっかりしているようだが、アルコスのペースに乗せられている。

 仕事自体はそつなくこなせても、あの団長様は一筋縄じゃいかなそうだ。

 なんでも元の副団長が失踪して急遽着任したばかりらしい。


 元副団長の詳細は分からないが、団員の誰もがあまり触れたがらない点から、ポジティブな理由ではないだろう。

 気を取り直して、教えてもらった通り一旦建物から出て分館に足を進める。


 その道すがら、開けた庭の方から気合の籠った声が聞こえてきた。

 団員同士で訓練か。

 炎や氷の攻撃魔法は見えない。純粋な武術の訓練らしいな。

 眺めていると現代で剣術を習っていた時のことを思い出す。

 うむ......これもポジティブな感情は湧かないから考えないようにしよう。

 いつでもハッピーなことだけ考えるのが一番だ。


 分館に入り受付の人に道を聞くと、奥の部屋へ行くように案内された。

 この建物における医務室はほんのひと区画のみらしく、それ故奥まった場所にある。

 魔力障壁によりケガが少ない世界だから外傷に対する医療施設は少ないのだろう。


「入るぞ」

「どうぞー......あ、レオさん!」


 入室すると彼女が顔を輝かせて迎えてくれる。

 傍らのベッドにはあの少年が眠っていた。


「元気そうでなによりだ」

「これでも騎士ですから! 1に体力2に精神力、あのくらいで寝込んでいては騎士は名乗れません!」

「立派なことだ、やっぱり俺は騎士には向かないな」

「そんなことないです! 他人のために身を盾にできるレオさんは向いてます、絶対!」


 一段とキラキラした目。妙に惹かれるのはなぜだろう。

 どうにも無下に扱いたくない気持ちが湧く。


「それとも他にやりたいことでもあります? レオさん......?」

「ああ、悪い。そうだな......ザックリとだが世界を見て回りたいとは思ってるよ。その後に世界征服、かな」

「いいですねー観光! って......世界征服? 冗談です、よね?」

「ジョーダンさぁ! ......半分は」


 困惑する彼女。本当に冗談か決めつけかねているようだ。


「それは置いといて、少年はまだ目覚めてないのか?」

「......そうなんです、でもケガはないですし、先生が診たところ精神に作用する魔法も受けていないようです。きっと疲れ果てているのでしょう」


 少年は胸を上下させて寝息を立てていて、俺から見ても寝てるだけに見える。

 あの戦いで得た権能、”魂識眼”で見てもしっかりと青い光は安定している。

 魂識眼では人間は青い光で見える。衰弱していると光が弱まるのもあの戦いで確認済みだ。

 反対に強者、ここでいうなら魔力の強い者は一際強い輝きを持つ。アルコスや彼女がそうだ。


「すぅ...すぅ......うーん」

「で、コイツは誰なんだ? ケガ人か?」

「この方が先生です......回復魔法の扱いに長けているんですが『やることがない』と言って、いつもこんな感じですね」


 苦笑いしながら語る彼女の視線の先には先生とやらが寝ていた。

 たしかにこの世界で回復魔法の出番は少ないだろうが、仕事中に寝るとは羨ましい限りだ。


「そうだ! レオさんお腹空いてません? 目が覚めたらこの子に、と料理を作ったんですけど、少々作り過ぎてしまって。よかったらどうぞ!」

「そういえば、今日は何も食べてないな。ありがとう」


 手渡され紙の包みを開けると中には野菜と肉をパンで挟んだ料理、サンドイッチが入っていた。

 試しに一口かぶりついてみる。


「___うまい!」


 たれの類はかかっていないが、肉はよく下味の処理がされていて薄味な印象はない。

 さらに新鮮な葉物野菜がほのかな甘みを醸し出し、軽い食感も相まってさっぱりとした味わいになっている。

 食材も調理も一流のレストランで出されても問題ないレベル。

 専属として雇って毎日でも味わいたいくらいだ。俺の金銭事情的に無理だが。

 ともかく異世界美食ランキングぶっちぎのトップは今日更新された!


