完結編
睡眠障害を抱える男岩崎は、高校生のユリがイジメにあっていると聞く。岩崎はそれを
聞き泣きじゃくるユリが落ち着くのを待っていた。
どれだけ時が経ったのか。岩崎の隣にいるユリはようやく疲れたのか、呼吸は落ち着きを
取り戻し涙も出しつくたみたいだった。
岩崎はユリにお茶を飲むようすすめるとユリもそれに従いお茶を口に運んだ。
ユリがお茶を飲みこみ、大きく呼吸したのを確認した岩崎はおもむろに話し始めた。
「おじさんはさ、睡眠障害をかかえているんだ。」
その言葉にユリは耳をピクリと反応させた。そして岩崎は続ける。
「おじさん、その病気になってから仕事もまともにできなくなってクビになったんだよ。そのこと
で恋人も去った。友達もいない。」
岩崎は今にいたる経緯をユリに聞かせていた。なぜ話しているのかは本人にもわかっていない。
だが、それでも岩崎はユリに聞いてほしかった。岩崎は続けた。
「おじさんの病気は別に治らないものじゃない。いつか治るものだと信じてる。だから少しでも
マシになるようにしている。けど、そんなに簡単なものじゃないのは分かってるけど、これが
またなかなか安定してくれないんだ。」
ユリは岩崎から受け取った水筒のコップを両手に抱え今で膝元に置いていた。
岩崎は続けた。
「睡眠障害は本人にしか苦しみを理解されにくくてね。周りに話しても甘いとか努力しろって
言われちゃうんだよね。いくら説明しても誰も理解しない。そういうものなんだ。
おじさんはこうなって理解してもらうことを諦めたかった。そうなりそうだった。
でも、おじさんはこう考えた。自分が理解してほしいと思うなら理解されるよう努力
するだけだって。だから食堂でボランティアをすることんいしたんだ。」
岩崎がそう言うとユリは岩崎の顔を見た。そして理解されるためにボランティアをするという
ことがどういうことかを岩崎に聞いた。
岩崎は少し考え込むような顔をしたが、空を見上げ話し始めた。
「うん。思うに改めて自分の居場所を作りたかったんだと思う。おじさんは病気でうまく
起きれないから、仕事とかは行きたくても行けない。でも、ボランティアならいけないそういう
無理を強いられない。おじさんでもやれることをやっていればそのうち道が開けるんじゃないか
ってね。」
そういい終わり、岩崎は少し寂し気な笑顔をユリに向け再び空を見つめだした。
ユリも岩崎のように顔をあげて見せた。空には星一つなくただ漆黒があるだけだ。
ただただ広大な暗闇を見つめていると、ユリはなぜだか心が落ち着くのを感じた。
ユリは黙って空を見上げ続けた。
岩崎も同じように見上げ続けていた。
「岩崎さん。」ユリが口を開く。
「私も誰にも相談することが出来ませんでした。それで人に迷惑をかける。そう思っていました。」
「迷惑?」岩崎が聞く。
「はい。私のことで心配をかけることが迷惑だと。そう考えていました。」
岩崎が答える。
「人に相談することは迷惑なんかじゃないさ。」
「はい、今は相談することで楽になれた気がします。」ユリが言った。
「悩みは自分の中でしか大きくならないんだと思う。だから悩みは早く外にだしてやらないとね。」
ユリはそれを聞き、この夜空のようなものかと思い始めた。
「で、学校はどうするつもりなんだい?」岩崎はユリに聞いた。
「まだ分かりません。でも」ユリは考え込むように間を置いた。
「でも、逃げるようなことはしたくなくなりました。だから、転校します。そうして高校生を
つづけてみます。」
ユリは泣いていたのがウソのように真っ黒い瞳でそう答えた。
それを聞いて岩崎はすくりと立ち上がり
「さあ、寝る時間だ。帰ろう。」
そう言って一つ大きなあくびをしてみせた。
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