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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

独裁社畜

作者: 笹大福


「ーーーーーー!!ーーーー!」

「すいません!すいません!」


(また課長広田さんに怒鳴ってるよ)

(仕事も押し付けられてるらしいよ、広田さんいつか辞めるよ)

(その前に自殺するかもよ)

(もーやめなよー)


節電の為に消された室内灯、昨日から変化のない書類を傍らにパソコンに向かい合う。腕時計は終電の時間を過ぎていた。

何日何ヶ月とこんな生活をしている。疲れはもはや親友のようだ。

最初は不平不満を思ったり言ったりしたが、無意味だとわかった時からはただ事務的に仕事を繰り返している。

いつか仕事を辞めるかその前に死ぬか、頭の片隅で警告として鳴り響いてるがカフェインを流し込んで黙らせている。

「驚く程の社畜だな」

我ながら酷くそう思う


しばらくして自分の心の中の自虐てはなく、鼓膜が震えたことに気がついた。

こんな時間に残っている人間は俺以外に居ないと思っていた、もちろん警備員も帰っている。

勝手に口が動いたのかとも思ったが喉は謝罪で枯れた、声を出そうと思えば痛みも伴うはずだ。

「働き過ぎで目も腐ったか、それとも脳か?」

やっと気がついた、積み上げられた書類の上に黒い男が座っていた。

「よぉ夜分遅くまでごくろーさま、大丈夫?ちゃんと認識してる」

目の前で手をヒラヒラと振られた

「あーまー少し不安だがちゃんと認識してるな。じゃあさっさと話を進めよう、お前」

男がこちらを指さす

「嫌いな奴を思い浮かべろ、特別だ『消してやるよ』」

理解した。これは夢か、前にも課長を殴り殺した夢を見た、これもその類か

なら楽しむ他ないだろ。心いっぱいににっくき課長の顔を思い浮かべた。

「驚くほど憎んでるな、明日楽しみにしとけよ」

殴り殺せないのか畜生


パソコンの光に目が覚めた、やはりさっきのは夢か


次の日、課長が消えていた。今では夢の内容が朧気だが、課長が消えるように願ったのはハッキリと覚えている。


(課長無断欠勤だって)

(えーこわーい、広田さん何か知ってるんじゃない)

(もしかしたら広田さん殺したんじゃないの)

(こーわーいー、でもありえそー)


今日も誰も居なくなった室内で残業に勤しむ、課長は消えても仕事は消えてくれなかった。

いつもと変わらない仕事量、ただ少し気持ちが晴れやかだった。もしまたあの男に会えたら礼を言おう

「嫌いな奴を思い浮かべろ、特別だ『消してやるよ』」

会えた…


その日から俺はひとり、またひとりと消した


タメ口の後輩を

仕事を押し付けてきた上司を

陰口を吐くやつを

肩にぶつかってきたやつを

態度の悪い清掃員を

挨拶しない受付を

目を逸らす同期を消し続けた


誰もいない室内で業務に勤しむ、いつも通りの仕事、いつもと違うのはこれで終わること。

何日何ヶ月と終わりの見えなかった仕事が終わる。そこに達成感などなく、ひたすらに虚無感を覚えた。

「嫌いな奴を思い浮かべろ、特別だ『消してやるよ』」

あの日から決まった時間に男が話しかけてきた

「もう、嫌いなやつどころか人すら居ないよ」

いつの頃から目に映るやつを全て憎んだ、その結果このビルはただの箱となり果てた。

「そう言えばあの時から一言も礼を言ってなかったな。ありがとう、お前のお陰で雑音もなく業務に集中できた、この仕事ももう終わる」

男に目を向けると、そこには影も形も無くなっていた。もう用済みなのか、礼はちゃんと聞いていたのか、そんなことを考えながらパソコンを閉じた。

腕時計を見ると余裕で終電に間に合う時間だった。

明日辞表を出そう、受理してくれる人が居ないが

室内を出る為扉を開く


「ならお前が消えるか」


パソコンの光に目が覚めた、やはりさっきのは夢か

いや、何処からが夢だ。

書類はうずたかく積み上げられていた。もしかしたらあの男出会った時の全てが夢なのかもしれない

元々達成感など無かったが終えた業務をもう一度やるとなると来るものがある、いいや辞めてしまえばいい

明日辞表を出そう、受理してくれる人はちゃんと居るはずだ

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