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はじまり はじまり!

物語を走らせながら世界観をすこし説明

 世界は往々にして苦難に満ちている。それが俺の前の人生の感想だ。

 不特定多数の幸福を作り、感謝される。そんな未来は確約されていた。

 隣人は『人間は自由』なんてのたまうが、あれは体のいい放任主義だ。見えた未来に自由などあるものか。

 ……だがすべてが苦痛だったわけじゃない。

 長い絶望の中に時折幸福まがいの、想定外の心落ち着ける瞬間があったのだ。


□■□


 軋む木製の扉を今日も開き中に目をやると、すぐに一人の女がこちらに手を振った。

 その手で促されるままカウンターへと歩を進める。現代で言う港の倉庫くらいの部屋には雑に並んだ長テーブルに腰を落ち着けた男たちが語らい、豪快に酒をあおっている。

 時折振りかざされる酒を持った拳に気を払いながら素早く目的地にたどり着く。


「へぇ……慣れたもんじゃないか、レオ」

「毎日来ればそりゃ慣れる……てかここ毎日どんちゃん騒ぎだな」


「そりゃ大きな戦いの前さ、存分に英気を養わなきゃ勝てる戦も勝てないね。アンタはどうするんだい?」

「俺はパスだな、争いは好まないんでね」


「ハッ! 血の気の多いアンタが? 冗談はよしな」

「適材適所、俺は戦いには向かない……なんだその目は」


「ははーん……国からの報酬に不満ってわけね。朗報だ、いい情報がある。アンタの探し物もついでに見つかるかもね」


 ダン! と一枚の羊皮紙がカウンターに叩き付けられ埃が舞う。

 隣で寝ていた男がビクついた。


「…………これは!?」


 羊皮紙には魔法で刻まれた絵が描かれている。絵といっても精巧すぎて俺には写真と区別がつかないが。

 問題は技術よりその中身。

 長い金髪を後頭部で結って背に流した青いドレス姿の女性。が、目を奪われるのは衣装ではなくその顔だ。

 絶妙なパーツのバランスにはあどけなさと妖艶さが混在していて、青い瞳と縁取る瞼には見た者の心を囚われにする魔力を感じる。

 口元の微笑にはドレスを纏いながらも飾らない美しさで、さながら大自然のようだ。

 間違いなく過去現代異世界の万物を通して一番の芸術品。


 あの神が彼女を設計したのなら、あの煽りを帳消しにしても構わない、ただ感謝しかない。


「フランソワーズ第二王女。アンタも知ってるだろう? この国一の有名人さ」

「当然だ、馬鹿にしてるのか? 世界一美しく賢い姫、知らんのは人間じゃないとまで言われているだろ」


「……そうウチの国の姫さんが花婿を探しているとよ。強く賢い自分に見合う男をな」


 隣の男はあくび交じりにそう言うと羊皮紙を指し続ける。


「最も多くの戦果を上げた者には婚約、男として最高の栄誉を! なーんて言えば聞こえはいいが、相手があれじゃ自殺みたいなもんだ。まぁせいぜい……姫さんの隣に写ったその女くらいの美女でも嫁に貰って隠居したいもんだな!」


 言い終わると電源が切れたように机に頭を打ち付け、いびきをかき始めた。


「ま、そういうわけさ。それで見て欲しいのがその黒髪の女さ」

「ああ……黒髪でそれなりの美人、そして腰に……この剣は!」


 神のお使いを受けて一週間程度、俺は持っていた紙に記された手がかりを元にある人物を探していた。

 幸いとある縁でココに拠点を間借りしているが、肝心の当人の足取りは掴めなかった。神の権能に人探しは含まれていないらしい。

 条件はさっきの通りで、年のころや容姿、それと口調などが事細かに記載されていたが異世界一の国土を誇るらしいこの国の中で見つけるのは容易ではない。そのため容姿などは後回しに考えて一番特徴的な持ち物、剣に対象を絞って探していた。


 その剣は戦う意識を向けると姿を隠す。


 シンプルだがそれが故に発見は容易……かに思われた。が、どれだけ探そうが見つからない。剣士に戦意を向けることが癖になりつつある今日この頃ようやく報いの時が来た。


「見つけた……!」


「その顔、当たりみたいだね。姫の護衛じゃあ見つからないのも納得ね」

「ああそうか、見つけたはいいが会うのが困難だ……!?」


 思案するように入り口上部の窓に目をやると一つ華奢な影が横切った。

 神の権能で強化された視覚は瞬時に特徴を分析する。

 黒髪、10代後半の年頃、王族護衛隊の服、そして……


「消える剣……ビンゴだ」


「あっ、ちょっと!?」

「明日には戻る! 例の酒は取っといてくれ。おいそこの、どいてくれ!」


 酔いつぶれた男たちに声をかけるがピクリとも動かない。

 身体はすでに跳躍の準備をしている止められない。

 俺は何とか男たちの頭を避けるようにしてテーブルを足場にして窓を突き破り、夜の街に飛び出した。

今週中には次話投稿します

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