エピソード6
ボランティア活動先の食堂で岩崎はユリという孤児の高校生をであった。ユリが
高校を辞めると知った岩崎はユリにその理由を聞く。はたしてユリの抱える問題とは?
岩崎とユリは近くの公園に来ていた。岩崎は水筒に入れたお茶をコップに注ぎユリに渡した。
「まだ口つけてないから、飲んで。」岩崎がそう言うと、ユリはそれを受け取った。
ゆりはそれに口をつける様子がない。ただ、下を向きうつむいていた。
岩崎は星を見つめながらユリにどうやって切り出すか考えていた。内容はもちろん学校を辞めると
いったことだった。
「あの・・・。」意外にもユリから口を開きだした。
岩崎はユリのほうへ顔を向けた。
「なんで声をかけてくれたんですか?」ユリは疑問を口に出す。岩崎は正直に答えた。
「食堂の上野さんから聞いたんだ。君が高校を辞めるっていう話をね。それでおじさん、どうして
辞めちゃうのかと疑問に思ってね。そしたら君が歩いてたから、つい声をね。」
それを聞いたユリはしばらくうつむいたままだった。岩崎はそれ以上は追及せずに再び顔をあげて待った。
しばらくそういった時間が流れた。遠くで車の走る音が聞こえる。
そうこうしているとユリはようやく、その重い口を開いた。
「私は孤児です。なので、学校へ通えているのは支援団体のかたがたの支援金があるから
です。それとは別に、生活費のためにアルバイトをやっています。学校が終わったあと終電近くまで3か所掛け持ちしてます。」ユリはそう言うと、岩崎から渡されたお茶を少し口にふくんだ。
それからまた言葉をつづけた。
「私は高校を卒業したら働く予定でいます。働いてお世話になった人たちに少しでも恩返しが
できたらと考えていました。でも、もうそれも出来そうにない。私、今、いじめにあっているんです。」
「いじめ?」岩崎がユリの言葉に反応し、問い返した。ゆりが更に小さく答えた。
「はい。」
岩崎はユリにイジメのことを追及した。すると、こんな内容だった。
ユリが孤児なのは、ユリのまだ幼いころ両親が交通事故にあい亡くなったことによるものだった。
ユリは一人で生きて行くことになった。
親族に頼れるものがおらずユリは施設へと預かられた。両親が亡くなったことで
ユリは精神的な負担を負うことになった。だが、カウンセリングなど医療的ケアをうけ続けているうち
にユリはそのショックから立ち直り、高校まで進学することになった。
学校生活もとりわけ特別なことはなかった。友達もいた。本人の努力もあり成績も悪くなかった。
だが、ある時その日常が一変した。急にみながよそよそしくなり、声をかけても返事がこなくなった。
徐々にだがその状況は悪化をたどった。物を隠されたり、机に落書きされたり。
そしてとうとう、本人にまで危害がおよびはじめたのだった。
それでも、ユリは高校に通った。ユリは高校を卒業すると決めていたからだ。
その姿がイジメを取り仕切る者にとって不愉快だったのだろう。
とうとう教室でその者はハサミを手に取り、ユリを仲間に抑え込ませ髪をめちゃくちゃに切って
しまったのだ。
「私が孤児だから、そう言われました。」
ユリはそのすべてを岩崎に打ち明け終わると、肩を震わせ泣き始めた。
その涙は頬を伝い、ユリのひざへとこぼれ落ちた。とめどなくあふれ出す感情をユリは隠すことはできなくなっていた。
岩崎はただ隣に座りユリが泣き止むのを待った。まだ少し汗ばむ八月のある夜のことだった。