Episode・7
『実は私……「キーンコーンカーンコーン」』
一呼吸置いて、話始めようとするといきなりチャイムが鳴り出した。
(なんてタイミングの悪い……)
「お、もうこんな時間か。」
「すいません理事長。 そろそろクラスの朝礼に行かなくては。」
「うむ、一条先生と、裕翔くんはもう行きなさい。 さて、葵くんは少しここに残って話をしよう。」
(え? これから私もクラスに行って、自己紹介とかするんじゃないの??)
「ん? 葵くんは、今日は顔合わせだけで帰るのではなかったか?」
私の疑問が顔に出ていたのか、理事長が説明する。
『え、いや、そんなの聞いてな……』
「昨日父様が言ってただろ。聞いてなかったのか?!」
あー、そう言えばそんなこともあったような、なかったような。
「取り敢えず、二人は早く教室に向かいなさい。」
「失礼いたします」
「失礼いたします……」
本当に時間がないのだろう。 一条先生はかなり急ぎめに、裕翔は少し納得のいかない様子で退出した。
「さて、それじゃあ葵くん。 お話の続きを聞こうか。」
この人生徒に"くん"を付けて呼ぶタイプの人なんだな〜と思いながら、私の事情を説明する。
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「つまり、君はこことは違う世界で殺されて、その魂だけが葵くんの体にはいったということか?」
『うーん、多分そのような感じだと思います。昨日の夜、スマホで調べたら、結構そうゆう系の小説とかがあったんですよね。』
「え、スマホ? 使えるの??」
ふふん。そうだろう、そうだろう。
昨日の時点では「この薄っぺらい箱は何かしら?」だった私が、一晩でスマホを使えるようになったなんて信じられないだろう。
『お恥ずかしながら、昨日の夜、メイドに頼んで、この世界に適応する最低限ルールを学習しましたの。 あ、記憶喪失の振りで。』
「そ、そうなのか。」
だから私はもうスマホが使えるし、箸も使える。
今日の朝だって、車のシートベルトを誰にも言われずに装着したのよ!!!!
『現実味のない話だと思うのですけれど、信じていただけますか?』
「実に受け入れ難いが、話の筋は通ってるし、おかしな点も見つからない。 まぁかと言って、すぐに信じられるわけではないけどな。」
さすが理事長。 頭の回転が速い。
「ご両親には?」
『言っておりません。』
「そうか。 ふむ、では元の葵くんの魂?はどこに行ったのかね?」
そう。そこが問題なのよね。
『分かりません。もし、あの事故で無くなって、消滅したのかも知れませんし、元の私の体の中にはいったという可能性も。』
(あれですわ! 愛梨に教えて貰った、《入れ替わってるぅ〜!?》ですわ!!)
「融合した。ということは無いかな?」
『融合、ですか。』
胸に手を当てて考える。
今のこの葵の体の人格は100%私、ミーナが占めている。
もし、今は眠っているだけで、まだ葵の人格があったら?
『……分かりませんわ。』
「そうか。 もし、融合した、というのなら、君、えぇっと」
『ミーナ・エルメラルダですわ。』
「ミーナくんがこの世界に適応するのが早いのも説明がつく。」
(確かに、一理ある。)
「今はまだ、ミーナくんの意思が強いんだね?」
『はい。』
「それなら、ゆっくり経過を見ていこう。
ご家族に説明はする?」
『時期が来たら、話しますわ。』
(もし、葵が既に死んでいるのなら、皆悲しむだろうから。)
「勉強の方は?」
『この世界の教育水準が分からなくて……』
「なら今から少し確認テストをしよう。私がする質問に答えてね?」
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「驚いた。理系の方は全く問題がない。」
(実は魔術を使うのはかなり頭を使うのよね。)
「植物や動物がかなり似ているね。」
『はい。少し違いはあれど、ほぼ同じだと思いますわ。』
「ただ、問題は古典や社会かな。」
そう。私はこの国の、世界の歴史を知らない。
歴史が違うと、その世界の構成も必然と変わってくるので、かなり痛い。
「まぁ見たところ、頭は悪くない。というか、天才と言っても過言ではないし、2000年の歴史くらいは簡単に覚えられるだろう。」
『ええ、たぶん。 ちょっと量が多いので、全てを完璧に暗記するには、1日はかかると思うのですが……』
(いくら私でも、2000年も暗記するのには一日かかるわ。)
「い、一日……。 えー、ゴホン。 ところで今、君は何故日本語が喋れるのか?」
『分かりませんわ。ただ、喋ろうと思ったら、この言語が出て来るのです。』
「じゃあ、こちらも文法を覚えるだけみたいだな。」
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それからも約1時間ほど質問に答えたり、常識について話し合ったりした。
「いや〜、久しぶりに面白い話ができたよ。」
『あら、偉大なる理事長様にそう言っていただけるなんて光栄ですわ。』
「取り敢えず、今日はもう帰りなさい。明日からは教室で実際に授業をしたいだろ?」
『はい、速く溶け込みたいですわ。』
「それなら今日は明日のために、ぐっすり休みなさい。」
『えぇ、失礼しました。』