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断章

「どぉーなっている!!! あの男は何だ! せっかくおびき寄せたというのに......」

「相当な実力者......の割には知らない顔。それとうるさい、眠れないって」

「あぁ!? 誰が!」

「木とか草」

「はぁ? ホントに言ってるのか?」

「気がする」

「気がするだけかよ!」


 日が没した暗い森は、激しい戦闘の跡こそ残るが静けさで満ちている。

 しかし二つの声が木々の安眠を妨害する。

 イライラした声の主は言葉こそ荒々しいが物に当たるつもりはない。藪をつついて蛇を出したくないからだ。


「せっかくエリクの使者、利用できたのに、残念」

「この上ないチャンスだったのにな! クソッ!!」


 イライラの限界で蹴り飛ばした石が綺麗な軌道を描いて、はるか遠くの森の奥の木に激突して大穴を開ける。

 すぐさま眠りを妨げられた熊の獣が姿を現す。

 大きさは昼間ここにいた狼の魔物よりやや大きい。


「ヴゥゥ......」

「まったく!ずいぶん綺麗にとんだな、クソッ!」

「下がって」


 淡々とした女は男を手で制すと獣の前に立ち手をかざす。

 意外、男は素直に下がる。

 女は目に赤い光を灯して短く告げた。


「分かて」


 効果は一瞬の後に現れる。

 態度と同じく最小限の動作と言葉を放つと獣は忽然と姿を消した。


「帰ろ」

「ふぁーあ......ああ、もう眠いしな。ミクス、お前もイライラ沈めておけ、怖がられるぞ」


 ミクスとよばれた女は内に秘めた殺気を鎮めると、目に宿る赤い光も消え元のエメラルド色の瞳に戻る。

 だがその胸の奥にある確固たる復讐心は消えない。目的を遂げるその日まで。


「あの子、ちょっと邪魔かもね」

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