終わりの始まり
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何もない暗い道を、一人で歩いていた。
特に、誰かに追われているわけでもなく、はたまた誰かを追っているわけでもない。
ただひたすら、だだっ広い道を歩いていた。
何かの帰り道だったのか?
それとも、これから何処かへ向かうつもりだったのか?
現状の自分では、皆目見当もつかない。
…少し立ち止まり、思い返してみようと思う。
おそらく大した事ではないはず。
多分に酔いが回っているようにも感じる。
申し訳ないが、少しの間ではあるけれど、お時間を頂きたい。
何しろ不安で仕方がないのだ。
気がついた時には、荒天の見知らぬ街の中、傘も持たずに歩いているのだから…。
思い出したのは、ファミレスでの風景。何時間前かは分からない。
「この前ね、司と遊んできたんだ。思ったよりいい人だったよ。」
いつもと変わらない笑顔で、彼女が切り出した。
「…そうなんだ。楽しかった?」
素っ気なくアイスティーに口をつけて、俺は返した。
少し考えるような仕草をしながら、「うーんとねぇ…。楽しかったのは楽しかったんだけどさ、なんか悪い事をしてるんじゃないかなって思っちゃって、純粋に楽しいって思えなかったっていうか…。」
歯切れ悪く、彼女は感想を述べていた。
その様子から、何かしらのアクシデントなりハプニングなりの気配を察してしまった。
「何かされたの?…言いたくないなら、無理に聞かないけど。」
不安が限界を越えてしまったのか、気づいたら俺は、彼女に問い質していた。
「…付き合おうって言われた。あっ!でもね、彼氏がいるって断ったんだよ?だけど駅でバイバイする時にその…キスされて…。」
俯きながら彼女は告げた。
あまりの衝撃に、正直なところ、頭が真っ白になった。
更に彼女は言う。
「それで私…どうしたらいいんだろう?」
「別れようか?」
間髪入れずに、俺は返した。
しばしの間の後、涙目になっている彼女に続けた。
「俺がいるって事実があるから、惚れた司の方に行けないいんだろ?だったら俺がいなければ、万事解決じゃないか。」
「違…。そうじゃないよ…。そうじゃなくて…。」
「何が違うか分からないし、俺に何も言わないで二人だけで遊びに行ったんだから、少なからず理沙も何かを期待して行ったって事でしょ?」
「違うよ昴!ちゃんと話しを聞いてよ!」
ボロボロと涙を零しながら、彼女は言う。
「…何が違うの?」
聞くだけ聞こうと思い、俺は彼女の言葉を待った。
「あのね?いつものグループチャットで、司がこの近場に仕事で来てて、明日には帰るから少しだけ案内してほしいって言うから、少しだけならって思って…。」
泣き声混じりのまま、弁明の限りに彼女は言っているように見えた。
それでも俺は、その疚しい気持ちは無かったなんて、甚だ信じられる気持ちではなかった。
「ネット上の知り合いで、顔も知らない人なのに、そんな簡単に会うような人がの言う事、すんなり信じられないよ。」
そう俺が告げるや否や、彼女はファミレスのテーブルに伏せて、嗚咽を漏らしながら「ごめんなさい…違うの…」と言うだけだった。
「じゃあ、そういう事だから…。」
テーブルに2000円を置いて、俺は席を立ち、店を出た。