Episode・6
裕翔さんと一緒に校門をくぐると案の定、たくさんの視線に晒された。
(興味・好奇心・心配・訝しみ…… 意外と好意的な目が多いのね。 変わってしまう前の葵の人望が厚かったのは確かだわ。)
近くの生徒と目が合ったので、軽く笑顔を見せる。
(第一印象大切!)
笑顔を返された生徒が顔を赤らめ、周りの生徒が惚けていたのに気づいたが、敢えて何も言わず私は笑顔のまま校舎に向かう。
『何か?』
裕翔から意味深な目で見られる。
「いや……。取り敢えず今から理事長室に行く。父上の方から連絡はいってるはずだ。本当は母上にご同行願いたかったが、仕事があるから仕方ない。あとは事前に打ち合わせた通りだ。」
『分かりました。教師からの信頼なぞ、いとも簡単に勝ち取ってみせましょう。』
「程々にな……」
あちらの世界では、公爵令嬢だった。
周りには優しい人が多かったけれど、それでもやはり色々な人がいる。
(お妃教育で、手に入れた社交スキル、存分に発揮いたしますわ!)
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ーーコンコン
『「失礼致します。」』
二人で理事長室に入る。
「おお、やっと来たか鳳城くん達。ささっ、こっちに座って。」
四十代くらいの男性が招き入れてくれた。
中にはもっと若い男性が座っている。
きっと彼らにとって私は初対面ではないのだろうが念の為。
『お初にお目にかかります。私は鳳城 葵でごさいます。以後、お見知りおきを。』
そう言ってふんわりとした制服のスカートをつまみ、カーテンシーを披露する。
ちらりと見ると全員が目を瞠る。
これには裕翔も驚いたようだ。
(ふふっ。 してやったり……。)
「記憶喪失と聞いたけど……」
『もちろん間違いはありませんわ。えぇっと……』
「一条 夏樹。 君のクラスの担任だよ!」
『よろしくお願いします。』
「よろしくね。」
にこ、と淑女らしく微笑む。
「ほお。これは面白い。私は理事長の有田 喜長。」
『よろしくお願いします。』
「お前、その動作……思い出したのかっ!?」
『あぁ、これは嫌でも体に染み付いてるの。』
(ここに来るまで、ずっと考えていた。)
『頭がおかしいと皆様思われるかもしれませんが、どうぞ最後までお聞きになって?私の秘密を。』