「てっきり備蓄された食材を使ってると思っていたが、どれも新鮮だ」

「騎士団の敷地で栽培された野菜を使ってるんです! 数は少ないですけど実家が農家の団員の方が作ったもので、なんでも『戦いも大事だけど、本業はこっち。鈍らせないための手慰みだよ』らしいです!」


 騎士団はスカウトに余念がないらしい。出自不明の俺を勧誘しているんだから相当だ。

 なんでも騎士になれば、所属している間その家族を含めて不自由しない程度の支援を行うらしい。

 そんな条件を出されたら大抵の一族は本人が望まなくとも送りだされるに決まっている。

 

「ご馳走様! 改めて俺はレオだ。シェフ、名前を伺っても?」

「モモナです! えへへ、シェフだなんて......照れます......!」


 モモナは俺の差し出した手を握り返し、俺は感謝を込めて固く握手した。


「フン! そろそろいいかオマエ、レオと言ったか!」

「なんだよコイツ、俺の幻聴とかじゃなかったのかよ」

「誰が幻聴か! それにコイツとはなんだワシはハバキリだ! 名前で呼べ!」


 声の主はモモナの腰にある刀、ハバキリ。

 てっきり極限状態での幻聴かと思ったが、改めて刀の魂を見ると青く輝いている。

 本来、物に魂はないはずだがハバキリにはそれがある。興味深い。


「ハバキリ、単刀直入に聞くがオマエは何者だ? 魂をもっている事といい、あの魔物を倒した力も説明してもらおうか」

「嫌だ。説明する義理はない」

「はぁ?」

「......と言っても話が進まないか。では端的に、ワシは生と死を分かち正常な流れに戻す力を持つ、以上!」

「はぁ」

「それでワシは帰らねばならないあの部屋に! だが、この娘だけでは辿り着く運命ではない!」

「部屋? 運命?」

「そこでレオ、ワシの声が聞こえるオマエに彼女を案内させると決めた!」

「嫌だよ。助ける義理はない」

「義理はあるワシはオマエは助けた」


 一理ある。


「確かに......で、部屋ってのはどこに?」

「詳しくは知らん。本が大量に陳列されていて埃っぽい所だ」

「曖昧だな......まぁいい、それは王都内なんだな?」

「無論、この娘の行動範囲の圏内で間違いない」

「上等、情報屋の本分見せてやるよ」

「ふん」


 それきりハバキリは黙ってしまった。

 相変わらず謎は多いが好奇心が湧いた。魂を断つ刀だ持ち主はきっと異色の知識を持つだろう。

 ハバキリの言う部屋を見つければ真実が明らかになる。そう考えたら居ても立ってもいられない。


「レオさんどうしたんです?」

「悪い少し考え事だ」

「あの......! 今日、実は非番でぇ......」


 モモナは手を擦り合わせて落ち着かない様子で途切れ途切れ話す。


「それは丁度いい! ちょっと買い物と、行きたい場所があるんだ。付き合ってくれないか?」

「え......はい! よろこんで!」


 彼女は嬉しそうな顔を見せ快諾。

 刀の持ち主が付いて来てくれるのは好都合だ。

 それに尋常ではない腕力を持つ彼女には個人的にも興味がある。


「うぅん......はぁ、よく寝たぁ。モモナまだ居たのかい?」


 話し声で目を覚ましたのだろう先生とやらが体を起こす。


「それにキミは......ははーん、モモナと団長殿の言ってたレオくんだな。初めまして、ワタシは先生ことサミダレ、よろしくねー」

「サミダレさんね、よろしく。回復魔法の先生だって聞いたよ、アレコレ話を聞きたい所だが......」

「それはまた今度かな、彼女ソワソワしてるよ。ここは任せて若者はどこへでもに行きなさい、興味の赴くままに、ね」


 サミダレは何かを察したのかウインクして部屋の入口を指した。

 俺とモモナはお言葉に甘えて少年を任せて部屋を後にする。

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