プロローグ
少女は夢を見ていた。
少女と同い年と思しき少女と少年が青い火花をまき散らしながら兵刃を交えている。
一点の曇りもない白銀の剣を持った少女は攻撃の隙を全く与えず、籠手を装備した少年に斬撃を浴びせていた。
―――まずい。
少女の圧倒的な強さに防戦一方となり圧されているのを焦った少年はなんとか反撃しようと試みるが、少しでも防御の姿勢を解いたらその鋭利な切っ先が自分の体を貫くのは目に見えていた。
―――どうすればいい。
このままでは確実に殺される。
現実の湧かない事実に頭が全くついていかない。
額から冷たい汗が大量に吹き出てくるがそれを拭うことも出来ず必死に生き残る術を探す。
許しを請う?いや、少女はそんな懇願を切り捨てるだろう。
解決策を模索するがどれも失敗に終わるものばかりだ。そんなことを考えている間も非情にも時間は進んでいく。
「ぐっ……!」
やがて少女の攻撃を耐えきれなくなった少年は強烈な一撃を喰らった衝撃で身体が仰け反り、そのまま地面に叩きつけられた。
―――いやだ。
「私は、謝らない」
鈴のように凛とした声を発しながら少女はコツコツと靴の音を鳴らしながら少年に近づく。
―――死にたくない。
「私は、私の願いの為にあなたを殺す」
やがて少年の足元までたどり着くと少女は剣先を少年の胸に突き付けた。
―――生きたい。
「せめて、苦しむ暇もなく死なせるわ」
少女の顔には感情が何一つ宿っていなかった。彼女は確実に躊躇せず息の根を止めるだろう。
―――ああ。
「さようなら」
ズブ―――
胸が焼けるように熱い。
無機質な鉄が少年の身体に入っていた。
スッ―――
開いた穴からとめどなく紅い液体が流れ落ちていく。
―――ああ。
少年は赤い液体を見て理解する。
―――俺は。
急速に目の前の視界が暗くなっていき暗闇の世界が広がっていく。
―――死、ぬのか。
最後の力を振り絞り、視線を少女に向ける。
少女の頬に光る一筋の線からやがて透明な雫が少年の顔に落ちていく。
少年は暗黒の淵に落ちていく感覚を感じながら少女から滴り落ちた水の正体を確かめる時間もなくやがてプツリと糸が切れたように動かなくなって―――。
「―――はぁっ!はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」
少女は息を切らせながら夢から覚めた。
化粧台やタンスなど必要最低限の調度品意外に何も置いておらず、ただっ広い部屋の中央に天蓋が付いたベッドに寝ていた少女は乱れた息を宥めるように深呼吸を繰り返した。
「……ああ、なんてこと」
眠り続けて1週間。ようやく待ちわびた夢を見ることが出来たがこの内容はあまりにも残酷で、悲惨な未来だった。
「私の、いや、この国の救世主は……」
信じたくない現実を改めて再確認する。
「死んでしまう……!!」