エピソード5
睡眠障害を抱える岩崎はボランティアで孤児たちのための食堂に出入りすることになった。
そこである暗くする女子高校生ユリと出会う。ユリはなにやら悩みを抱えているようだ。
岩崎は再び食堂の入る商業施設へと車を走らせていた。今日は寝れたおかげか過ぎていく
景色がいつもより光って見える。岩崎は施設へと到着すると早速、食堂へと足を運んだ。
昨日のように上野が笑顔で出迎えてくれる。岩崎はかるく挨拶しおわるとキッチンへと向かった。
キッチンには吉野の姿がなかった。田中もまた笑顔で岩崎を迎えた。
「今日は吉野さんはいらっしゃらないんですか?」
岩崎は田中に聞く。
「吉野さんは家でご両親のお世話もなさってるから、週に2回しかいらっしゃらないんですよ。」
そう田中は岩崎に言った。なるほど。ボランティアの他に介護もしているのかと岩崎は思う。
岩崎の両親はまだ60すぎなのでその心配は今のところない。だからといってそのことを考えない
わけではないから、そんな田中の姿に岩崎は少し感心を覚えた。
岩崎と吉野は手分けしながら約10名の子供たちの食事を作り始めた。
その日は2人だということもあり、少しばたばたしながらも丁寧に作業をすすめるあたりは
さすがだった。
準備が整いだしたころ、子供たちがやってきた。1人、2人と徐々に増えていき10名くらいが
また集まった。
その日のメニューはオムライスだった。なで恒例のいただきますを唱え食事に入った。しばらくし、食事を食べ終えた子たちが談笑して
居るときだった。
高校生の女の子がやってきた。昨日いち早く帰った子だった。
その子は席につき提供されたオムライスを食べ始めたのは8時を回っているころだった。
昨日も少し思ったが、なんだか暗い雰囲気のこだなと岩崎は感じていた。
食べる時も下を向いたまま食べるのだから、岩崎がそう感じるのも不思議ではなかった。
帰る子供たちがいるなか、その女子高生はまだ3分の1も食べ終わっておらず最終には岩崎、上野
、女子高生の3人だけとなっていた。
「岩崎さんも今日は帰られていいですよ?」と、上野が言った。
「まだ大丈夫です。」と岩崎は返す。
岩崎はもともと料理人をしてたころから人が食べる姿をみるのが楽しいことだったものだから
その女子高生の様子が少しきがかりにもなっていた。
ようやくオムライスを食べ終わった女子高生は
「ごちそうさまでした。こんな時間まですみません。」と言う。明らかに声に元気がなかった。
「おくちに合わなかったかな?」岩崎はつい口を出して言ってしまっていた。
「あ、いえ。おいしかったです。」そう返すその子の顔は明らかに暗い。
「なら良かったけど。」そう返すのが岩崎なりの気遣いだった。
女子高生が帰ったあと、上野と二人でいると岩崎に上野がお疲れさまですと声をかけてきた。
お疲れさまでした。と岩崎は会釈をすると、上野が重そうに口を開いた。
「岩崎さん、さっきのユリちゃん。あ、あの女子高生のことね?あの子、高校を辞めなきゃいけなく
なっちゃって、いますごく落ち込んでいるの。」
それを聞かされた岩崎は妙にしっくりくるような感覚になった。だが、1つ疑問があった。
「どうしてあの、ユリちゃんって子は学校を辞めるんですか?」と岩崎が聞く。
「それはわたしにも話してくれなくてわからないんですよ。」上野はそう言って顔を下げた。
「そうなんですね。」岩崎は一言そう言うだけだった。
帰り道、岩崎が車を運転しているときのことだった。赤信号になり車を停止し、ふと
沿道に目をやると先ほど話があがっていたユリがうつむきながら歩いているのを見つけた。
岩崎は窓をあけユリに話かけた。
「ユリちゃん。俺、岩崎です。あ、食堂にボランティアで来てるものです。」
ユリは岩崎の声に反応し顔を向けた。ユリのほほに涙が流れているのが見えた。